「どぼづけ」とは、野菜の糠漬けのこと。辞書にある関西での正称は「どぶづけ」となっている。糠に塩と水を混ぜて発酵させた糠味噌を、日ごとかき混ぜて風に触れさせ、水気が多ければ、塩を加えてご機嫌をうかがったり。近年までは台所を預かるものが、何代にもわたって面倒をみることが当たり前だった。

 一般に、糠味噌の床のことを「糠床」と呼ぶけれど、かつて京都では「エェ」と呼んでいたそうである。口頭で聞いた話なので、今となっては真偽が定かでないのだが、昔の京都人のあいだでは、「どぼづけの“エェ”の機嫌がよーて、色ようつかっとるわ」みたいな感じで、話されていたようだ。昭和の半ばぐらいまでに建築された木造住宅の多くは、台所の板の間の床板は「揚げ板」という構造になっていて、数枚の床板を外せるようにしてあった。その床下は陽の射すことのない冷暗所なので、「どぼづけのエェ」をはじめ、おばんざいの食材になる野菜や乾物、ほかの漬け物の甕(かめ)などの保存に適した場所だった。

 暑い夏の食卓には、胡瓜や茄子の「どぼづけ」は欠かせないもの。どちらの野菜も年中手に入るからこそ、太陽の光をいっぱいに浴びて、みずみずしく、味の濃い旬のものが、余計においしく感じられる。ちょうど手に入れば、茄子は表皮が薄く、肉質の柔らかい「山科なす」という品種が「どぼづけ」に向いている。この品種は元来の露地もので、大量出荷に適していなかったため、一時途絶えていた。昭和の初めごろまでは、京都の茄子といえば「山科なす」のことだったそうである。現在は品種改良が行なわれ、栽培が復活し、以前とほぼ同等の味わいが楽しめるようになっている。

 

   

京都の暮らしことば / 池仁太   



 自慢ではないが大学時代、第二外国語はドイツ語だったが「Ich liebe dich.」しか覚えていない。

 言葉は話せないがドイツへは何度も行った。西ベルリンで開かれた国際会議に出席した際、東ベルリンへも行ってみた。バスの車体の下まで金属探知機で調べる厳重な検問にはいささか辟易したが、いくつかのビルに戦争中に撃ち込まれた弾の痕を残す東ベルリンの街はしっとりとした落ち着いたたたずまいだった。

大学の町であるハイデルベルクの美しい夕暮れ時、どこからか流れてくる学生たちの歌声に心が洗われる気がしたものだった。

 ドイツと日本の国交は江戸末期に始まり、政治、経済、文化から軍事までドイツから多くのものを取り入れてきた。伊藤博文が大日本帝国憲法を作成するにあたってドイツ憲法を手本としたことはよく知られている。私の世代にはドイツを兄のように慕った明治の人たちの想いがわずかだが残っている気がする。

 だが、第二次世界大戦で敗北したドイツと日本の戦後の歩みはかなり違ったものだった。アメリカの占領下に置かれた日本は、アメリカの影響力の下で経済力をつけてきたが、ドイツは東西に分断され、ソビエト連邦が崩壊した後の1990年に再統一されるまで続いた。

 ともに経済大国となった両国だが、世界からの信頼感にはかなりの差ができてしまった。それは戦争責任の取り方にも表れている。

 以下は、1985年に行なわれた有名なヴァイツゼッカー大統領の演説「荒れ野の40年」(『ヴァイツゼッカー大統領演説集』〈岩波書店〉より)の抜粋である。

 「罪の有無、老幼いずれを問わず、われわれ全員が過去を引き受けねばなりません。全員が過去からの帰結に関り合っており、過去に対する責任を負わされているのであります。
 心に刻みつづけることがなぜかくも重要であるかを理解するため、老幼たがいに助け合わねばなりません。また助け合えるのであります。
 問題は過去を克服することではありません。さようなことができるわけはありません。後になって過去を変えたり、起こらなかったことにするわけにはまいりません。しかし過去に目を閉ざす者は結局のところ現在にも盲目となります。非人間的な行為を心に刻もうとしない者は、またそうした危険に陥りやすいのです。(中略)
 若い人たちにかつて起ったことの責任はありません。しかし、(その後の)歴史のなかでそうした出来事から生じてきたことに対しては責任があります」

