小麦粉でつくられた菓子の一つ。いろいろな種類の製法が伝えられており、もっともよく知られているのは、小麦を水で溶き、平たい鍋で薄くのばして焼いてから、表面に味噌を塗って巻物のように巻くというものである。徐々に表面に塗る材料に工夫が加えられ、胡桃や罌粟(けし)の実、山椒味噌、砂糖などを使うようになっていった。さらに、江戸時代には餡を巻いた助惣焼(すけそうやき)という和菓子に発展し、これが現在のどら焼きの元祖ではないかともいわれている。また一説に、いまや国民食となったお好み焼きは、ふのやきのつくり方を真似たものではないかともいわれている。

 ふのやきが誕生したのは、豊臣秀吉が天下統一を成し遂げた16世紀終わりごろ、桃山時代の京都で、簡素静寂を重んじた茶の湯の一つ、侘び茶の茶会が盛んだった時期である。当時、茶席で振る舞われていた菓子とは現代のようなものではなく、柿や栗、きんとん、昆布や椎茸などの煮物、あぶった海苔や貝などであった。また、日本では製粉技術が未発達だったため、小麦粉を使った食品は大変高価なものだった。このような情勢で小麦粉からふのやきをつくり、茶菓子として振る舞ったのが、侘び茶の大成者である千利休。利休は豊臣秀吉に切腹させられてしまう1591年2月までの半年あまりで百回ちかくの茶会を開いているのだが、その大部分で使った茶菓子がふのやきなのだ。この『利休百会記』という茶会記に残された記録が、ふのやきが利休好みといわれて今日にも珍重されている大きな理由である。現代では簡素極まる「侘び」として映るふのやきは、実は侘び茶ならではの趣向を凝らした、貴重かつ高価な味わいであった。


小麦粉を水で溶いて焼いた薄皮に、味噌や餡などを巻き込めば、簡単にできる。これがお好み焼きの元祖という説もある。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   



 衆議院議員。40歳。大学を卒業後、TBSに入社し『はなまるマーケット』のアシスタントディレクターなどを務めていた。

 父・小渕恵三が総理大臣に就任したのを機に私設秘書になるが、2000年に小渕総理が脳梗塞で倒れ死去したため、同年6月の衆議院議員選挙に出馬。父親のジバン・カンバン・カバン(カネ)をバックに16万票超の大量得票で初当選する。

 2004年にTBSの同期の男性と結婚。二人の男の子の母親でもある。議員を務める傍ら早稲田大学大学院公共経営研究科専門職学位課程に入学し、少子化について学ぶ。

 2008年、麻生内閣で男女共同参画・少子化対策の内閣府特命担当大臣に任命され、戦後最年少の入閣を果たす。

 今年の9月3日に発足した第二次安倍改造内閣では、幹事長かという下馬評が流れたが、経済産業大臣に就任した。

 永田町の口さがない人々の噂によると、反対の多い原発再稼働をすすめたい安倍首相が、国民的人気のある小渕を起用して押し切りたいという思惑があったといわれている。

 ここまでは順風満帆に見えた小渕だったが、10月16日に発売された『週刊新潮』(10/23号、以下『新潮』)が「『小渕優子』経産相のデタラメすぎる『政治資金』」と報じて暗転、辞任に追い込まれてしまう。

 『新潮』の記事については後で触れることとして、優子を語るうえで欠かせないのが父・恵三元総理である。恵三は群馬県吾妻(あがつま)郡中之条町で製糸業を営む光平の次男として生まれる。光平は後に衆議院議員。

 父親がやはり脳梗塞で亡くなったため、早稲田大学在学中は政治家になるためのスキルを学ぶために「雄弁会」など多くのサークルに所属し、活動した。

 大学院在学中の1963年11月の衆議院選挙に自民党公認で出馬し初当選する。26歳だった。

 この選挙区には福田赳夫や中曽根康弘という大物議員がおり「上州戦争」とまでいわれる激戦区だったが、恵三はかろうじて議席を確保し続ける。彼は自分のことを「ビルの谷間のラーメン屋」と自嘲することがたびたびあった。

