「ソーロト、ソーロト歩きや。寝てはるお人が起きてしまはるさけ、きーつけや」と、母が言う。「わぁーとる。だいじおへん」と息子。「えらい、すんまへんなー」と、母が周囲にささやく。もし、母が詫びる必要があるならば、「きつきつ、かんにんえ」とでも言うだろう。

 ソーロトとは、動詞などに付け、「ゆっくりと」、「静かに」、「そっと」といった意味をもつ京都弁である。京都の子どもたちは母から「ソーロトもっていきなはい」などと、普段から注意を受けて育ってきた。標準語でいう「そろそろと」とか、「だんだんと」などといった、微妙な雰囲気が表されていて、京都では「そろそろ」を「そどそど」と言ったりする。

 京都人の普段の会話は、やや母音がのびて、会話のテンポが少し遅い。気質というか、特徴であるのだが、例えば、人の書いた字と絵を比べて、「おたく、じーうまいけど、えーへたやなぁ」とか。座席を譲ろうとして声をかけると、「へぇー、おおきに。そやけど、もー、すぐおりまっさかい」などと、ところどころのびて、なんとなくのんびりした感じがする。京都の昔の人は、そのような「のんびり」として「のどか」な様子を、「のんどり」と表現していた。


ソーロトといえば、なんとなく猫の印象。先日「ソーロット」と、促音っぽく発音している方もおられました。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   



 イングランドで開かれた「ラグビーW杯2015」で大活躍したラグビー選手。1986年3月1日福岡県福岡市生まれ、29歳。

 10月12日(日本時間)、日本はアメリカに28対18で勝った。通算成績は3勝1敗。だが決勝トーナメントへは進むことができなかった。3勝して決勝に進めなかったのはW杯史上初めてだという。ラグビー日本代表のW杯が終わった。

 イギリスではほとんどの新聞がスポーツ面で日本の3勝目を取り上げ、「日本が1次リーグで大会を去ってしまうことは、ワールドカップにとって損失だ」と惜しんだ。

 “スポーツ史上最大の番狂わせ”とまでいわれた第1戦の南アフリカ戦の逆転勝利には、日頃ラグビーとは無縁の私のような者でも歓喜の涙を流した。まさに日本のラグビー新時代が到来したのである。

 中でも背番号15、フルバックの五郎丸歩(29)は一夜にして日本はもちろん、世界中のラグビーファンの星になった。

 南アフリカ戦では24点を挙げ、サモア戦ではマン・オブ・ザ・マッチにも選ばれ、サモアチームから最優秀選手の記念の杯が贈られた。

 正確なキック、勇猛果敢なタックルは敵の猛者たちを震え上がらせた。PG(ペナルティーゴール)のときのルーティンに見せる手を胸の前で合わせてちょっと首を傾げる仕草は、世界中の子どもたちが真似するようになった。

 『週刊現代』(10/10号、以下『現代』)によれば、南アフリカ戦の後、五郎丸はスポーツライターの藤島大氏にこう語ったという。

 「勝利は必然です。ラグビーに奇跡なんてありません」

 消防士の父親が熱烈なラグビーファンだった。3歳のとき兄たちの背中を追って福岡の「みやけヤングラガーズ」に入りラグビーを始めた。だが、グラウンドの横の草むらでバッタを追いかけているほうが多かったかもしれないと言っている。佐賀工業高校から早稲田大学へ。早大時代はスター選手として海外遠征も果たしヤマハ発動機に入った。

 しかし、最初のトップリーグ公式戦でラフプレーのため6週間の出場停止。その頃は「バッドボーイ」(藤島氏)のイメージがつきまとったという。

 2年目のシーズン途中、会社の経営状態がよくないことを理由にチームが縮小されてしまうが、広報宣伝の仕事をしながらラグビーを続ける。彼は『不動の魂 桜の15番 ラグビーと歩む』(実業之日本社、以下『不動の魂』)で、子どもの頃はラグビーよりもサッカーをやりたかったが、「強いて言えば、兄から『男だったらラグビーやれよ』と毎日のように挑発されていたから、売られたケンカは買ってやろうじゃねえか、というような気持ちがあったかもしれない」と語る。こうしたことがなければ今日の五郎丸は誕生してないかもしれないのだ。