 今の日本に決定的に欠けている「過去に対する慚愧(ざんき)の念」がここにはある。こうしたことが、かつて侵略し多くの人たちを殺戮した隣国からの信頼を回復させ、EUの事実上のリーダーと認められるまでになったのである。

 『週刊現代』(7/4号、以下『現代』)は、同じ敗戦国なのに世界の評価がこんなに違うのはなぜかという特集を組んでいる。

 いまや新車販売台数で世界1位となったVW(フォルクスワーゲン社)と業務提携をしたトヨタ自動車の幹部社員が、「技術職の人間は相当辛い目にあったようです。トヨタ側は自社で培った技術を惜しみなく教えるのですが、VW側は一切教えてくれませんでした。『自分たちが世界一の自動車メーカーだ。トヨタから学ぶことなどないし、教える必要もない』と考えていたのでしょう」。仕事中は無駄話をしないし、終わるとすぐに帰ると言っているが、ドイツ人からすると、仕事中でも無駄話ばかりしている日本人のほうがおかしいと思っているはずだ。

 『現代』は、両者の国際的な評価がここまで違ったのは「したたかなドイツ人」と「優しすぎる日本人」の性格の違いだとしているが、浅薄な見方である。

 強靱なドイツ人と優柔不断な日本人だからである。ドイツ在住の作家・多和田葉子(たわだ・ようこ)氏が政治の話をするときの違いについてこう言っている。

 「彼らは自国の社会を批判するときでも、明快で建設的に議論します。頭を使って、言葉を使うこと自体が、彼らにとって高揚感にも繋がっているのでしょう。日本では、そうはなりません。周囲のことや社会、政治に不満があっても、『そんなことは忘れて飲もうよ』となる」

 先ほど言った戦争責任の問題でも賠償問題にしても、ケジメをつけるところはきちっとし、「ギリシャからナチスドイツの非道に対する賠償金36兆円を求められているが、『解決済み』とし、払う必要はないと態度は明確」(『現代』)。要は謝るべき時には徹底的に謝る。日本のように曖昧にして長引かせないのだ。

 メルケル首相の外交手腕も評価が高い。ロシアのウクライナへの軍事拡張にはEU諸国と足並みを揃えて反対したが、旧ソ連がアウシュビッツを解放してくれたことに対する礼を示すため、プーチン大統領と一緒に戦争の犠牲者が眠る墓に揃って花を供えるという、高度な政治力を見せた。

 安倍首相がいろいろな国を回ってカネをばらまいているが、尊敬を集めないのとは対照的である。

 『現代』で、両国の勝敗を見てみよう。今年2月にドイツの株価指数は1万1000ポンドを突破して過去最高を記録した。国民一人当たりのGDPでも、ドイツは4万7000ドル、日本は3万8633ドル。

 14年にドイツは財政黒字になったが、日本は一向に回復の兆しが見えない。自動車でも世界のVIPが乗るのはドイツ製のベンツやBMW。人口は日本がかなり上回っているが、ドイツでは移民を受け入れているため、年々増加している。

 消費税は日本が8%、ドイツは19%だが、食料品や本は7%に軽減されている。月の労働時間は日本が144.6時間、ドイツは115.7時間でドイツのほうが短い。

 失業率は日本が3.4%、ドイツが4.7%で日本の勝ち。出生率も日本が1.41人、ドイツが1.38人で日本の勝ち。ここにはないが3・11を機に2022年までに原発を全廃することを決めたドイツと再稼働に執念を燃やす安倍政権では、圧倒的にドイツの勝ちであろう。

 こうして見てみると、人情やサービスのよさなどの「住みやすさ」では日本に分があるが、国としての成熟度や政治・外交力などの国際的な評価ではドイツの圧勝となる。200年近くたっても「賢兄愚弟」の関係は変わらないようである。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 政権に批判的なことを書く新聞などのメディアには広告を出すなといったバカな作家や政治家の発言が問題になっているが、トヨタクラスの大企業になると、役員が逮捕されても後追い取材は新聞もテレビもほとんどしない。そんなときは週刊誌の出番だが、トヨタの社内規制が厳しいのか、驚くような話は出てこないのがチョッピリ不満だがね。

