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今号の気になる図書館員さん

愛知県内公共図書館
司書
小曽川真貴さん

神奈川県立川崎図書館は今年5月に移転&リニューアルしました。

もともと工業都市の川崎にあることから、技術や産業に強いことで有名な図書館でしたが、なんといっても特筆すべきは「社史」のコレクション! 所属されている司書の高田高史さんの著書『社史の図書館と司書の物語―神奈川県立川崎図書館社史室の5年史』(柏書房)などにも書かれています。

そんな神奈川県立川崎図書館がリニューアル……どのような姿になったのか、とってもとっても気になっています。

神奈川県立川崎図書館(2)神奈川県川崎市

今年5月15日に移転リニューアルした神奈川県立川崎図書館。ワンフロアなのに、社史コーナー、特許・規格本コーナー、1,000タイトルが並ぶ専門誌コーナーと見どころが満載。前回に続いてリニューアルの特長と選書やレファレンス、そして図書館の未来像について、企画情報課の菅井紀子さんにお話をうかがいました。


かながわサイエンスパーク(KSP)。図書館は西棟2階にある。

社史の宝庫はどうやってつくられたのか?

──社史のコーナーも圧巻でした。収蔵数はどれくらいあるんですか?

約1万9,000冊で、開架に出ているのは1万4,000冊。オープンしてまだ3か月しか経ってないのですが、もうすでに入りきらなくなってきて(笑)。いま書架調整しているところです。

── 一般には流通していない社史を収集するのは、たいへんなことだと思います。

納本制度(注1)がある国会図書館を頼りにしています。国会図書館は受け入れた資料の書誌を「全国書誌データ」として公開しているので、社史にあたりそうなものを見つけて寄贈依頼するようにしています。

ここ最近は、社史のコレクションをしていることをメディアで取り上げていただくようになり、全国から社史に携わる方が当館へ調査にいらっしゃるようになりました。刊行した社史をいただける流れもできてきて、社史収集についてはほぼ寄贈で成り立っているという状態です。

開館当初から工業の図書館としてやってきて、1万9,000冊と積みあがったのは、やはり図書館員の先輩方の努力があってこそだと思っています。

──入口の展示スペースでも社史関連の展示がありましたね。社史に関するイベントはほかにもされているんですか?

毎年社史フェアを開催しています。前年に出版されて当館が受け入れた社史を並べて、手に取って見てもらうというものです。毎年だいたい200冊くらいの社史が刊行されています。どんな内容なのか、横書きなのか縦書きなのか、写真と文章のバランスはどうかなど、そのときどきのトレンドもわかりますし、大いに社史づくりの参考になるんじゃないかと。社史のご担当者や、社史づくりに携わる出版社の方や編集プロダクションの方が来てくれますね。講演会もしています。今年は90年史をつくられた集英社の方にお話をしていただきました。

──社史以外に関するイベントも多数開催されていますね。こちらに来てからもすでにかなり開催されているとか。

新しく入れた電子ジャーナルの使い方の講習会や、展示関連のイベント、子ども向けの実験教室など、開館して3か月ですが、すでにいろんな種類のイベントをしていますね。

──告知はどうされているんですか?

チラシを作って近隣の図書館や関係機関などに置いてもらったり、KSP内のエレベーターにポスターを貼らせてもらったり。またKSP行きのシャトルバスに広告を載せたりなどしています。図書館のホームページでももちろん告知や募集をしています。

──イベントの企画は誰がされているんですか?

こういう時期にこんなものを開催したいという年間計画はあるので、それに向かって各担当が動いていく感じです。内容や講師などは、担当者がほかのスタッフと相談しながら決めていきます。

──連携も積極的にされているそうですね。

ものづくり技術を支える団体などと連携をしています。連携することによって、図書館カウンター横にある知財スポットで専門家を呼んで発明相談や知的財産相談、創業・経営相談などを定期的に行なったり、夏休みの子ども向けの実験教室などのイベントを開催したりしています。また、KSPに入居されている企業や団体などとも、関連図書の紹介棚を作ったりして連携を進めています。

──連携は図書館からアプローチされるんですか?