 だが次兄の亮(りょう)には何をやってもかなわなかった。人一倍の負けず嫌いが折れそうになる心を支え続けた。

 『不動の魂』の中でフルバックの役割についてこう書いている。

 フルバックというのは、「チームの1番後ろで、抜けてきた相手にタックルする責任も大きい。自分がタックルするだけではない。誰よりも前が見えるポジションだから、チームに後ろから指示を出すのも大切な仕事だ。そのためには、いつも頭をクールにしておかなければならない。常に周りとコミュニケーションをとって、情報を集めて、最適な判断を下す」

 彼はキックする前のルーティンを何よりも大切にする。「ボールを小さく宙に回し、芝にトンとついてからティーに立てる。3歩後退、2歩斜め横に動く。右の腕を顔のあたりで軽く振って重心移動の感触を確かめ、腰を落とす。両手を拝み、こするようにしながら体の幹へとエネルギーを集中させる」(藤島氏)。元々ゴルフのスイングに想を得てラグビー界に導入されたそうだ。どんな簡単なキックの前でもルーティンを疎かにしないことを自らに課している。

 『不動の魂』の中で今回のW杯についてもこう決意を語っていた。

 「僕たちが目指す2015年ワールドカップ。そこでは、ラッキーな勝利はありえないだろう。自分たちに少しでも隙があれば、無残な敗北を強いられる。それはとてつもなく困難なチャレンジだ。
 だけどチャレンジは、困難であればあるほどやりがいがある。振り返れば、僕は3歳のときから、目の前の壁に立ち向かい、苦しみながら歩んできた。ラグビーからすべてを学んできた」

 エディー・ジョーンズヘッドコーチのしごきともいえるようなハードトレーニングにも耐え、正確なキック力を磨いてきた。流した汗が見事な大輪の花を咲かせた。

 『週刊現代』(10/24号)で兄の亮氏が佐賀工高時代のことをこう話している。

 「『僕が正面から当たると、弟はぶっ倒れる。でも立ち上がって何度も向かってきた。その根性と勇気はすごかった』
 亮さんが高校3年、歩が2年生で迎えた花園の準々決勝。その年、公式戦2戦2勝の東福岡高に12‐58と大敗した。
 『自陣ゴール前でキックを空振り、タックルも中途半端。試合中にほおをひっぱたきました』
 兄の高校生活に終止符を打った責任感から泣きじゃくる弟を見て、敗戦の話は封印してきた。
 『挫折を糧に積み重ねた自信を感じる。今は尊敬できます』」

 早稲田のラクビー部の監督で現在ヤマハ発動機ジュビロ監督の清宮克幸(きよみや・かつゆき)氏もこう語る。

 「『最初で最後のつもりです』と私に言い残して挑んだW杯で南アフリカを撃破し、人生最高の経験をしたでしょう。でも、今の彼ならば33歳になる19年の日本大会も活躍できる。『五郎丸時代』を作ってほしいですね」

 結婚は早かったと『不動の魂』の中で明かしている。早すぎると言われたが「自分の子どもにプレーする姿を見せたい」と思ったからだという。私生活は決して表に出さないが、子どもがいるとすれば、幼子の心に父親の活躍はしっかりと刻まれたはずだ。

