注文に応じ、調理したお魚やお惣菜、弁当などを、仕事場や家庭に届けるのが仕出し屋の仕事である。料理屋のような店もあるが、普通、食堂のような食べる席はなく、調理する厨房と腰掛け程度に休める座敷があれば十分なのだ。かつての京都には、そのような仕出し屋がたくさんあった。有名な二傳(にでん)や井傳(いでん)のように、後に会石料理や京料理店として有名になった特別な仕出し屋も少なくないものの、庶民の暮らしを支えてきた仕出し屋は、徐々に姿を消しつつある。それでも、お惣菜を入れた平箱(カジキとか、ネタ箱と呼ばれている)を自転車の荷台に重ねて積み、お得意様を訪ねご用を聞き、配達に走る姿を見かけると、なんともほっこりした気分になるものだ。

 仕出し屋は京都市内いたるところにあるけれど、なかでも西陣織や友禅染などに携わる職人が集まり、職住一体の住居で生活をしてきた職人街は過密地域といえよう。昭和期半ばぐらいまでは家族総出で仕事に携わっていたので、女性も食事をつくる手間さえ惜しんで働いてきた。そのため、昼食には仕出し弁当を頼む家が当たり前で、繁忙期には、夕食にも仕出し屋さんが欠かせない存在だった。昔は注文した家の台所に仕出し屋が上がって、お魚をさばいたり、下拵(したごしら)えしたり、ということも少なくなかったそうだ。仕出し屋はそんな常連客を数十、数百と抱えながら、一緒に生きてきたのだ。

 近年は自転車に積まれた平箱には、主に旬のお魚料理と常のおばんざいが入っている。焼き魚や煮魚、鍋料理に合いそうな切り身。だし巻き、おから、えび豆、天ぷら。旬の食材とおいしそうなお惣菜である。最近は開封すればすぐ食べられるようになったものが詰め込まれている。

 

   

京都の暮らしことば / 池仁太   



 『週刊文春』(12/8号、以下『文春』)で医師&ジャーナリストの森田豊氏(53)がテレビでやっている医療番組は間違いだらけだと告発している。

 氏はハーバード大学専任講師や埼玉県立がんセンター医長などを歴任した人だが、テレビ朝日系の人気ドラマ『ドクターX~外科医・大門未知子~』のシリーズを最初から監修していることでも有名である。

 森田氏は、フジテレビ系の『その原因、Xにあり!』を見て、内容に疑義ありと自身のブログにアップしたのだ。

 10月28日から始まったばかりの番組で、よくある肩こりや冷え性といった身近な健康に対する悩みを題材にして、意外な対処法を提示し、タレントたちがそれを実践するという医療情報バラエティ番組である。

 たとえば、初回では「ぽっこりお腹」を取り上げ、そのお腹の原因は水分を含んだ「むくみ腸」にあるとして、最悪の場合は大腸がんになると脅かし、解決には「最強のぽっこりお腹撃退ドリンク」という生姜とココアを混ぜたものを3週間、朝晩飲み続けるといいと、3人の女性たちに実践してもらう。

 すると全員が、直腸が細くなった、腹囲が約10センチも細くなった、という「驚きの結論」だったと大騒ぎするという趣向である。

 森田氏はこう批判する。

 「実際のぽっこりお腹は、基本的に内臓脂肪や皮下脂肪が溜まった人、つまり肥満の人に多いのではないでしょうか。お腹が出ている人が番組を見て『自分はむくみ腹だ』と生姜ココアを飲み続けても劇的な効果が生まれるとは考えにくい。そもそも、むくみ腹によるぽっこりお腹と、肥満によるぽっこりお腹はどうやって区別するのか、番組では言及していない」

 しかも驚くことに、この生姜ココアを番組で推奨したのが「生姜サプリ販売会社の関係者」(『文春』)だというのだから、やらせだといわれかねない。

 そのほかにも、肩こり解消には、地面についていない「足の浮き指」を直せばいいと、足の指でタオルを引き寄せる運動を奨めていたが、「浮き指だけが肩こりの原因ではないはずです。浮き指を直せば全ての肩こりが治る、と受け止められる危険がある」(森田氏)

