10月22日の午後6時、「神事にまいらっしゃれ」と触れ回る声を合図に、沿道の篝火(かがりび)が灯されると、鞍馬の火祭が一斉に始まる。最初に子どもたちが松明を抱えて歩き出す。続いて相撲のふんどしのような締め込み姿をした男衆が、「サイレヤ、サイリョウ」(祭礼や、祭礼)と大声を発しながら大きな松明を数人で担ぎ上げ、集落を練り歩いていく。細い通りに沿って家々が建ち並ぶ鞍馬の町は、居場所さえないほどの人波とむせ返るような熱気に包まれ、それは翌午前2時ごろの還幸祭が終わるまで続けられる。鞍馬山に響き続ける「サイレヤ、サイリョウ」という独特の節回しのかけ声と、「ぱちぱち」と燃えさかる松明の音が、祭りが終わってからもしばらくの間は耳の奥から離れない。

 鞍馬の火祭は京都三大奇祭の一つ。起源は朱雀(すざく)天皇の治世であった940年のことで、天変地異や世俗の混乱を鎮めるため、平安京に祀られていた由岐(ゆき)明神の座所が、都の北方の守護として鞍馬山に遷された。その際に、鞍馬へ向かう夜道を篝火で照らし、祭神をお迎えしたという故事にちなんでいる。その様子が由岐神社の氏子の家々に受け継がれ、例祭として伝承されてきた。子どもから大人までが大小の松明を担ぎ、鞍馬街道を通って参詣するという祭りの様子は、まるで火の海のようだといわれている。


男たち三人ほどで担いで歩く大松明。火祭の始まりにはこの半分ほどの松明を子どもが担ぎ、勇ましく練り歩く。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   



 この賞に特別な関心は無いが、今年の平和賞は大いなる期待を持って発表を待っていた。日本国憲法がノミネート、それも直前の下馬評では最有力だと報じられていたからだ。

 「憲法9条にノーベル平和賞を」という運動を始めたのは神奈川県・座間市の主婦・鷹巣直美(たかす・なおみ)さんだ。

 彼女は高校を卒業して5年間オーストラリアに留学していたとき、アフリカやアフガニスタンから来ている多くの難民たちと接し、彼らから「心が深く傷つくような体験」をいくつも聞いたという。

 その後日本に帰ってきて結婚。子どもに恵まれたとき、自分たちが平穏に暮らせる裏付けになっているものが日本国憲法にあるという思いが強くなっていった。

 彼女と一緒にやっている石垣義昭氏と話したとき、もし受賞したら誰が行くのかと聞いてみた。

 「私たちの会は日本国民と言ってるわけですが、国民が受賞して、代表で誰が行くかとなれば、安倍さんになるんじゃないか。私は安倍さんには行ってもらいたくないな(笑)」

 日本国憲法が受賞するかどうか一番気にしていたのは安倍首相かもしれない。発表の日(10月10日)の朝、受賞予測に「結構、政治的ですよね」と感想を漏らしたという。

 改憲派、それも九条を変えて戦争のできる国にしようと考えている安倍首相にとって、日本国憲法受賞は悪夢でしかないはずだ。

 授賞式で「私は日本国憲法を守りません」と言うこともできず立ち往生する姿を楽しみにしていたのだが、残念ながら今回は受賞を逃した

 パキスタン出身のマララ・ユスフザイさんとインドの活動家カイラシュ・サティヤルティさん(60)に決まった。マララさんは17歳、史上最年少の受賞である。

 反啓蒙的なタリバンに立ち向かい女性が教育を受ける権利を主張していたマララさんは2012年10月、スクールバスで下校途中に武装した複数の男に銃撃され、意識不明のまま英国に搬送されて奇跡的に回復した。

 昨年7月、16歳の誕生日に国連でしたスピーチはすばらしかった。

 「私は誰も憎んでいない。タリバーンの息子や娘たちに教育を受けさせたい。本とペンを手に取ろう。一人の子供、先生、本とペンが世界を変える」

 かつて日本でもペンは剣よりも強いと言われていた時代があった。だがペンの力は落ち続け、力の強い者やカネを儲ける者が大きな声を上げ、わが物顔に日本を跋扈する。

 『暮しの手帖』の花森安治が言ったように、ペンが剣よりも強くあるためには日々研鑽を積まなくてはいけない。そうしたことを改めて考えさせてくれたマララさんの受賞だった。