第1位 「麻薬密輸で逮捕 トヨタ抜擢米女性役員の素顔」(『週刊文春』7/2号)/「トヨタ女性役員が溺れた麻薬『オキシコドン』の快感」(『週刊ポスト』7/10号)/「トヨタVS.警視庁『麻薬』常務をめぐる攻防」(『週刊現代』7/11号)
第2位 「地方局女子アナ『7月デビュー』でAV業界に革命が起きる」(『週刊ポスト』7/10号)
第3位 「山口百恵 息子の明暗 弟は映画年10本も兄はスーパーでライブ」(『週刊文春』7/2号)

 第3位。山口百恵(56)と三浦友和(63)夫妻には息子が二人いて、二人とも芸能界へ進んだが、くっきりと明暗が分かれているというお話。
 弟の三浦貴大(たかひろ)(29)は「いま日本映画界からもっとも期待される存在です。仕事のオファーが殺到し、慎重に選んで断っているものもある状況だそうです。今年、映画だけで十本も出演する“超売れっ子”です」(スポーツ紙芸能デスク)。『RAILWAYS』でデビューし日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。その後も『わが母の記』、高倉健の『あなたへ』などに出ている。
 一方の兄・祐太朗(31)は母と同じ歌手になり、バンドを組んでデビューしたが2年後に活動休止。その後、松山千春の自叙伝をもとにした舞台の主役に抜擢されたが、集客はままならずCDも千枚単位でしか売れなかったという。
 写真で見る限り貴大は両親のいいとこをとり、祐太朗は母親似だが華がなさそうだ。偉大な母を持った二人は、これからどう生きていくのか。父・友和は心配でたまらないのではないかな。

 第2位。AV業界のことなら『ポスト』にお任せと、今週もバリバリ地方の局アナだった女性が7月にAVデビューすることで、業界革命が起きると報じている。
 何しろAV業界の市場規模は『ポスト』によると、映画産業の倍の4000億円超といわれるそうだ。年間3万5000本もの作品が製作されるというから、あるAV監督にいわせると「渋谷のスクランブル交差点で石を投げればAV女優に当たる」というほどだそうだ。
 先の元地方局アナウンサーの芸名は「皆道(かいとう)あゆむ」と言うそうだが、地方局に勤務していたことは間違いないそうである。だがメディアに露出しないのは、いまは一般企業に勤めていて、勤務先にバレるのが怖いからだという。
 ほとんどのAVが顔のクローズアップなどしているのに、バレないのか? メイクを工夫するとわからないそうだが、ホントかね?
 AV女優になりたい女性は多くて、面接しても断ることがあるそうだ。そうした中で需要が多いのは「現役」の看護婦や教師、女医などだそうだ。
 だが「現職」でもそれを打ち出せない職業もあるという。現役自衛官がそれだ。AVメーカー関係者によると、現役の女性自衛隊員は、知っているだけでも5人いるという。

 「バレると自衛隊をクビになるだけでなく、新聞沙汰になり社会的な制裁も受けますから」(AVメーカー関係者)

 亡くなってしまったが、鬼才・若松孝二だったら女性自衛官を主人公にして過激な「ピンク映画」を撮ったのではないか。美人自衛官がイスラム国のゲリラたちを次々に「悩殺」していくような映画かもしれない。

 第1位。今週最も話題なのはトヨタの女性役員の逮捕だろう。だが、新聞もテレビも大スポンサーに気兼ねしてかほとんど続報がない。こういうときは週刊誌を読むしかないのだ。
 6月18日、トヨタ自動車の女性常務役員ジュリー・ハンプ氏(55)が麻薬取締法違反(輸入)の疑いで、警視庁組織犯罪対策五課に逮捕された。超一流企業の役員がなぜ? そう思った人は多いだろう。
 逮捕容疑は、麻薬である「オキシコドン」を含む錠剤57錠を密輸したというものだ。
 『文春』によれば、アメリカのセレブの間でオキシコドン中毒者が増えており社会問題化しているという。薬物依存厚生施設「東京ダルク」の近藤恒夫氏が解説する。