 森田氏はこの番組を見て、長期的な効果や症例数の少なさによる医学的根拠の乏しさのため、画期的な効果を望めない可能性も高いと思えてしまうと手厳しい。

 また、この番組に通底する大きな問題は、紹介した対処法が「ほぼ100%効果が出た」と結論付けられることだと指摘する。

 「新しい研究が成功するのは百回に一度あるかないか。全く新しい治療法や対処法は簡単に見つかりません。きちんとしたエビデンスがある新たな治療法が毎週幾つも出てくる事はあり得ないんです」

 怖いのは、本当にそれで悩んでいる人が、番組を真に受けて「独自の解決法」に身を委ねてしまうことだと言い、「決していい事ではないはずです」(同)

 批判されている番組は「やらせ」とまではいえないが、フジテレビにはやらせの「前科」がある。

 フジテレビ系列局の関西テレビが2004(平成16)年4月4日から2007(平成19)年1月14日まで放送していた『発掘!あるある大事典II』で、納豆によるダイエット効果を取り上げたところ、放送後、全国のスーパーやコンビニで納豆が売り切れる大騒動となったのである。

 これに関心を持った『週刊朝日』が取材を開始したところ、「捏造」や「無断引用」とみられる個所が続出したのだ。

 その後関西テレビが社内調査した結果、実際には血液検査を行なっていないにもかかわらず虚偽のデータを放映したことなどが露見し、千草宗一郎関西テレビ社長が謝罪し、放送を中止することを発表したのである。

 だが、こうした健康&医療情報番組は老舗のNHK『ためしてガッテン』(現在は『ガッテン!』)をはじめ、形を変えて後を絶たない。

 その背景には高齢化が進み、自分の健康に不安を覚える視聴者の増加がある。

 週刊誌では「飲んではいけない薬」「受けてはいけない手術」というキャンペーンを始めた『週刊現代』が注目を集め、他誌もこれを真似して毎週、危なっかしい「医療情報」が氾濫している。

 『文春』は、『週刊ポスト』が11/25号と12/2号でやっていた「『塩分を減らせば血圧は下がる』は間違いだった」という特集に対して、

 「一部分のデータを切り取って、都合のいい解釈をしているとしか考えられません」(金沢大学附属病院総合診療部長の野村英樹特任教授)

 と批判している。

 私も血圧が高いので読んでみたが、これを素直に信じると、酒の肴にしている塩辛や漬け物はどんどん食べてもいいんだと思いかねない記事である。

 週刊誌が、世相を切り取り、面白おかしく取り上げることはあっていいが、こと、病気や生死に関わることは、きちんとしたエビデンスに基づいた記事を出すべきことは言うまでもない。

 というのも、私も昔は、サルノコシカケががんに効く、紅茶キノコがすごいという記事を山ほどやってきたから、反省を込めて言うのだが。

 週刊誌の記事よりひどいのは新聞の書籍広告である。以前某紙の新聞評を1年やったことがある。そこで、新聞の書籍広告に「がんが治る!」「末期がんに効く」と謳っている本を無審査で載せるのは問題だと書いた。

 中には、本に載っているわけのわからない薬や健康食品を販売している会社が小さな出版社にカネを出し、本を出しているケースもままあるからだ。

 これでは薬事法違反を新聞が奨励しているようなものだと書いたら、担当者は頭をかいて「そうなんですよね。社内でも問題にはなるんですが」と言うだけだった。

 こうした真偽の定かではない夥しい医療情報が巷に氾濫するのは、医療不信が高まり、そのうえ医療費負担がどんどん増えていることへの“怨嗟”の声があると思うのだが、茶の間の視聴者ももっと賢くなるべきである。

 楽して痩せたい、呑んで食べて健康でいたい、そうした視聴者の無知に付け込んで、こうした同種の番組がつくられ、3か月で何十キロ痩せますなどというアスレチックジムのCMが洪水のように流れるのだ。

 どこぞのジムのCMで、醜く太った経済評論家が、何か月でこれだけ痩せて筋肉モリモリと、トレーニング後の痩せ細った醜い身体を晒していたのがあった。

 あれはジムから多額の出演謝礼が出ているはずだ。それに厳しいトレーニングと食事制限が課せられる。痩せたからといって、そのままにしておけばリバウンドが来て、以前より太ることになる。