図書館からアプローチしたり、先方から言っていただいたりと、それぞれ違いますね。子ども向けの実験教室を開催していただいている一般社団法人の方は、もともと図書館の利用者でした。


社史コーナーでは1万4,000冊の社史を会社のジャンルごとに配置。判型や製本もバラエティにあふれている。

出会いに満ちた図書館をめざして

──現在、図書館スタッフは何人くらいいらっしゃるんですか?

全部で37名。そのうち司書的な業務についているのは、非常勤も含めて30名ですね。

──通常、選書はどなたがされているんですか?

司書が担当しています。見計らい方式(注2)という仕組みで現物を見て選書できるものもあれば、出版情報の冊子を見て選ぶものもあります。利用者からのリクエストを受けて検討するものもあります。

司書は文系の人間がほとんどですが、「ものづくり」を支援する図書館の司書として、図書館内での研修を受けたりして、自分が担当になった分野については情報収集しています。出版社や書店のホームページなどを見て、この本は役に立ちそうだなとか、この分野は利用頻度が高いから入れたほうがいいなとか、ほかに類する本がないから入れてみようとか、そういう基準で選んでいますね。

──レファレンスについても専門的な内容が多いと思うのですが……。

たしかに多いですね。「その用語は漢字ですか、カタカナですか?」って質問してしまうほど難しい用語が多くて(笑)。利用者の方のほうが内容についてはわかってらっしゃるので、わからないときはストレートに聞いています。

我々司書はその分野そのものの中身にくわしくなくても、そこにたどり着くための方法や手段は勉強しています。たとえ内容そのものを読み解くことは難しくても、その分野の棚をブラウジング(注3)したり、データベースで検索して関係ありそうなものを探したりとか、いろんな視点から探せるように日ごろから努力はしています。

──スキルアップのために研修などされたりしているのですか?

図書館内における定期的な研修の他に年に何回か、専門家をお招きして資料について学ぶという研修をしています。ある分野の専門家の方に図書館にある蔵書を見ていただいて、専門的な内容を教えてもらったり、この資料はこんなふうに使ったほうがいいとか、この分野だったらこういう資料を持っておいたほうがいいなど、アドバイスをいただいたり。まだこちらに移ってからは開催していませんが、ぜひ続けていけたらと思っています。

また月一回の館内整理日を利用して、それぞれの担当者が講師になって、勉強会もしています。ちょうど明日も、雑誌についての会があります。私も以前、講師として、(工業)規格資料について、カウンターでお客様に質問されたときパニックにならない程度の初歩的な事柄を教えたことがあります。館内整理日でも毎回できるわけではないのですが、細々とでも続けていきたいと思っています。

──さて今後、川崎図書館についてはどういう未来像をお持ちですか?

まずは「ものづくり」においては、いちばん頼りにしてもらえるような図書館になれたらなと。そして、ここへ来れば何かがある、何かがわかる、何かのヒントがもらえる、そんな出会いに満ちた場所になれたらいいなと思っています。

当館は全国的にもなかなか類を見ない、専門図書館に近い公共図書館です。このスタイルを大切にしていきたいなと思っています。


(注1)出版者に対して,法律により国立図書館へ出版物などの納入を義務付ける制度.日本では,「国立国会図書館法」で,国立国会図書館が出版者から,完全本を出版後1か月以内に1部納入されることになっている.納本は原則として無償だが高額の図書には代金が支払われることもある.フランスのフランソワ一世(1497-1547)が1537年,モンペリエの条令で国内の出版者に出版ごとに1部を王室図書館に納本するように定めたのが始まりである.初めはなかなか守られなかったが,現在フランスでは,商業出版は2部ずつ(ほかに印刷者から1部)の納本がほぼ完全に実施されている.デンマークでは友人に配る文集なども納本が義務付けられているが,ベルギーでは5ページ以下のものは免除される.納本部数は国によって異なり,1部だけでよいところから1970年代のブルガリアのように18部というところもある.かつては検閲に利用されたが,現在は各国とも,全国書誌の作成,中央図書館での保存のためにこの制度がしかれている.(『図書館情報学用語辞典 第4版』)