 「もともとは末期ガン患者に使用される鎮痛剤で、医療用麻薬です。モルヒネが効かない患者に使われるため、相当強く、乱用すると多幸感と陶酔感が得られ、抜け出せなくなります。医者の処方箋があれば手に入るので、医師にパイプのあるエリートやセレブを中心に、乱用が広がっています。09年に亡くなったマイケル・ジャクソンも、オキシコドンの依存症でした」

 ハンプ氏は1959年にニューヨーク州クイーンズ地区で生まれた。ミシガン州に移り、州立大学でコミュニケーションを専攻し、同州のデトロイトに本社があるゼネラルモーターズ(GM)に入社した。
 GMでは南米、中東、アフリカの最高広報責任者(CCO)を経て、GMヨーロッパの副社長になったという。そして2012年にCCOとして北米トヨタに移籍し、今年4月、複数の候補の中から本社役員に抜擢されたそうだ。
 『文春』で捜査関係者は「ハンプ容疑者は、取り調べに対して、麻薬だと分かって輸入したことをすでに認めている。強力なヤメ検弁護団を使って国外退去処分は避けたいと考えているようです」と語っているが、このままトヨタにいられるのだろうか(編集部注:6月30日で辞任)。
 彼女が逮捕された翌日、トヨタ東京本社の会見場で豊田章男(あきお)社長は約200人の報道陣を前に、こう話している。

 「ハンプ氏は私にとってもトヨタにとっても、かけがえのない大切な仲間でございます。従業員は私にとって、子どものような存在です。子どもが迷惑をかければ謝るのは親の責任。ハンプ氏に法を犯す意図はなかったと信じています」

 よほど豊田社長に目をかけられているようだが、こうした軽率な間違いを犯す人間が広報の最高責任者では、トヨタの前途に暗雲漂う気がしないでもない。
 『ポスト』で、職場の危機管理を扱う米専門誌『リスク・マネージメント・モニター』編集者のキャロライン・マクドナルド氏はアメリカの職場に蔓延する薬物汚染についてこう話している。

 「14年10月、企業の経営者・幹部など660万人を対象にした大規模な尿検査の調査が行なわれました。その結果、マリファナ、コカイン、覚醒剤など違法薬物を使用している人が4.7%に上った。内訳は,1位がマリファナで2.4、2位が覚醒剤の1.0%、そして3番目に多く使われていたのがオキシコドンで0.8%でした」

 巨額な報酬を手にするアメリカの大企業の経営者たちは、株主たちから成果を求められ、達成できなければクビになるため、プレッシャーがすごいらしい。そのためその緊張をやわらげるために薬に手を染めるケースが多いといわれる。
 失礼だが、今度ソフトバンク入りして165億円も手に入れたインド人副社長は大丈夫なのだろうか?
 『現代』によれば、豊田社長がハンプ常務の逮捕に異議を唱えるような発言が会見であったため、警視庁の逆鱗に触れて本社がガサ入れされてしまったのではないかという声が社内にあるという。
 また、これは日本の大企業を狙い撃ちした外国からの脅しではないかと見る向きもあるようだ。

 「安倍政権が推し進める金融緩和と過剰な円安のために、日本企業は今『調子に乗りすぎている』と、世界経済の中で白眼視されているのが実情です。
 今回の事件には、円安で実力以上に儲けている日本企業に対して、海外から厳しい目が向けられていることが背景にあったのではないでしょうか。トヨタだけでなく、日本の大企業の不祥事が明るみに出ることが、今後増えると見ています」(元外交官で国際戦略情報研究所の原田武夫氏)

 穿ちすぎる見方だとは思うが、もしギリシャでデフォルトが本当に起これば、日本への風当たりはますます強くなることは間違いないだろう。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   



 2014年12月、人気商品「ペヤングソース焼きそば」(以下、「ペヤング」)に虫の死骸が混入していたとされる報告があった。検証の結果否定できなくなったことから、メーカーのまるか食品(群馬県伊勢崎市)では販売を自粛。それから半年の沈黙を経て、6月から流通が再開している。当初は品切れ状態になる店舗も多く、復活の日を一日千秋の思いで待っていた消費者の思いがうかがえた。最近、このようなペヤングの熱狂的なファンたちは、「ペヤンガー」と呼ばれている。