 だが自民党の中では常に保守本流を歩き、田中角栄や竹下登に可愛がられ、1987年11月に発足した竹下内閣では官房長官に就任する。恵三が注目を集めるのはこのときからで、昭和天皇が崩御し元号が変わったとき、「新しい元号は『平成』であります」と額を掲げ、恵三の知名度は大いに上がった。

 東京佐川急便事件で竹下派(経世会)会長・金丸信が議員辞職に追い込まれ、小沢一郎派と対立するがかろうじて派閥の領袖に恵三が座る。

 1998年に参議院選挙敗北の責任を取って橋本龍太郎が辞任すると、後継首相に就任する。だが、『ニューヨーク・タイムズ』に「冷めたピザ」と書かれるなど、当初の評価は高くなかった。

 だが、誰彼お構いなしに電話をかけまくる「ブッチフォン」や優しそうな人柄が愛され、ITバブルもあり次第に支持率も上がっていった。

 だがそうした外面とは相反して、周辺事態法、国旗・国歌法、通信傍受法(いわゆる盗聴法)、住民コード付加法(国民総背番号制)などを次々に成立させている。労働者派遣法を改正し派遣容認へと大きく転換させたのも彼の時である。総理在任中に62歳で亡くなった。

 小渕優子は父親の人がよさそうで優しい「見かけ」を味方につけ、“将来の総理候補”といわれるまでにのし上がってきたのである。だがそれは彼女の「実力」からではなかったことが今回明らかになってしまった。

 『新潮』によれば、毎年のように日本橋浜町にある「明治座」に「小渕優子後援会女性部大会」のご一行様が次々にバスを連ねて到着するという。その数ざっと1000人超。

 明治座側はチケット代は3分の2ほど値下げして出していると話している。

 S席は通常1万2000円だから1枚8000円ほどになる勘定だが、たとえば2010年分の政治資金報告書で、小渕後援会が群馬県選挙管理委員会に届けたのは「観劇会」として372万8000円だけ。これでは1人あたりの切符代は3700円程度にしかならない。

 「一方で支出を見ると、組織活動費の『大会費』扱いで、844万円余りが『入場料食事代』として明治座に支払われたことになっている。その結果、実に470万円もの差額が生じているのだ」(『新潮』)

 小渕には政党支部として「自民党群馬県ふるさと振興支部」という団体があり、そこからも2010年10月1日の日付で約844万円が支払われている。『新潮』が領収書のコピーを取り寄せたところ2枚の領収書は連番だから、合計1688万円の支出を二等分して届けたとわかる。

 これにより収入との差額は1316万円に広がってしまうことになるのだ。地元の支援者の票がほしいために送り迎えして観劇させ、飲み食いさせて手土産のひとつも持たせることは、昔なら地方のどこでも見られた光景だった。

 だがいまは政治資金の使い方に厳しく網がかけられ、政党助成金制度までできているのである。これについて『新潮』で、神戸学院大学法科大学院の上脇博之教授がこう話す。

 「1万~2万円なら会計ミスで通るかもしれませんが、これだけ巨額では見逃すわけにはいきません。報告書の不記載ないし虚偽記載にあたり、それを行った者や、場合によっては団体の代表までも罰則を受ける可能性があります」

 それ以外にも『新潮』によれば、実姉のやっているブティックに対して、10~12年にかけて小渕の各団体から330万円あまりの支払いがなされている。そのほかにも地元の農業協同組合や地元農家から大量の下仁田(しもにた)ネギやこんにゃくを購入しているが、これらも「組織活動費」や「交際費」に計上されているそうである。

 先の上脇教授は「小渕大臣の使い方は、どうも政治資金を私物化しているような印象を受けるのです」と言っているが、これでは先ごろ話題になった「大泣き県議」のやっていたこととあまり違いはないのではないか。

 とまあ、小渕元首相の忘れ形見のお嬢ちゃんとはいえ、卑しくも現役の議員、それも経産相という重職についている大臣のやることではない。

 『週刊現代』(11/1号)でジャーナリストの松田賢弥氏がまだほかにもあると語っている。

 「小渕氏の地元の群馬県吾妻郡中之条町では、彼女の母親の千鶴子さんが'01年10月に約132坪の土地を取得し、2階建てのビルを建てています。この土地はもともと、千鶴子さんの親族が経営していた木材工場の一部。問題は、このビルに事務所を構える『小渕優子後援会』が、不可解な家賃を計上していることです。
 直近の過去3年間の収支報告書によれば、このビルは千鶴子さんが所有するものであるにもかかわらず、小渕優子後援会が毎月6万3000円の家賃を支払っています。1年間で75万6000円、'10~'12年の3年間では総額226万8000円。しかも、家賃の受取人は母親ではなく、小渕本人になっているのです」

