「ソーロト、ソーロト歩きや。寝てはるお人が起きてしまはるさけ、きーつけや」と、母が言う。「わぁーとる。だいじおへん」と息子。「えらい、すんまへんなー」と、母が周囲にささやく。もし、母が詫びる必要があるならば、「きつきつ、かんにんえ」とでも言うだろう。

 ソーロトとは、動詞などに付け、「ゆっくりと」、「静かに」、「そっと」といった意味をもつ京都弁である。京都の子どもたちは母から「ソーロトもっていきなはい」などと、普段から注意を受けて育ってきた。標準語でいう「そろそろと」とか、「だんだんと」などといった、微妙な雰囲気が表されていて、京都では「そろそろ」を「そどそど」と言ったりする。

 京都人の普段の会話は、やや母音がのびて、会話のテンポが少し遅い。気質というか、特徴であるのだが、例えば、人の書いた字と絵を比べて、「おたく、じーうまいけど、えーへたやなぁ」とか。座席を譲ろうとして声をかけると、「へぇー、おおきに。そやけど、もー、すぐおりまっさかい」などと、ところどころのびて、なんとなくのんびりした感じがする。京都の昔の人は、そのような「のんびり」として「のどか」な様子を、「のんどり」と表現していた。


ソーロトといえば、なんとなく猫の印象。先日「ソーロット」と、促音っぽく発音している方もおられました。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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