 ノーベル物理学賞では青色発光ダイオード(LED)を発明した3人の日本人が受賞した。赤崎勇名城大学教授(85)、天野浩名古屋大学教授(54)、中村修二米カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授(60)である。

 当然ながらメディアは挙(こぞ)って取り上げ、心温まる成功秘話を流しているが、『週刊現代』(10/25号、以下『現代』)は少し違った角度から切り込んでいるので紹介しよう。

 まずはノンフィクション作家の山根一眞氏が、LEDの発明の偉大さをこう解説する。

 「LEDとは電気エネルギーを通すと光を発する半導体の結晶のことで、それ自体は'62年に発明されています。'60年代に赤と緑のLEDは開発され、早い段階で実用化ができていました。そこに青色が加われば『光の三原色』が揃い、組み合わせることで白色の照明が可能になる。そうすれば、LEDの用途が大きく広がることはわかっていた。しかし、青色LEDの開発は困難を極め、『20世紀中の実用は難しい』というのが大方の意見だったのです」

 赤崎氏は松下技研で開発に取り組み、その後名古屋大学に移って天野氏とともに研究を続けた。

 だが一方の中村氏は徳島県の蛍光材料メーカー・日亜化学工業の技術者として、88年から青色LEDの研究に着手し93年に量産する独自の技術を確立した。

 赤崎、天野両氏に比べ中村氏は、歯に衣着せぬ発言で物議を醸す「異端の研究者」として知られている。

 中村氏は研究の対価として日亜化学工業相手に200億円請求訴訟を起こし、05年に同社が約8億4000万円を支払うことで和解した。

 「中村先生が脚光を浴びたときは正直、とても悔しい思いをしましたよ。先行していたのは赤崎先生たちで、その研究があってのものなのに、敬意が微塵も感じられない。それでいて日本の研究風土の批判ばかり。赤崎先生、天野先生とは対極の方で、両者の関係はよくありません」(中堅研究者)

 そんな「微妙な関係」が決定的になったのは、ある訴訟が原因だったという。

 赤崎氏と天野氏の発明をもとに、トヨタ自動車系列の豊田合成が青色LEDを95年に商品化する。すると、すでに中村氏の開発を基に青色LEDの製品を販売していた日亜化学工業が、豊田合成を特許侵害で訴えたのだ。

 しかも当初、特許庁は豊田合成側の特許を認めなかった。その後、双方が約40件も訴え合う泥沼の訴訟合戦に発展し、和解するまで実に6年を要したのだ。

 その間、赤崎、天野両氏と中村氏は事実上、対立し続けていたことになる。

 赤崎氏に指導を仰いだ平松和政三重大学工学部教授が、中村氏についてこう話す。

 「あれほど強烈な個性を持っている人は珍しいですが、私は大好きですよ。会うと彼はいつも言うんです。『教授で一生懸命やっても儲からないでしょ? 辞めて米国に来たほうがいいよ。成果を出せば、給料は3倍にも4倍にもなる』って。あんな人だから、学会でも敵は多かったでしょうね。でも、敵味方を考えず、自分のやりたいことを突き詰めて、今回ノーベル賞を取った。受賞後の会見でもまた『怒り』という言葉を使っていましたが、ああいうおめでたい場では、『機会をくれてありがとうございました』くらい言っておけばいいのにね(笑)」

 ノーベル賞というありがたい賞の裏にもこのような人間くさいドラマがあるのだ。そうした面を取り上げるのも週刊誌のおもしろさである。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3

今週は人気者たちのちょっと“危ない”話を3本選んでみた。ご覧あれ。

第1位 「『逸ノ城』九州場所の危機はダイエットを阻む怪物的な食欲」(『週刊新潮』10/16号)
第2位 「宮沢りえ 息を呑む『四十路セックス』シーン」(『週刊現代』10/25号)
第3位 「乃木坂46初スキャンダル撮った! “熱烈路チュー”のお相手」(『週刊文春』10/16号)