 アメリカ戦後のインタビューで五郎丸は泣いた。夢ではなくなっていた、すぐ手に届くところまで来ていた決勝戦に出られなかった悔しさが襲ってきたのかもしれない。

 五郎丸よ19年の日本で開催するW杯がまだある。そこでまた君のあのキックを見せてくれ。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 『週刊文春』の新谷学(しんたに・まなぶ)編集長が春画を掲載したことで3か月間休養させられた。なんだそりゃ~というのが正直な感想である。春画の芸術性は世界的に認められている。それを掲載したから処分されるなど、出版社としてあってはならないことだ。
 聞くところによると、文藝春秋の社長が編集部に怒鳴り込んできたという。週刊誌に影響力を持つコンビニからも苦情が来たそうだが、弱腰すぎる。『週刊文春』と文藝春秋は今回のことについて説明責任を果たさなくてはいけない。沈黙するようならジャ-ナリズムの看板を下ろしたほうがいい。

第1位 「三重高3女子“殺人儀式”の奇怪」(『週刊文春』10/15号)
第2位 「『川島なお美』通夜でひんしゅくの『石田純一』が安保反対デモの後遺症」(『週刊新潮』10/15号)
第3位 「爆笑問題田中 山口もえ 子連れ再婚の陰にそれぞれのトラウマ」(『週刊文春』10/15号)

 第3位。爆笑問題の田中裕二(50)と山口もえ(38)の子連れ再婚は、それぞれにトラウマを抱えたものだと『文春』が報じている。ともにバツイチ。田中は6年前に9年連れ添った相手と離婚しているが「原因は妻の不貞。浮気相手の子供を妊娠したことを聞かされるという、想像もしたくない修羅場を経験した」(スポーツ紙芸能担当記者)。だが田中は、離婚の原因はすべて自分にあると相手を責めなかったという。
 山口のほうもIT系企業の社長と結婚したが4年前に離婚。2人の子どもがいる。2年半前から交際が始まり、トラウマを抱えた2人だからこそ絆を深めることになったと『文春』は見ている。お幸せに。

 第2位。「不倫は文化」ならぬ「戦争は文化じゃない」と国会前の安保反対デモで雄叫びを上げ、注目された石田純一(61)だが、『新潮』によればその「後遺症」は深刻だという。

 「テレビ番組を3つキャンセルされました。35年の芸能生活で、こんなのは初めてです。CMもひとつなくなったし、広告代理店を通して、厳重注意も2、3社から受けました。“二度と国会議事堂にデモに行くな”“メディアの前で政治的発言をするな”ってね。でも、世の中のためになることをやりたいと思っているので、“それは受けられない”って回答しました」(石田)

 その言やよし。テレビや広告の世界はまだ、「共産党万歳」と叫んで干された前田武彦の時のようなことをやっているのか。石田さん、今度の参議院選に出てはどうかな。テレビや広告会社は揉み手をして擦り寄ってくるぞ。

 今週の第1位は『文春』の記事。三重県伊勢市で起きた同級生殺人は、だれやらの小説にでもありそうな事件である。
   市内の高校に通う3年生の波田泉有(はだ・みう)さん(18)に「殺してくれ」と頼まれたとして、同級生の男子生徒Aが自宅から持ってきた包丁で刺し殺したのは、素晴らしいスーパームーンが見られた9月28日の夜だった。
 男子生徒は「(被害者が)かわいそうだからやった。救ってあげようと思った」と供述しているという。
 二人は2年の時クラスメートで、波田さんは相談にのってくれるAを「親友」と呼んで心を開いていたと『文春』が報じている。
 二人にはそれぞれ恋人のような交際相手がいて「男女の関係ではない」(Aの交際相手の友人)。波田さんには自殺願望が根深くあり「十八歳になったら死ぬ」と以前から仄めかしていた。「波田さんの腕にリストカットの痕があったことは、複数の同級生が覚えている」(『文春』)
 何度か家出をして自殺しようと試みたことがあったそうだ。「自分には生きている価値がない」と話す波田さんに、学校側も心配して医療機関を紹介し、それ以降は普通に学校に通ってきていたという。
 だが、彼女の自殺願望は消えることがなく、「他人に頼まれると、嫌なことでもやってあげる」(小中学校の同級生)ところのあるAに、自分を殺してくれと頼み、Aはそれを実行した。
 精神科医は彼女が精神的な障害を抱えていたのではないかと指摘している。私の世代では「太宰治症候群」とでも呼びたくなるものがあったのであろうか。
 その医師は、彼女から常日頃、殺してくれと頼まれていたAは「洗脳状態」にあって、それがために実行してしまったのではないかと推測している。
 夕暮れ、二人は虎尾山(とらおやま)をのぼっていった。頂には日露戦争の戦没兵士を慰霊する記念碑が建っている。最近は地元の作家・橋本紡(つむぐ)氏が書いた恋愛小説『半分の月がのぼる空』の舞台になったことから「恋愛の聖地」と呼ばれているそうである。
 『文春』によれば、Aが波田さんの左胸深く包丁を突き立てたのは、午後5時10分頃のことだったという。Aもその後死を意識した。だが、しばらくして友人にLINEで居場所を伝えた。