 これでは小渕の後援会が母親のビルを通して小渕本人に献金をしていたと疑われても仕方ないというのである。

 蝶よ花よと大事に育てられてきた深窓育ちのお嬢ちゃまが初めて遭遇するスキャンダルだったが、あえなく辞任ということになってしまった。

 小渕は辞任記者会見で「長年、私が子どものころからずっと一緒に過ごしてきた、信頼するスタッフに管理をお願いしてきた。その監督責任が十分ではなかった」(asahi.com10月20日より)と悔しさをこらえて話した。

 父親の時代からいた古株のスタッフが、若くて何も知らないお嬢ちゃんに知らせずに、これまで通りにやってきたということだろう。

 何か聞かれても「私たちにお任せを」というだけで、報告義務を果たしていなかった。

 親の地盤を引き継いだ二世、三世議員にはよくあることだが、何も知らされなかった彼女は悔しかったのだろう

 だが政治家としては甘いというしかない。彼女は原発再稼働に疑問を呈し、親中国派議員としても存在感を高めつつあるのだから、一兵卒に戻って危険な方向へと舵を切っている安倍首相に異を唱える存在になってほしいと思う。

 雑巾がけに精を出し、子育てを終えてからでも総理の座を狙うのは十分間に合うのだから。

 松島みどり法相も「うちわ問題」で辞任に追い込まれた。第一次安倍内閣が潰れたのも閣僚の不祥事が次々に表面化したためであったが、同じような道を辿って第二次も崩壊していく予感がする。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 今週は『週刊新潮』発の小渕優子スキャンダルが新聞、テレビを巻き込んで大きな話題になったため、ほかに目立った記事は残念ながら見当たらない。そんな中でもキラッと光った3本を選んでみた。

第1位 「オックスフォード大学が認定 あと10年で『消える職業』『なくなる仕事』」(『週刊現代』11/1号)
第2位 「ノーベル物理学賞中村修二『名誉もカネも』」(『週刊文春』10/23号)
第3位 「竹野内豊と朝ドラヒロイン超超厳戒『深い愛の現場』初中継!」(『フライデー』10/31号)

 第3位。10月17日の各スポーツ紙には『フライデー』の張り込みネタが大きく取り上げられていた。永遠のモテ男といわれるそうだが、竹野内豊(43)が17歳年下の女優のマンションに通っているというのだ。
 このスクープ、袋とじである。「超超厳戒『深い愛の現場』初中継!」とタイトルを打ち、竹野内がマスク姿で食料の入ったビニール袋を持ってこちらをにらんでいる。「この中に1年分の恋物語入ってます!」と書いてあるが、この引き文句、なかなかいい。
 このところ浮いた噂がなかったという竹野内だが、愛車の助手席に彼女を乗せているそうだから、本気度がうかがえる。
 彼女は女優の倉科(くらしな)カナ(26)で、06年の「ミスマガジン」グランプリ。NHK朝ドラの「ウェルかめ」でブレイクしたそうだ。
 彼女は妹と同居しているそうだが、竹野内はそんなことはお構いなしに逢瀬を重ねているという。こういう場合、逃げ口上としてよく使うのが「妹と3人だったから」だが、事務所も交際を認めているようだから、結婚の可能性は高そうだ。

 第2位。ノーベル物理学賞を受賞した3人のうち、中村修二氏は歯に衣着せぬ発言で物議を醸す異端の研究者として知られている。
 徳島県の蛍光材料メーカー・日亜化学工業の技術者として、88年から青色LEDの研究に着手し93年に量産する独自の技術を確立したが、中村氏は研究の対価として日亜化学工業相手に200億円請求訴訟を起こし、05年に同社が約8億4000万円を支払うことで和解した。
 『文春』によれば、中村氏はアメリカに渡りサンタバーバラの地に2億6千万といわれる大豪邸を建てて住んでいるそうである。だが前妻とは離婚し、数年前に別の女性と再婚しているという。その中村氏がこう語っている。