 それだけの「覚悟」があれば、ジムなどへ行かなくても自分で痩せることができるはずである。

 健康は大事だが、テレビをボーッと見ているだけで健康になることは絶対ない。さあ、テレビから離れて、街へ出て、そぞろ歩こうではないか。チョット寒いけど。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 私は「暴走老人」という言葉が大好きだ。自分が年寄りになってわかるのは、人間年を取ると丸くなって、他人に優しくなどならないということだ。
 手足が不自由になるから、しょっちゅう不機嫌だ。映画館で映画を見ても、最初の15分で面白くないと、出てきてしまう。シルバー料金ということもあるがね。
 ワイドショーのコメンテーターの寝ぼけた発言に、テレビの前で怒鳴り狂い、家人に毎日嫌な顔をされる。
 駅でスマホをいじってノロノロ歩く若い奴を見ると、ケツを蹴飛ばしたくなる。だが安心していい、運転免許はないから。持ってたら……自分が怖い。

第1位 「成宮寛貴『コカイン吸引』疑惑の現場写真!」(『フライデー』12/16号)
第2位 「ジャニーズ新モテ男 伊野尾慧(26)『めざまし(フジ)』『あさチャン(TBS)』女子アナ“ザッピング二股愛”撮った!」(『週刊文春』12/8号)
第3位 「『優先席を譲れ!』老人が大炎上『けしからん』のは若者なのかジジイなのか」(『週刊ポスト』12/16号)

 第3位。先日ニュースでも流れたが、電車内で優先席の前に立つ老人と、その老人が怒鳴りつけている様子を、優先席に座りながら撮影しているバカ者、いや若者の動画が話題になった。
 『ポスト』によると、この動画への反応は、老人への賛意ではなく、非難のほうが多かったというのだ。
 ネットのバカどもの寝言にいちいち腹を立てていたらとは思うが、老人の一人として言わずにはいられない。おきゃがれ!
 今さら優先席とはなどと言わないが、ネットの「なんで上から目線で命令するのか」「まさに老害」「他人の善意を要求するのは不作法」というふざけたバカどもの言い分を、そのままお前たちにぶん投げ返してやる。
 それにしても今の若い奴らは、どうしてあんなに座わりたがるのだろうか。きちんとした食事をせずに、ファーストフードばかり食べているから、身体の芯から腑抜けているのであろう。
 第一、このごろの母親もいけない。電車に乗ってくると血眼になって空いてる席を探し、ガキを座らせる。
 ガキは、これから世間の荒波に揉まれて生きていくのだから、立たせておいて、足腰を強くしなければいけないはずだ。そんなことは母親たちの空っぽの頭には浮かばない。
 そのガキが長ずると、今回のようなバカになる。
 ジジイは座りたいなんて思っていない。優しい若者が席を譲りましょうと言ってくれても、結構ですと断る。その若者には可哀相なことをしたとは思うが、ジジイは自分の脚で立ち、歩けるのが嬉しいのだ。
 それができなくなったら喜んで席を譲ってもらおう。それにジジイは気が短いのだ。優先席にふんぞり返っているバカ者を見ると怒鳴りたくなるのだ。
 これからは映画『グラン・トリノ』のイーストウッドのようなジジイがたくさん出てきて、若者面したバカ者に容赦しないから、そう思え。

 第2位。ジャニーズの「Hey! Say! JUMP」のメンバーに伊野尾慧(いのお・けい、26)というのがいるそうだ。
 伊野尾はフジテレビ系の『めざましテレビ』のコメンテーターをやっているが、その裏番組TBS系『あさチャン』の女子アナ・宇垣美里(25)との局の壁を乗り越えた「JUMP愛」が発覚したと『文春』が報じている。
 それだけではない。『めざまし』で共演しているフジの女子アナ・三上真奈(27)が伊野尾のマンションから出てくるところもバシャッ! していたのだ。
 伊野尾は明治大学理工学部建築学科を卒業しているそうだが、女の子みたいな可愛い外見が売りの王子様キャラだという。
 朝のワイドショーでシノギを削っているライバル局同士だから、宇垣にとって、この恋愛発覚はさぞ肩身が狭いことだろう。
 三上のほうも、同じ番組に出ている男といい仲になったのでは、こちらも居づらいのではないか。
 AV女優から女子アナまで喰う雑食系のイケメンに惹かれる女心はわからないでもないが、もう少し自分の立場をわきまえる分別がなくてはいけないと思うのだがね。こんなことを申す私のほうが古いのでしょうな。