 第3位。最近の『週刊文春』は『フライデー』顔負けのグラビアスクープが多い。今週も女優・杏(あん)と熱愛中の東出昌大(ひがしで・まさひろ)がそろって、信頼する「親戚のおじさん」とフレンチレストランで会食している写真、お笑い芸人の狩野英孝(えいこう)がコソコソ不倫デートをしている現場、極めつけはAKB48のライバル乃木坂46の人気アイドル・松村沙友理(22)が路上でチューしている瞬間をバッチリ捉えているグラビアである。
 私は松村なる女の子に興味はないが、チューしている相手が「集英社の編集者」だというのが気になった。編集者ってそんなにモテるのかよ~、オレってそんなこと一度もなかったのに~。そういうやっかみからではあるが。
 この乃木坂46もAKB48と同じように、否、それ以上に「恋愛禁止」規制が厳しく、ファンや芸能記者たちは口を揃えて「あの子たちはAKBと違って、心も体も清らかなんです」と言っているそうな。ホントかいな?
 相手の男は30代で結婚しているというではないか。今年の春まで『ヤングジャンプ』にいてグラビアも担当していたそうだ。しかも『文春』は、路チューの前から二人を追っていて、繁華街のお洒落な焼き鳥屋での会話まで盗み聞きしているのだ。その会話から、男が彼女の部屋を「訪問済み」なこともチェックしている。
 10月8日にラジオ出演した松村は、出会いは街中でナンパされたことがきっかけ、身分を隠してつきあっていた、相手に妻子がいることは知らなかったと涙ながらに謝罪した。
 こんなことがバレたら指原莉乃(さしはら・りの)がHKT48へ島流しになったように、どこかへ飛ばされないだろうか。それとも、こんなことでいちいち怒っていたら秋元康の身体がもたないから、今回はお咎めなしか。

 第2位。41歳になった宮沢りえが体当たり演技を披露しているという映画『紙の月』の濡れ場シーンを現代が活写している。

 「薄暗がりの中、全裸にバスタオル姿の宮沢がベッドに移動し、二人は濃厚なディープキスを交わす。そこから、池松(壮亮(そうすけ)・24=筆者注)の舌が宮沢の肉体を這い回る。
 首筋にゆっくり舌を這わせていく池松。首筋に息づく、大きな生きぼくろがエロスを掻き立てる。舌はさらに全身を探り、鎖骨から、二の腕、胸、尻へと進み、徐々に秘部へと迫っていく。
 その間にも池松の手は、宮沢の形のいい、柔らかそうな乳房へと伸びる。乳房を揉みしだきながら、徐々に息づかいも荒くなっていく二人。
 やがて宮沢の股間に池松の舌が伸びる。そのまま顔をうずめて、ゆっくりとした舌使いで『クンニ』を繰り返すと、我慢できなくなったのか、たまらず『アッ、アッ、アアッ』と喘ぎ声を発する宮沢。その瞬間、暗闇の中に美しいバストが見え隠れする。そのまま彼女は小刻みに痙攣しながら悶え、エクスタシーを迎えるのである」

 ポルノ顔負けのコーフンシーンじゃないか。彼女はりえママがいなくなって何かが吹っ切れたのかもしれない。これは見に行かなくては。

 第1位。このところ大相撲が注目を集めている。遠藤はやや頭打ちの感があるが、新入幕でいきなり優勝争いを演じた逸ノ城(いちのじょう)(21)は本物かもしれない。新番付では一気に関脇に昇進するそうである。
 順風に見える逸ノ城だが、『新潮』によれば深刻な事態が進んでいるという。それは体重がどんどん増え続けていることだ。本人が言うにはベスト体重は175キロだそうだが、公式には199キロ、実際には200キロを超えているそうである。
 本人は「食べても飲んでも増えていく」と嘆いているそうだ。酒も半端ではない。担当記者によれば「“昨日は少し飲みました”と言うので量を尋ねると、あっさり “ビール11杯”と言うからケタが違います」。昔の力士の中には場所中でも二日酔いで相撲を取るのがいたそうだから、驚くには当たらないが、心配なのは太りすぎによる腰や膝への負担や怪我である。
 白鳳をはじめとする三横綱に衰えが見えるいま、もしかすると最速で横綱になる可能性のある逸材だから、食べるのは仕方ないが稽古を手抜きしないことだ。来場所もこの勢いが続くか楽しみにしたい。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   