 「新聞、テレビは、『青色LEDは赤崎、天野両氏が発明し、中村氏は量産化する技術を確立した』と紹介する。こんな認識は日本だけです。世界では『青色LEDは中村が発明した』というのは、共通認識です」

 やはり相当な自信家であることは間違いない。

 ところで大発明には違いないが、青色LEDは「青色LEDが発するブルーライトは目に悪影響を及ぼすことが指摘されてきました」(岐阜薬科大学薬効解析学研究室の原英彰教授)という。それに「体の老化を進める活性酸素が、緑の光を当てた細胞で一・五倍に増加したほか、白が二倍、青が三倍に増えました」(原教授)とマイナスの面もあるようだ。
 LEDは便利で消費電力も少ないが、目に対する影響はまだ研究の余地があるのかもしれない。

 今週の第1位は『現代』の記事。コンピューター技術はすさまじい勢いで進んでいるようだが、英国の名門大学・オックスフォードでAI(人工知能)などの研究を行なっているマイケル・A・オズボーン准教授が、同僚研究員とともに著した『雇用の未来──コンピューター化によって仕事は失われるのか』という論文が世界中で話題になっているという。
 この論文の凄いところは、702の職種すべてについて、コンピューターに取って代わられる確率を子細に試算したところにあるそうだ。
 件のオズボーン氏はこう語る。

 「各仕事に必要なスキルはどのようなもので、そのスキルを機械がどれだけ自動化できるのかを、テクノロジーの発展のトレンドを考慮して詳細に調べ上げました。具体的には、コンピューター化の障壁となりうる9つの仕事特性を抽出して──たとえば、手先の器用さ、芸術的な能力、交渉力、説得力など──、702の職種を評価したのです。(中略)
 経済の歴史を見ると、技術的な進歩といえば、たいていは身体を使う手作業を機械化することを表していました。しかし、21世紀の技術的な進歩は、これまで人間の領域とされてきた認知能力を必要とする幅広い仕事を機械化することを意味するのです」

 オズボーン氏は、今後、より複雑な作業まで機械化できるようになるという。
 コンピューターが発達し、ロボットが人間に代わって自動車の運転や介護の手助けをしてくれるようになるとは思うが、彼が言うにはもっと複雑で人間でさえも手に負えないことまでロボットに取って代わるというのである。
 これまでの産業革命は新たな仕事を生み出してくれた。だが、IT化やコンピューター化は、仕事を人間から奪って省力化する方向へと進んでいくのだ。
 オズボーン氏は、近い将来人間の行なう仕事の半分は機械に奪われると言っている。
 たしかに「銀行の融資担当者」「金融機関のクレジットアナリスト」「訪問販売員、路上新聞売り、露天商人」までロボットに取って代わられるというのだから、人間がやることなどほとんどなくなるのかもしれない。
 氏は、その空いた時間を使って芸術やクリエイティブな仕事をするようにすればいいというが、そうしたことに向いていない人間はどうしたらいいのだろう。
 逆に、知的な作業はロボットに、単純作業は人間を使って安く働かせる。そんな時代が来るような気がするのだが。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   



 「ホルホル」は誇らしげな咳払い、日本語で言えば「えっへん」などに当たる韓国の言葉である。インターネット上のスラングでは「ホルホルする」などと使い、(韓国の話題に限らず)自慢をなんのてらいもなく垂れ流す意味になる。ここから、「世界に好かれている日本はすごい」というテーマのテレビバラエティ番組を、皮肉って「ホルホル番組」と呼ぶ。

 日本テレビ系『ネプ&イモトの世界番付』、TBS系『ホムカミ~ニッポン大好き外国人 世界の村に里帰り~』、テレビ東京系の『Youは何しに日本へ?』などなど、枚挙にいとまがない。外国人が日本の楽曲のカラオケを熱唱する『のどじまん THEワールド!』(日本テレビ系)もこの範疇に含まれるだろう。また、TBS系のスポーツエンターテインメント番組『SASUKE』には、外国の筋肉自慢がこぞって参加する様子が強調され、日本発のバラエティが世界で受け入れられた誇らしさといったものを隠さない。