 「死にきれず、山中で放心状態だったAは当初、波田さんの遺体に誰も近づけようとしなかったという」(『文春』)

 「生を愛するが故に死を恐れる思想は欺瞞であり、生の苦痛を征服し、自殺する勇気をもった新しい人間こそ、自ら神になる」(ドストエフスキー『悪霊』より)

 彼女は神になったのか。18歳で日光の華厳滝に飛び込んで死んだ藤村操(みさお)は傍らの木に「巌頭之感」を書き残した。20歳で自殺した高野悦子は遺書『二十歳の原点』を残した。波田さんは何を書き残したのであろうか。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   



 昔から人気の「たまごかけごはん」だが、そのあまりの庶民性ゆえか、日の当たらないメニューでもあった。2000年代に入り、ブランドたまごの人気、あるいは専用醤油の開発などさまざまな要素がからみ合い、熱烈なファンを公言する者が増えているようだ。若い世代のあいだから「TKG」という略称も生まれた。

 この「たまごかけごはん」をフライパンで焼く、「YTKG」「焼きTKG」と呼ばれるメニューが話題だ。といっても、現状はレシピが決まり切っているような料理ではない。熱することだけが共通項で、見た目もオムレツ風からお好み焼き風までさまざまだ。その香ばしさがたまらないという。中までは火を通さず「たまごかけごはん」の感じを残しても美味しい。ちなみに、チーズもよく合う。

 生たまごを食べる習慣のない海外では、たまごかけごはんを食べるのは抵抗があるということだが、これなら食べられるのでは。近い将来、YTKGも外国人の好む「大好きな日本食」の仲間入りを果たすかもしれない。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 それはあまりにも唐突な提案だった。

 9月24日の記者会見で、安倍晋三首相が経済成長の推進力として「新三本の矢」を発表。(1)希望を生み出す強い経済、(2)夢を紡ぐ子育て支援、(3)安心につながる社会保障、の3項目を掲げて、「少子高齢化の問題に正面から挑戦したい」と意気込みを語ったのだ。そして、3本目の矢の「安心につながる社会保障」の具体的方策として、安倍首相が唐突に打ち出したのが「特別養護老人ホームの増設」だ。

 近年、家族の介護のために退職に追い込まれる「介護離職」が社会問題になっている。厚生労働省の雇用動向調査によると、2012年に離職した673万人のうち、家族の介護を理由にあげた人は6.6万人。とくに50代の女性に介護離職の割合が高い。

 背景には、介護が必要な人を受け入れる施設の不足が指摘されており、特別養護老人ホーム(特養)の入所待ちは全国に約52万人いる(2013年度)。今回、安倍首相は、このうちの介護保険の要介護3以上に認定されている15万人を2020年代初めまでにゼロにすることを発表。社会保障制度改革の最重要施策に掲げたのだ。