 最近、中高生のあいだで常識的な言葉となっている「スクールラブ」。名称だけ聞くと学生の男女交際などを想像してしまうが、そうではない。学校の中でラブラブ写真を撮影して、SNSに投稿する行為をさす。制服姿や部活の道具など、アイテムで「スクール感」を醸し出すのが撮影のポイント。机の前で向き合っている様子など、いまどきの若者は「絵になる構図」をよくわかっている。教室の黒板の前に立つカップルの間に、チョークでハートマークを描くなど、しゃれた演出を加えることも多い。

 実際のところ「ラブ」よりも、「青春の思い出」を残しておくというニュアンスが強いわけだ。だから、カップルの写真とは限らず、女の子が親友同士や、先輩・後輩で撮ることも自然に「スクールラブ」と呼ばれることになる。昨今のスマホカメラの性能のなせるわざか、もはや作品としての見事なカットも多い。自身は遠き過去に去った、青春の眩しい一ページを目にして、胸をときめかせる大人もいるそうだ。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 ブラインドサッカーは、1980年代に視覚障がい者のために開発されたサッカーで、当初は、南米やヨーロッパを中心にプレーされていた。その後、国際視覚障がい者スポーツ協会の正式ルールができあがり、日本でプレーされるようになったのは2001年。以来、急速に普及し、今では全国各地でブラインドサッカーチームができるまでになっている。パラリンピックや世界選手権などの国際大会も盛んで、目が見えないとは思えないほど迫力あるプレーに圧倒される観客は多い。

 ブラインドサッカーには、全盲の人のためのB1、弱視の人のためのB2/3の2つのクラスがある。ルールは、フットサル(選手5人ずつで戦うミニサッカー)によく似ているが、目の不自由な人がプレーできるように、いくつかの工夫がなされている。

 まず、全盲の人が参加するB1クラスでは、ゴールキーパーを含めた5人の選手に加え、コーチ、コーラーが1チームとなって戦うことになっている。ゴールキーパーは晴眼者(目の見える人)だが、4人のフィールドプレーヤーは視力の差を公平にするためにアイマスクをつけてプレーする。コーチはフェンスの脇からチーム全体に声を出して指示を出し、コーラーが相手側のゴールの裏からゴールまでの距離や角度を「5m!30度!」などと選手たちに伝える。

 ボールには、シャカシャカと音のする特殊な鈴が内蔵されており、その音を頼りに選手たちはボールの位置を確認する。また、危険な接触を防ぐために、ボールを持った選手に対して、周りの選手は「ボイ!」と声を出して、自分の場所を知らせることが義務付けられている。

 ボールの音源、選手やコーラー、コーチの声や気配などが、プレーをするための重要な情報となるため、観客も静かにプレーを見守らなければならない。

 弱視の人のためのB2/3クラスは、アイマスクや音の出るボールは使われず、フットサルと同じようなルールでプレーされる。

 このブラインドサッカーの世界選手権が、今年11月に東京・渋谷で開催される。ブラジル、フランス、スペインなど、各大陸の予選を勝ち抜いてきたチームが参加する予定。その強豪国を相手に、日本チームがどのような戦いを見せてくれるのか、楽しみだ。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   



 コミュニケーションアプリ「LINE」の大きな特徴の一つが、テキスト代わりにイラストが使える「スタンプ」だ。あえて説明するまでもないだろうが、気心の知れた者同士でやり取りをする場合には、「うれしい」「落ち込んでいる」と文章にするよりも、スタンプのほうがユーモラスかつ雄弁な感情表現となることが多い。