 2011年の東日本大震災のあと、日本の美徳を多くの海外メディアが報じた。暴動を起こさない辛抱強さ、流された金庫を警察に届ける誠実さ、壊れた高速道路をすぐに復旧させる技術の高さ。それらは傷ついた日本人には、世界からのエールに感じただろう。その後、国外からの思わぬ高評価を認識した一般大衆は、「日本を持ち上げる」テレビに一種の癒しを感じるようになっている。悪い気はもちろんしない。だが自画自賛、それ自体には発展性のないことも指摘しておきたい。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 近年、農学系の大学を志望する女子が増えているという。たとえば、明治大学農学部の女子学生の比率は、農学科が34.1%、生命科学科が42.5%、農芸化学科が54.3%、食料環境政策学科が38.7%(2013年4月1日現在)。東京農業大学の新入生も4割強が女子だ。背景にあるのは、農業系大学卒業者の就職先がバイオ系企業などに多様化しているためで、理系女子の「リケジョ」に対抗する「ノケジョ」なる言葉もささやかれるほどだ。

 農を目指すのは学生だけではない。都市部の市民農園や体験農園には、野菜作りを学びたいという農系女子たちが溢れている。また、農村の男性との結婚を求めて農婚パーティーに参加したり、農村に移住して新規就農する農系女子もいる。一昔前まで「キツイ、汚い、カッコ悪い」と敬遠されていた農業に、魅力を感じる若い女性が増えているのはなぜなのか。その理由に、東日本大震災の影響や食品偽装の問題もあるのではないだろうか。

 2011年3月11日に起きた地震と津波は、岩手、宮城、福島の東北三県に大きな爪痕を残すとともに、東日本全体に混乱をもたらした。地方の大規模工場の被害、道路の寸断、東京電力福島第一原発の事故は物流をストップさせ、東京をはじめとする都市部のインフラにも影響を及ぼした。いつもなら食べ物が絶えることのないスーパーの棚から、その一切が消えたのだ。それは、食べ物やエネルギーの生産を地方に依存しきった都市部の生活が、いかに脆いものであるかを思い知らせる象徴的な出来事だった。

 また、このところ食品偽装が頻繁に起こる背景にあるのは、消費者と生産の現場が離れ過ぎてしまい、お互いが顔の見える関係を構築できていないことも原因のひとつだろう。ラベルや食品表示も絶対とはいえず、お金があっても安心・安全な食べ物が手に入れられるわけではない。そうした食の危うさを本能的に感じ取り、大量生産大量消費のサイクルに組み込まれることに疑問を感じた女性たちが、暮らしに農的なものを求めているのではないだろうか。

 農的なものの近くに身を置くことで得られるものは、自ら食料を生産するといった物理的なものにとどまらず、農業を通じたコミュニティとの触れ合いによる新しい関係性にも発展していく。たとえば、体験農園などでは随時イベントが開催されているので、そこで一次産業に従事する人々と出会うことが可能になる。そして、彼らの話から自分たちが食べているものがどこから来るのかを知り、ラベルに頼らない顔の見える関係によって真に安心・安全な食べ物を手に入れられるようにもなる。

 農系女子に共通しているのは、暮らし全般を自分で作るバイタリティーに溢れていることだ。都市部の暮らしは、食料やエネルギーを地方に依存しているだけではなく、娯楽やレジャーなども誰かが作ったものに乗っかるだけの受け身のものが多い。だが、農系女子たちは、「楽しいことは自分たちで作ればいい」と、イベントや上映会などを開催して、生き生きと主体的に社会と関わっている。

 そんな頼もしい農系女子の出現は、行き詰まったこの国の未来に差し込む一筋の明るい光のようにも見える。成長戦略として女性の活用を掲げる現政権は、農系女子の主体的な暮らしにヒントを得てはいかがだろうか。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   



 大ヒットしたゲームやアニメは、子どもたちの日常会話にも変化を及ぼす。『クレヨンしんちゃん』のブームのときは、しんちゃんの生意気な口調を真似る子が続出し、作品自体が批判される憂き目にあった。いま、少年少女たちの会話の語尾には、甲州弁や静岡弁などであるところの「~ずら」がよく登場する。これは話題の『妖怪ウォッチ』に登場する狛犬の妖怪、「コマさん」の真似だ。コマさんは、デザインもかわいらしいが、木訥としたしゃべり方にも人気がある。