 一連のペヤング狂想曲では、「全日本ペヤング愛好会」なるグループのメンバーがマスコミから意見をよく求められていた。一般市場では手に入らないペヤングが、ネットオークションによって高値で取引された時期もあったのだが、メンバーたちは一様に否定的であった。ペヤングは良識あるファンに恵まれている。ちなみに、今回のトリビア的な収穫としては、「『ペヤンガー』という言葉を考案・普及させた」のは『夕刊フジ』の中本裕己報道部長だという「新情報」を、『産経新聞』の記事が伝えたことであろうか。

 現在のペヤングは、異物混入を絶対的に避ける対策が講じられている。工場における製造ラインの改善だけでなく、容器も密閉性を高めたものにリニューアルされた。ところが人間とはわがままなもので、これはこれで残念、という声もあるのだ。以前はフタがはずれやすく、麺が飛び出してしまう、俗に「だばぁ」と呼ばれる現象が起きた。現在の容器にはそのスリルがないというのである。もちろん、いくぶん冗談めいたコメントであろうが、それにしてもいろいろと愛されている食べ物であることよ。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 7月1日から、国の医療費助成を受けられる難病の範囲が広がった。

 難病は、原因不明で治療法が確立しておらず、患者の数も少ない希少性の病気だ。長期の療養を必要とし、患者の医療費の負担も重くなる。ベーチェット病や潰瘍性大腸炎など一定の病気については、これまでも医療費助成を受けられる仕組みがあった。

 しかし、難病対策は根拠法のない「事業」という位置づけで、都道府県が運営主体。国が予算を絞れば、しわ寄せは都道府県にいく。財政が厳しい自治体は十分な難病対策がとれないでいたのだ。

 また、同じように原因不明の病気で苦しんでいても、国が認めた対象疾患でなければ医療費助成を受けられなかったため、公平性の観点からも見直しを求める声があがっていた。

 こうした難病対策の問題点を抜本的に改革するために、2014年5月、難病の調査研究の推進や医療費助成などについて定めた「難病の患者に対する医療費等に関する法律」(難病医療法)が成立。

 いわゆる「難病」と言われるもののなかで、次の要件を満たすものを「指定難病」と位置付け、医療費助成の対象とすることになったのだ。

(1)発病の機構が明らかでないこと
(2)治療法が確立していないこと
(3)長期の療養を必要とすること
(4)患者数が日本国内で一定の人数に達しないこと(人口の0.1%程度以下)
(5)診断に関し、客観的な指標による一定の基準が定まっていること

 昨年7月に発足した指定難病検討委員会では、この定義にしたがって、まず今年1月1日に指定難病を、それまでの56疾患から110疾患に拡大。そして7月1日からは196疾患が追加され306疾患が医療費助成の対象になる。

 小児慢性疾患についても、これまでの514疾患から、1月に704疾患に対象が広げられた。

 患者負担も見直され、自己負担割合は3割から2割に。毎月の自己負担限度額は、入院、通院の区別なく、所得に応じて6段階に分類された。たとえば、年収約160万~約370万円の人の場合は、どんなに医療費がかかっても毎月の負担は1万円(一般の場合。高額長期、人工呼吸器などをつけている人には、さらに負担軽減措置もある)。

 これまでも医療費助成を受けていた人のなかには、制度改正によって自己負担が増える人もいるが、3年間の経過措置が設けられている。

 ただし、健康保険が適用されない医療費(保険適用外の治療や薬、差額ベッド料など)、医療機関までの交通費、難病以外の病気の治療費などは助成対象にはならない。

 また、医療費助成を受けるためには、難病指定医による診断書が必要だ。この診断書と必要書類を合わせて、住所地のある都道府県に申請する。

 この7月から指定難病として医療費助成が受けられるのは306疾患だが、原因不明で治療法の確立していない難病は5000とも、7000とも言われている。

 そのため、難病医療法の付帯決議(衆議院厚生労働委員会)には、「指定難病の選定に当たって、診断基準の作成に係る研究状況等を踏まえて対応するとともに、疾病数の上限を設けることなく、医学、医療の進歩等を踏まえて、指定難病の要件に該当するものは対象とすること」を求めている。

 原因不明の病気で苦しむ人が、この法律によって一人でも救われるように、さらなる制度の充実を期待したい。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   