 以前は公式のスタンプしかなく、プロモーションのため企業がゲームやアニメなどのスタンプを作る際、何百万というお金が動いていたという。だが、2014年5月、「LINE Creators Market」内の「クリエイターズスタンプ」として、広く一般にも解禁された。プロ・アマを問わず、40個1セットのスタンプを100円で販売できる。売り上げのうち約半額が作成者のものになる仕組みだ。

 これが爆発的な人気となり、サービス開始後わずか1か月で販売総額が1億5000万円を超えた。現在の販売数も上々で、トップクラスの人気を誇るスタンプは、収益も1000万円以上になるという。ネット上にはすでに、「どんなスタンプが売れるか?」という記事がひしめいているが、もはや競争率が激し過ぎて、卓越してコンセプチュアルなものでないと、大もうけまでは望めないだろう。だが、イラスト系のクリエイターに寒風吹きすさぶ昨今、夢のある話ではある。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 地球温暖化対策を話し合う「国連気候サミット」が9月、国連本部(ニューヨーク)で開かれた。サミットは国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長の呼びかけで開催されたもので、世界120か国以上の首脳らが参加した。日本からも安倍晋三首相が出席した。

 サミットの狙いは地球温暖化対策の新たな枠組み作りに向けた機運を高めることにある。

 現在、先進国に温室効果ガスの削減を義務付けた京都議定書(1997年採択)があるが、2020年に期限切れを迎える。そのため、世界各国は2015年末のパリでの国連気候変動枠組み条約第21回締結国会議(COP21)で、発展途上国を含めた20年以降の枠組み合意を目指している。

 新しい枠組みが成功するかどうかは、世界1、2位のCO2排出国である中国、米国がどう取り組むかにかかっている。何しろこの両国で全世界の排出量の40%以上を占めているからだ。これまで両国は排出量の削減に積極的でなかった。京都議定書では、米国が「経済に悪影響する」との懸念から批准せず、中国は削減義務を負っていない。

 地球温暖化は世界に深刻な影響をもたらす。海面上昇や水不足、豪雨水害、食糧危機などだ。平均標高が2メートルの太平洋の島国・マーシャル諸島共和国はこのまま海面上昇が進むと水没する懸念がある。

 米中両国は温暖化対策に腰を据えて取り組むべきだ。米国のオバマ大統領は、サミットに合わせて中国の張高麗副首相と会談し、その中で「われわれは世界の2大経済・排出国として、特別な取り組みを主導する責任がある」と呼びかけた。有言実行を期待したい。
   

   

マンデー政経塾 / 板津久作   



 「家事ハラスメント」の略語。食器洗いなどの家事を手伝った経験がある夫の、じつに約7割が受けているといわれる、「雑!」「使うスポンジが違う」「食器はここに置いて!」……といった、妻による家事のダメ出しのこと。

 本来の「家事ハラ」は、和光大学の竹信三恵子教授が家事労働の担い手への不当な過小評価・嫌がらせ(ハラスメント)と意味づけた「家事労働ハラスメント」という言葉から来ている。これを冒頭のような意味に転化して用いたのが旭化成ホームズ。男たちにはこちらの意味が定着してしまった。

 さて旭化成ホームズは共働き夫婦にアンケートしたうえで、「夫にとっては妻のやり方をしっかり“学習”することが、気持ちよく家事をする秘訣のようだ」と、家事ハラの解決策を提案しているが、本当にこれで正しいのだろうか?

 ちなみに筆者はフリーランスの文筆業者で、基本的に自宅で仕事をすることが多い。がゆえに、そのとき一緒に住む女性が外に働きに行っているあいだ、掃除や洗濯や料理や食器洗い(つまり、家事のほぼ全般)を強いられるケースが、わりとあったりする。

 そんなとき、ヒモでもないのに帰ってきた女性から、いくら疲れているとはいえ、「チリが落ちてる」だとか「風呂が沸いてない」だとか「今日は魚が食べたかったのにー」だとか言われたらたまったもんじゃない。こういう特殊なパターンも広義的に「家事ハラ」とカテゴライズしていただき、論じてもらわないと、筆者がせっかくルクエでつくった自家製ローストビーフ(オージービーフ製)も浮かばれないというものだ……。
   

   

ゴメスの日曜俗語館 / 山田ゴメス   


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