 特養は、常時介護が必要な65歳以上の高齢者で、認知症や寝たきりなどで自宅での介護が難しい人が入る施設で、現在は入所できる基準が原則的に介護保険の要介護3からとなっている。これは、2013年8月に発表された社会保障制度改革国民会議の報告書に基づくものだ。報告書では「特別養護老人ホームは中重度者に重点化を図り、併せて軽度の要介護者を含めた低所得の高齢者の住まいの確保を推進していくことも求められている」として、特養はこれ以上は積極的に増やさないというのが関係者間での暗黙の了解となっていた。その代わりに、ここ数年、増えてきたのがサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)だ。

 サ高住は、安否確認と生活相談などの見守りサービスが義務付けられた高齢者の住まいで、家事援助やデイサービスなどの介護保険も利用可能。登録事業者に建設費の助成、税制優遇などを行なうことで、特養に代わる施設として建設が進められ、2015年8月末時点で18.4万戸が登録されるまでになっている。

 今回の安倍首相の提案は、これまでの高齢者介護をめぐる議論を無視した唐突な提案で、現場からは「特養を増やしても、働く人がいない」「虐待問題が増えるのではないか」「介護離職ゼロの前に、介護職の離職をストップしてほしい」といった強い反発の声も上がっている。

 福祉施設介護職員の平均月額賃金は21万8900円で、全産業の平均の32万4000円よりも10万円以上も低い(2013年度)。そうした介護従事者の待遇を改善せずに、ただハコモノだけつくっても問題の解決はできないだろう。

 9月19日に成立した安全保障関連法案をめぐり、安倍首相は「憲法解釈の最高責任者は私だ」などと、立憲主義や民主主義を無視する発言を繰り返してきた。

 介護や医療などの社会保障制度は、学者などの有識者が議論を重ね、多くのステークホルダーが少しずつ譲歩しながら長い時間をかけて一つの方向性を見出し、今のような政策がとられてきた。それを突然、「総理の一言」で簡単に変えてしまうのは、現場を無視し、民主主義による決定プロセスもないがしろにした許されない行為といえる。

 だが、安全保障関連法に比べて、社会保障政策はそれに関わる利害関係者が多く、首相の鶴の一声でそう簡単に山が動くものではない。本当に15万人を収容するような特養の増設は可能なのか。首相の声に惑わされず、関係者には国民のための冷静な判断を期待したい。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   



 「漫画」を題材にした『バクマン。』(原作・大場つぐみ、作画・小畑健)は、2012年に『週刊少年ジャンプ』での連載が終了した作品だが、映画化されて再び注目を浴びている。そのストーリーには、すでに『デスノート』でヒットを飛ばしていた作者コンビの歩んだ道程が反映されており、少年漫画らしい誇張を加えつつも、エピソードの一つひとつがじつにリアルであった。

 漫画家になるまでの紆余曲折、そしていざプロになってからの創作者としての戦いは、ドラマ性に満ちている。それ自体が漫画のテーマとしておもしろいものなのだ。そこに気付いたか、ここ数年、漫画界のベテランたちがこぞって自伝的漫画を発表している。永井豪氏の『激マン!』、車田正美(くるまだ・まさみ)氏の『藍の時代 一期一会』などはその代表的な存在。中でも島本和彦氏による『アオイホノオ』は、テレビ東京でドラマ化され、柳楽優弥(やぎら・ゆうや)の熱演が話題になった。このジャンルには、藤子不二雄A氏の『まんが道』という偉大な名作があって、かえって大御所たちが手を出さないところもあっただろう。が、「かつて漫画に勢いがあった時代の裏側をもっと知りたい」ニーズが認識され、今後はさらに増えていくのではないか。