 2015年4月21日、東京・渋谷にメキシカン・ファストフードの世界的な人気店「タコベル(Taco Bell)」がオープンした。看板メニューは、トウモロコシ粉や小麦粉を薄焼きにしたトルティーヤで具材を巻いた「タコス」だ。日本の感覚からすればユニークなその店名は、タコス(「taco」の複数形が「tacos」)と創業者のグレン・ベル氏から来ているのだろう。

 タコベルは1962年にカリフォルニアで創業し、いわゆる「テックスメックス(メキシコ風のアメリカ料理)」で他のファストフードチェーンにない特色を出した。アメリカの都市生活者にとってはよく目にふれる存在で、全世界に6000店舗以上を展開しているという。今回の日本上陸は海外進出戦略の一環で、焼肉店「牛角」などを展開しているアスラポート・ダイニングと組むことになった。

 じつは、1980年代にすでに最初の進出を果たしているが、このときはうまく行かずに撤退した。近年の東京は世界中のうまいものが集まる越境的なスポットと化しており、全体としては外食産業が収益を下げている状況にも関わらず、海外ビッグネームの出店が相次いでいる。消費者は新しい食のかたちにも柔軟に応じている。この雰囲気の中、タコベルも「今度こそいける」と判断したのだろう。

 タコス、ブリトーといったメキシカンなメニュー以外にも、日本人向けに沖縄のタコライスなどを用意した。オープン時の行列が話題になるなど、滑り出しは上々といったところ。熱しやすく冷めやすい東京の消費者になじむことができるか、注目される。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 金融機関の口座で一般に10年以上、お金の出し入れがなく、かつ口座の持ち主・預金者と連絡がとれないものを「休眠口座」という。忘れたり、使っていた人が亡くなったり、あるいは転居でそれまで住んでいた地元の地方銀行の口座を使わなくなったりして生ずることが多い。どこの家庭でも一つや二つあるのではないか。

 毎年この休眠預金が500億~600億円分も発生しているというから驚きだ。銀行は10年以上すぎても返金に応じているが、会計上は利益に計上している。

 財政事情が厳しい折、このお金をむざむざ金融機関に持っていかれるのは誰もが納得がいかないところだ。そこで、休眠口座の活用が浮上したわけだ。

 自民党は休眠預金を福祉や教育事業支援に活用する「休眠預金活用法案」の国会提出を検討している。

 具体的には政府や金融機関が出資する「預金保険機構」に各金融機関から休眠預金を回収し、そのうえで新設する「指定活用団体」に移管する。この「指定活用団体」が資金を配分する仕組みだ。

 問題は、配分先や金額をどう決めるか。まさか担当者のさじ加減で決めるわけではないだろう。政治家の口利きなんか入り込む余地のないよう、きちんと透明性を確保してほしいものだ。
   

   

マンデー政経塾 / 板津久作   



 両手をOKサインの形にして胸の前でクロスさせ、左足をやや前に出すポーズのこと。

 埼玉県のシンボル的な鳥であるらしい「シラコバト」をイメージし、手は鳥の羽を、人差し指と親指でつくる輪っかは埼玉の「玉」をイメージしているのだそう。

 仕掛け人は、埼玉に特化した広告プロモーションを行なう男性クリエイティブ・ディレクターで、その彼が立ち上げた埼玉の情報発信サイト「そうだ埼玉.com」には、埼玉にゆかりのある芸能人たちによるポーズ写真が掲載されているという。

 前出のディレクター氏をはじめとする「埼玉県特有の神奈川県に対するコンプレックス」が動機となって生まれたポーズだとされているが、大学卒業後に大阪から上京して以来、東京都にしか住んだことがない筆者としては、そのデリケートな県民意識を今ひとつ肌で感じることができないのが正直なところだ。

 ただ、温泉は神奈川県にある箱根や湯河原よりも埼玉県にある秩父のほうがリーズナブルで程良く寂れていて好みだし(正確には「鉱泉」)、野球観戦はなんとなく洒落ている横浜スタジアムよりもどことなく垢抜けない西武プリンスドームのほうが落ち着くので、万一依頼があれば、筆者も埼玉ポーズをキメる用意がある次第である?
   

   

ゴメスの日曜俗語館 / 山田ゴメス   


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