 第1位。今週の第1位は、ワイドショーが大騒ぎしていた『フライデー』のコカイン疑惑報道
 成宮寛貴(なりみや・ひろき、34)は、ドラマ『相棒』(テレビ朝日系)で、水谷豊演じる杉下右京とコンビを組む刑事・甲斐享役を15年3月まで務めた人気俳優。
 成宮が11月9日、自宅に友人2人を呼び、午前3時半頃から酔った成宮がコカインを吸い始めたというのだ。

 「ヒロキは部屋のなかでクラブミュージックを大音量で流したり、曲線がグニャグニャとうねる奇妙な映像をYouTubeで検索して『これヤバいよね』と笑っていました。酒も入っていたし、かなり上機嫌でしたよ。そして無造作に机の上に置かれていたコカインを小さなマドラーで掬(すく)い上げ、鼻から“シュッ”と吸い始めたんです。クスリが効いてくると目がトロンとしてきて、やたらとカラダをすり寄せてきた。それを避けようとしても、『なんで嫌がるの?』とジリジリ迫ってくるんです」

 こう証言するのは成宮の友人だと名乗るA氏。
 成宮はさらに、大麻やケタミンいう違法薬物までやり始めたという。
 『フライデー』にはコカインらしきものを前に下着姿の成宮が写り、次の写真ではそれを吸おうとするように、白い粉に手を伸ばしている成宮が写っている。
 この写真を見た薬物の更生施設関係者が、大麻を吸うための潰れた空き缶、コカインを掬いやすいスプーンなど「(成宮は=筆者注)かなり使い慣れている」と解説している。
 A氏は告発した理由を、成宮といるとクスリを買いに行かされるし、成宮は自分のことを恋人だと言いふらすのが嫌で、関係を断ち切るためにしたと語っている。
 写真を見る限り、隠し撮りではないようだ。成宮が安心していつものようにリラックスして薬物を使用しているように見える。
 A氏らは一緒にやっていないのだろうか。
 『フライデー』に直撃された成宮は、しどろもどろながら薬物はやっていないと否定している。
 さらに『フライデー』発売前に成宮は、報道各社にファクスで「事実無根の記事に対して非常に強い憤りを感じます。私、成宮寛貴は薬物を使用したことは一切ございません」と明言している。
 また事務所も、「講談社(フライデー編集部)に対し、断固として抗議し、民事・刑事問わずあらゆる法的措置をとって参る所存です」とコメントを発表した。
 万が一これが誤報だったら、『フライデー』廃刊もあり得るはずだ。成宮は裁判できっちり真偽を争うべきであること、言うまでもない。
 だが、ASKAや酒井法子の元夫が再び覚醒剤を使用したとして逮捕された。芸能界に蔓延する違法薬物汚染はまだまだ広がるに違いない。


 最後に『文春』恒例のミステリーベスト10を紹介しておこう。
 国内部門1位は『罪の声』(塩田武士)、2位が『真実の10メートル手前』(米澤穂信)、3位が『涙香迷宮』(竹本健治)
 海外部門は第1位が『傷だらけのカミーユ』(ピエール・ルメートル)、2位が『熊と踊れ』(アンデシュ・ルースルンド/ステファン・トゥンベリ)、3位が『ミスター・メルセデス』(スティーヴン・キング)
 私は『カミーユ』と『メルセデス』『暗幕のゲルニカ』(6位、原田ハマ)は読んだが、正直それほど感心したデキではない。
 『罪の声』はグリ森(グリコ森永)事件を題材にしているようだし、『熊と踊れ』も実際にあった事件を下敷きにしているらしいから、読んでみようと思っている。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   



 1983年に誕生した「ファミコン」ことファミリーコンピュータは、ゲーム機の代名詞となった偉大な存在だ。コントローラの機能性、ソフトの多様さ、娯楽家電としてのタフネスさ(昨今の互換機の頼りなさとくらべてそれは明らかだ)。スマホのゲームが全盛のいまも、多くの「元・子ども」たちはファミコンにいとおしさを感じている。

 その「復刻版」ともいえるのが「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」。往年のサイズを小型化した商品で、カセットを差すことはできないが、『スーパーマリオブラザーズ』『パックマン』『魔界村』『グラディウス』など、30タイトルの人気ゲームがあらかじめ入っている。