 こうした昔語りの作品とまったく異なったところから、自伝的漫画の傑作も誕生している。「マンガ大賞2015」を受賞した『かくかくしかじか』だ。作者の東村アキコ氏は、この作品で漫画業界の裏話についてほとんど描いていない。地方在住だった少女を美大合格へ導き、やがて目標であった漫画家生活に至らしめた恩人の「先生」について描く。ここで自分の苦労を美化していないのはさすがだ。本作はほかの自伝的漫画とは性質が異なって、年齢のあまり離れていない若い読者に向けた語り、真摯なメッセージとして読むことができる。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 NHKの受信料の支払いについて、これを義務化する動きが政府・自民党内で出てきた。

 高市早苗(たかいち・さなえ)総務大臣は2015年10月2日の記者会見で省内に「放送をめぐる諸課題に関する検討会」を月内にも設置すると表明。NHK受信料の義務化について「当然、検討課題の一つ」と述べ、同検討委で話し合う考えを示した。

 これに先立ち、自民党でも動きがあった。同党の「放送法の改正に関する小委員会」(委員長・佐藤勉元総務大臣)が同年9月にまとめた提言で「NHK受信料の支払い義務化の検討」を総務省とNHKに求めた。

 総務省の検討会設置は自民党小委の要請を受けたもので、両者は連携しているとの見方が当然だ。

 義務化の背景にはNHK受信料の支払い率の低さがある。2014年度末で75.6%と、英国BBC放送の95.0%に比べてずいぶんと低い。よく指摘されていることだが、「4軒に1軒はタダで見ている。公平性の観点から問題だ」というわけだ。

 受信料の支払いを義務化するには、放送法を改正することが必要。検討委では受信料を支払わない人に対して罰則を科すのかどうかも議論するだろう。

 義務化するというのは「事実上、税金と同じ」ということだ。納税者の理解を得るには(1)受信料の大幅な引き下げ、(2)職員給与のカット、(3)職員数の大幅削減、(4)放送経費の透明化・削減などが前提だろう。NHKは放送センターの建て替えを計画しているが、3400億円という巨額な建設コストが取りざたされている。義務化するならそんな高額な建設費は国民が許さない。

 受信料の支払い率向上に向け、NHKの籾井勝人(もみい・かつと)会長は、10月1日の定例記者会見で「マイナンバーを使えばもっと便利になる」と述べた。義務化の議論と合わせてこれも国民的な議論が必要だ。
   

   

マンデー政経塾 / 板津久作   



 2015年9月28日、シンガーソングライターの福山雅治(46)が女優の吹石一恵(ふきいし・かずえ)(33)と入籍したことを発表。以降、ネット上に女性たちの悲鳴が飛び交いまくったり、ちまたのお母さんたちが正気を保てず奇行に走ったり、挙げ句の果てには福山の所属事務所「アミューズ」の株価が急落したり……と、「ましゃロス」(編集部注:ましゃは福山の愛称)なる現象が、予想以上に大きく、さまざまな影響を社会に及ぼしている。

 筆者としては、“自分以外の男性と結婚されること”によってご飯がノドを通らなくなったり、原稿が手につかなくなったり、草野球の打率がいきなり下がって大スランプに陥ったりするような“贔屓の女性芸能人”が一人もいないので、ある意味そのピュアなメンタルは羨ましくもある。

 が、つい最近まで安保法案に賛成だ反対だとざわついていた日本国内の世論風潮が、一気に“一芸能人の結婚”へとなだれ込んでいった現状を冷静に見つめ直してみると、どこか一抹の不安をおぼえてしまうのは、筆者の考えすぎだろうか?

 もしかすると、高度な政治的判断で安倍首相から直々に各マスコミに「福山クンの結婚をもっと盛り上げるように」みたいな通達が届いているのでは、さらには「吹石一恵は政府サイドの刺客なのではないか?」などとさえ訝しんでしまう。さすがにコレは“考えすぎ”なんだろうけど。
   

   

ゴメスの日曜俗語館 / 山田ゴメス   


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