(注2)出版情報などをチェックしてから発注するという手間を省くため,収書方針などに照らして,あらかじめ書店に一定の範囲を示し,納品された資料をチェックして採否を決定する資料購入方法.書店側は,その図書館の収集方針や資料の範囲,内容の程度などをよく理解する必要がある.書店が一次選択をすることになるので,受入担当者は,出版情報の内容をよく把握し,漏れのないように留意することが求められる.(『図書館情報学用語辞典 第4版』)

(注3)明確な検索戦略を持たないまま,偶然の発見を期待して漫然と情報を探すこと.原語は,家畜を放牧して飼料としての若葉や新芽を自由に食べさせることを意味した.文献を対象とした場合,書架上で図書の背表紙を気の向くままにながめ読みしたり,特定の目的を持たずに新聞や雑誌を手に取って中身を拾い読みしたりする行為などを含む.ブラウジングにより,情報検索とは異なった方向から関心事に該当する情報を偶発的に得ることもできる.(『図書館情報学用語辞典 第4版』)

(おわり)


インタビューに答えていただいた企画情報課の菅井紀子さん。色とりどりの専門誌コーナーをバックに。

神奈川県立川崎図書館

昭和33(1958)年に神奈川県川崎市でオープンした県立図書館。国内有数の「産業系図書館」として知られていたが、今年5月15日、 “ものづくり技術を支える”機能に特化した図書館として川崎市高津区のかながわサイエンスパーク内に移転リニューアル。
充実した科学技術資料と電子ジャーナルが利用できる「Research(調査)」、専門的なレファレンスサービスが受けられる「Study(考究)」、専門家による発明・知的財産などの個別相談が受けられる「Liaison(議論)」、多彩なイベントなどで異分野・異業種の人たちと交流できる「Conference(交流)」、ものづくりに役立つ入門書などをゆったりと眺めることで新たな発想を生み出せる「Inspiration(発想)」の5つのコンセプトをうたっている。

住所 〒213-0012 神奈川県川崎市高津区坂戸3-2-1 KSP西棟
TEL 044-299-7825
HP http://www.klnet.pref.kanagawa.jp/kawasaki/
開館時間 月~金 9:30~19:30、土・祝・休日 9:30~17:30
※休館日は日曜日(祝日も含む)、毎月第2木曜日(館内整理日)、年末・年始、資料総点検期間
利用できるひと 誰でも利用可。ただし図書館カード発行については県内在住、在勤、在学のひとに限る。
蔵書数 図書 約265,000冊 雑誌 8,663タイトル
閲覧席数 140席
延床面積 約2,500㎡
開館年月 1958年12月


2012年1月から発行されている「社楽」。記事は企画情報課の司書の方が手がけ、社史の使い方や楽しさ、社史情報が掲載されている。


社史の“いま”がわかる「新着社史」のコーナー。大判で写真が多いのが現在のトレンド。


特許・規格のコーナー。特許・発明・考案、著作権などの本が揃っている。


JIS(Japanese Industrial Standards、日本工業規格)ハンドブックも勢ぞろい。以前は書庫にあったものも、KSPに移転後すべて開架となった。


所蔵するJISハンドブックの中でいちばん古い『1960年版 JISハンドブック工具』。大きさは手のひらサイズだった。


廃止されたJISについても保管されている。


専門誌のコーナーは1000タイトル。ここでしかお目にかかれないものが多数並んでいる。


ものづくりに関する講座などが開催されるカンファレンスルーム。


知財スポットでは、無料で専門家に相談できる「発明相談」「知的財産相談」「創業・経営相談」がそれぞれ月2回開催されている。


KSPのR&D棟2階にある書庫。専門誌のバックナンバーや入りきらない社史などを保管。

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