 11月10日の発売から品切れの状態が続いた。5980円との手頃な価格設定ながら、ネット通販ではその倍ほどで売られている。いまのところクリスマスシーズンにも再販の予定はないというから、任天堂も見通しが甘いのではないか。このニンテンドークラシックミニは、2017年発売予定の新しいハード「Nintendo Switch」にかつてのファミコンファンを回帰させる、いわゆる「販促」の意図があったようだが、下手を打てば任天堂のイメージを損なうことにもなりそうだ。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 9月5日、公正取引委員会は「介護分野に関する調査報告書」を発表。報告書の柱となっているのが「混合介護の弾力化」だ。

 介護市場の規制改革を促すために、公的な介護保険を使ったサービスと介護保険を使わない全額自費のサービスの同時利用、介護保険の利用料金の自由化などを提案している。

 報告書では、現行制度によるヘルパーの訪問介護で食事の支度や洗濯などをする場合、利用者本人のものに限られ、同居家族の家事支援はできないことなどが規制にあたると指摘。

 公正取引委員会は、こうした「規制」を見直して、利用者から追加料金を徴収して、同居家族の家事支援をできるようにすれば、介護事業者の効率がアップし、職員の賃金も引き上げられるという。さらには、競争が促されて、利用者が負担する料金も下がる可能性があると、規制緩和すれば、いいこと尽くめのようなシナリオを描いている。

 だが、本当に介護市場に「規制」は存在しているのだろうか。

 そもそも、介護保険は、2000年の発足当初から「混合介護」を認めており、利用者が介護保険と保険外サービスを組み合わせて使うことを禁止しているわけではない。

 介護保険では、利用者の心身の状態から、必要な介護サービスを事前に審査する要介護認定が行なわれる。保険給付されるサービスの限度額が決まっているので、個人的に「もっと介護サービスを利用したい」という人は、保険外サービスを利用することが認められている。

 利用料金についても、限度額を超えた部分は全額自己負担になるが、保険給付の範囲内のサービスは1割(高所得者は2割)で利用できる。

 混合診療を原則的に禁止している健康保険と、この点が介護保険の違うところだ。

 実際、利用者のニーズに合わせて、介護保険と保険外サービスを組み合わせて提供している事業者もいる。利用者が必要だと思えば、保険外の介護サービスを受けることは可能なのだ。

それでも混合介護が進まないのには、別の理由がある。

 前出の報告書で、「保険外サービスの提供に当たっての課題」として、多くの事業者があげたのが「保険外サービスを提供する人員の確保が困難であること」。株式会社等の37.4%、社会福祉法人の34.7%が、介護スタッフの確保に頭を悩ませているのだ。

 もちろん、介護保険だけではカバーできない利用者のニーズを、その他のサービスによって支援していこうという流れ自体は悪いことではない。介護が必要な人の暮らしの質を上げるために、介護保険以外の資源を投入することは、今後ますます求められるだろう。

 だが、それは、必ずしも貨幣を使って買うサービスである必要はないはずだ。実際、ボランティアによる移動サービス、利用者家族による認知症カフェなど、金銭のやりとりは発生しなくても、すでにある社会資源を利用して介護が必要な人を支える仕組みはいくつもある。

 ましてや、所得があがらず、厳しい家計運営を強いられるようになっている今、お金を払って保険外の介護サービスを利用できるのは一部の富裕層に限られるのではないだろうか。

 混合介護を弾力化すれば、保険外サービスの利用が爆発的に増えて、介護市場が活性化するという思惑は、絵に描いた餅に終わる可能性が高い。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   



 2016年10月期スタートのドラマで、群を抜く存在感を発揮した『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)。新垣結衣(あらがき・ゆい)、星野源という旬の役者による魅力、主題歌に合わせてキャストが踊る「恋ダンス」など、語るべきポイントは多い。仕事にあぶれた女性が「就職」としての契約結婚をするシナリオ、というとクールな印象を受けるかもしれないが、実際はまるで学生のようなウブな恋愛模様が続く。

 ラブストーリーとしては非常にじれったいもので、「ムズムズするところに胸がキュンとする」。こうした展開を「ムズキュン」と称し、公式ツイッターみずからがキーワード化した。初婚年齢の平均が30歳前後ともいわれる昨今(編集部注:平成27年の調べでは夫は31.1歳、妻は29.4歳)。仕事はできても恋愛ベタという男女はまったく珍しくない。『逃げるは恥だが役に立つ』は時代の空気をよくつかんでいるといえそうだ。恋のもどかしさはなぜ観ている者の心をざわめかせるのか。SNS上を眺める限り、臆病な恋愛を応援したくなる気持ちは、ひとの根源的なところなのだろう。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 自民党の小泉進次郎衆院議員ら若手議員が2016年10月、社会保障改革案「人生100年時代の社会保障へ」をまとめた。その改革案の目玉政策として、「健康ゴールド免許の導入」を打ち出している。