 「~ずら」と並んで、コマさんを特徴づける台詞回しが「もんげー」。岡山弁で「ものすごい」という意味だ。2014年9月16日には、岡山県の伊原木隆太(いばらぎ・りゅうた)知事が新しい県のキャッチフレーズに「もんげー岡山」を採用したと発表。インターネットによる投票で決まったものだが、明らかにコマさん人気が影響しているのだろう。もともと「もんげー」は当の岡山でもあまり使われなくなっている方言で、「復権」といえそうだ。

 この「もんげー」と「~ずら」とは、本来話されている地域が違うのもポイント。コマさんは漠とした「田舎」、古き良き時代の地方を象徴するキャラクターといえる。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 「雇用改革」に力を入れる安倍政権だが、次のターゲットは「年功序列賃金の見直し」らしい。2014年9月29日、政府と経済界、労働界の代表でつくる「政労使会議」で、安倍晋三首相がこう発言したからだ。

 「年功序列の賃金体系を見直して、労働生産性に見合った賃金体系に移行することが大切である」

 年功序列賃金とは、企業などで「給料を若い時は抑えて、その後、勤続年数や年齢とともに上げていく賃金制度」のことをいう。「新卒者の一括採用」「終身雇用制」と合わせて「日本型雇用」システムの基軸とされてきた。この見直しを経済界、労働界のトップの前で安倍首相自らが提案したわけだ。

 背景にあるのは、グローバル化が進み、国際競争に打ち勝つためには日本固有の賃金体系を見直し、成果主義に基づく賃金システムに移行せざるをえない、という理屈だ。

 日立製作所は国内の管理職(約1万1千人)について、年功序列をやめて成果主義にすると発表した(同年9月26日)。同社は「役割や評価と報酬との関係を明確化することで、経験者、女性、外国人などを含む多様な人材の意欲を高める」と説明する。ソニーやパナソニックも年功序列賃金の廃止を検討中と報道されている。

 ただ、日立やソニーといったグローバル企業はそれでいいが、そうではない多くの国内企業の労働者の間には、「年功序列賃金の廃止は、賃下げの方便にされないか」との不信感が広がるだろう。

 思わぬ影響も懸念される。

 北陸地方に住む中学生と小学生の男の子がいるサラリーマンは「うちの会社で年功序列賃金が廃止されたら、息子を大学に進学させられない」と頭を抱える。家庭で教育費が一番かかるのは、大学教育だが、サラリーマンの場合、それを支えているのが年功序列賃金だという事情がある。50代で賃金のピークが来るが、その時期が子どもの大学進学とだいたい重なるからだ。

 政労使会議は毎月1回程度会議を開き、12月に政府、労働界、経済界の「共通認識」をまとめる予定というが、民間企業の雇用の在り方まで政府が指図するのはいかがなものか。「企業の論理」が幅をきかしている。
   

   

マンデー政経塾 / 板津久作   



 前回の「家事ハラ」につづき、最近はなんでもかんでも「ハラ」でくくってしまう風潮が強まりつつあるが、今回の「ハラ」は、読んで字のごとく「匂い(スメル=smell)によるハラスメント」のことである。

 もっとも一般的なのは、「きつすぎる香水の匂い」だが、ほかにも「きつすぎるポマードの匂い」などの古典的なものから、「染みついた煙草の匂い」といった今どきの嫌煙ブームに裏付けられたものまで、そのハラスメントは多岐にわたる。

 現時点で、「きつすぎる口臭」や「きつすぎる加齢臭」ほか、自然発生的な匂いに「ハラスメント」のレッテルはさすがに貼られていないが、日本独特の無臭文化信仰を背景とし、これらも“攻撃”の対象となるのは、おそらくそこまで遠い話ではないと推測される。

 ちなみに、たとえばタイムスリップものの小説・漫画・映画で「過去に遡ってしまった現代人」は、そのガラリと変貌した当時の光景以前に、あらゆる人や物が発する強烈な匂いに辟易してしまうのではないかと、よく筆者は想像したりする。
   

   

ゴメスの日曜俗語館 / 山田ゴメス   


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