近年、農学系の大学を志望する女子が増えているという。たとえば、明治大学農学部の女子学生の比率は、農学科が34.1%、生命科学科が42.5%、農芸化学科が54.3%、食料環境政策学科が38.7%(2013年4月1日現在)。東京農業大学の新入生も4割強が女子だ。背景にあるのは、農業系大学卒業者の就職先がバイオ系企業などに多様化しているためで、理系女子の「リケジョ」に対抗する「ノケジョ」なる言葉もささやかれるほどだ。

 農を目指すのは学生だけではない。都市部の市民農園や体験農園には、野菜作りを学びたいという農系女子たちが溢れている。また、農村の男性との結婚を求めて農婚パーティーに参加したり、農村に移住して新規就農する農系女子もいる。一昔前まで「キツイ、汚い、カッコ悪い」と敬遠されていた農業に、魅力を感じる若い女性が増えているのはなぜなのか。その理由に、東日本大震災の影響や食品偽装の問題もあるのではないだろうか。

 2011年3月11日に起きた地震と津波は、岩手、宮城、福島の東北三県に大きな爪痕を残すとともに、東日本全体に混乱をもたらした。地方の大規模工場の被害、道路の寸断、東京電力福島第一原発の事故は物流をストップさせ、東京をはじめとする都市部のインフラにも影響を及ぼした。いつもなら食べ物が絶えることのないスーパーの棚から、その一切が消えたのだ。それは、食べ物やエネルギーの生産を地方に依存しきった都市部の生活が、いかに脆いものであるかを思い知らせる象徴的な出来事だった。

 また、このところ食品偽装が頻繁に起こる背景にあるのは、消費者と生産の現場が離れ過ぎてしまい、お互いが顔の見える関係を構築できていないことも原因のひとつだろう。ラベルや食品表示も絶対とはいえず、お金があっても安心・安全な食べ物が手に入れられるわけではない。そうした食の危うさを本能的に感じ取り、大量生産大量消費のサイクルに組み込まれることに疑問を感じた女性たちが、暮らしに農的なものを求めているのではないだろうか。

 農的なものの近くに身を置くことで得られるものは、自ら食料を生産するといった物理的なものにとどまらず、農業を通じたコミュニティとの触れ合いによる新しい関係性にも発展していく。たとえば、体験農園などでは随時イベントが開催されているので、そこで一次産業に従事する人々と出会うことが可能になる。そして、彼らの話から自分たちが食べているものがどこから来るのかを知り、ラベルに頼らない顔の見える関係によって真に安心・安全な食べ物を手に入れられるようにもなる。

 農系女子に共通しているのは、暮らし全般を自分で作るバイタリティーに溢れていることだ。都市部の暮らしは、食料やエネルギーを地方に依存しているだけではなく、娯楽やレジャーなども誰かが作ったものに乗っかるだけの受け身のものが多い。だが、農系女子たちは、「楽しいことは自分たちで作ればいい」と、イベントや上映会などを開催して、生き生きと主体的に社会と関わっている。

 そんな頼もしい農系女子の出現は、行き詰まったこの国の未来に差し込む一筋の明るい光のようにも見える。成長戦略として女性の活用を掲げる現政権は、農系女子の主体的な暮らしにヒントを得てはいかがだろうか。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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