 改革案によると、定期健康診断などで検診履歴などを把握し、自身の健康管理(禁煙、保健指導の受診など)にしっかり取り組んだ人を対象に、医療保険の自己負担を軽減(例えば現行の3割負担から2割負担に引き下げ)することなどを提案した。

 運転免許では、5年間無事故無違反のドライバーに対し、「優良運転者」として「ゴールド免許証」が交付される。自動車保険料が安くなるなどの特典があるが、「健康ゴールド免許」はこれにならったものだ。

 改革案は、導入の理由として「現行制度では、健康管理をしっかりやってきた方も、そうではなく生活習慣病になってしまった方も、同じ自己負担で治療が受けられる。これでは、自助を促すインセンティブが十分とは言えない」と指摘。そのうえで、「今後は、健康診断を徹底し、早い段階から保健指導を受けていただく。そして、健康維持に取り組んできた方が病気になった場合は、自己負担を低くすることで、自助を促すインセンティブを強化すべきだ」としている。

 何やら上から目線のような気がしてならないが、日本の社会保障制度が抱える財政的な問題を考えると、これは正論である。

 改革案をまとめた若手議員らは健康ゴールド免許制度を次期衆院選の公約の一つにしたい考え。自民党の茂木敏允(もてぎ・としみつ)政調会長も「極めて野心的な内容」と評価する。

 もっとも、世の中には難病患者、先天性の病気を抱えた人など健康弱者が数多く存在している。改革案は「自助で対応できない方にはきめ細かく対応する必要がある」とも強調しているが、「健康弱者への差別ではないか」「財政規律主義の財務省の言い分、そのままだ。国民を分断する行為」「自民党お得意の自己責任論」との批判が少なくない。

 そのため、健康ゴールド免許の実現は不透明だ。そもそも、健康ゴールド免許を導入することで、どれだけ健康な人が増え、医療費が抑制されるのか、確証がない。実施する場合は、その根拠のデータを示す必要がある。

 政治はスローガンだけでは済まされない。
   

   

マンデー政経塾 / 板津久作   



 「育ってきた環境の違いなのか、そばの茹で汁を飲む人をはじめてみた。そば湯だからと言うのだけど、茹で汁ごときを健康に良いといって平然と飲む姿を受け入れられそうにない」(全文を原文ママ表示)

 とある女性が『はてな匿名ダイアリー』に投稿した、上記の「そばの茹で汁を平気で飲む彼氏」というタイトルのブログから端を発した論争のこと。

 これをめぐってネット上では、「そば湯を知らない人がいるのか」「まともな蕎麦屋行ったこと無いんじゃないのか」「そば湯知らんとかどんな人生歩んだらそうなるのか」……ほか諸々の驚きの声が殺到し、ツイッターのトレンドワードにも一時「そば湯」という単語が登場するほどの騒ぎになったらしい。

 しかし、大学を卒業する約30年前まで大阪に在住していた筆者は、じつのところ上京するまで“そば湯”の存在を知らなかったのもまた事実で、西日本では関東ほど“そば湯文化”がそこまで浸透していない可能性を考慮し、さらには仮にこのブログの筆者が西日本出身の女性だとすれば、この乱暴な問題提起も納得できなくはない……と思われる。

 ちなみに、関西の「たぬきそば」は、関東の「揚げ玉入りそば」とは違って「甘い油揚げ入りそば」のことを指す。つまり、「うどんとそば」「きつねとたぬき」を反意語と見なした、上方ならではの洒落っ気が語源となっているわけだ(=「きつねそば」「たぬきうどん」は理屈上、関西には存在しない)。

 対して、関東の「たぬき」は一説に「(てんぷらの)たね(=具)をぬく(=抜く)」が語源で、これはどちらかと言えば“粋”といった風情の語源である。

 もちろん、優劣を付けるような問題ではないのだけれど、そば&うどんを肴とする東西あるあるネタは、まことにもって奥が深い……。
   

   

ゴメスの日曜俗語館 / 山田ゴメス   


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