「うだつ(ち)が上がらない」の意味は、『日本国語大辞典』によれば「いつも上から押えつけられて、出世ができない。運が悪くてよい境遇に恵まれない」とある。その語源には諸説あるが、京都などで見られる卯達(うだつ)を由来とする説が有力である。

 卯建とは、隣接する家と家の境に設けられた壁のことをいう。京都や大阪の町家では、山型の切妻屋根の両端に、屋根よりも高く、仕切りのように突きだした壁が設けられていた。これはおとなりさんの火事から、延焼を防ぐための防火壁だ。家を正面から見ると、両端にウサギ(卯)の耳のような、ぴょんと突きだしたところがあるので、卯建と呼ばれている。

 室町後期以降の京都の様子や風俗が描かれた『洛中洛外図』には、家とともに連なる卯建の有様が描かれている。京都は室町期から安土桃山時代にかけ、商工業を生業とする人々が台頭し、それにともない、住宅が変貌を遂げた時代だった。現代に伝承されている京町家の基本形が生まれるのはこの頃で、板葺(いたぶき)や杮葺(こけらぶき)の屋根は本瓦葺へと変わり、通りに面して2階建ての家がつくられるようになった。そして、1階には目の細かい切子(きりこ)格子、2階には土塗り窓(虫籠(むしこ)窓)という、町家の原型が建ち並ぶようになっていく。

 もともと低く平らかな町並みであったので、このような高々とした卯建や敷地の四隅に建てられた三階建てで白壁の土蔵は、栄達を誇示する象徴であり、あこがれの的であった。こうした家の建築法や高さが、家人の立身と関連づけられ、「うだつが上がらない」が「出世しない」と解釈されるようになったのである。


住宅の土蔵左側にある高い壁が卯建。隣家がマンションと駐車場になったため、外壁のような状態である。卯建は少なくなっているものの、ずいぶん残されている。市内では特に、室町や新町筋の着物などの問屋がひしめいていた地域に集中している。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   



 私の時代は「女子高校」と聞いただけで無条件に憧れ、そこに咲き誇る美しい花々を夢想し、身悶えしたものであった。

 私は東京・杉並区にある男女共学の都立高校だったが、そこは珍しく150・150の男女同数であった。そのため「フォークダンス」(懐かしいな)の時間に、むくつけき野郎同士でペアを組むということはやらずにすんだ。

 女子学生の甘く匂う黒髪と白魚のような白い手(容貌はこの際関係ない)を握りしめる至福の時間が永遠に続いてくれと願ったものである。女子校で、自分がなぜか一人だけそこに入ることができて、彼女たちに取り巻かれている姿を妄想したことも一度や二度ではない。

 そんな青春の甘美な思い出を『週刊ポスト』(12/11号、以下『ポスト』)はぶち壊してくれた。女子校育ちの女子社員は「好き嫌いが激しく、男を内心では蔑んでいるが、上手に利用している」女性が多いというのである。百年の恋も醒めてしまう言い方ではないか。

 『ポスト』によると「トラブルがあっても慌てないし、失敗してもへこまない。その点はすごいと感心するが、責任を感じないから困る。協調性もない。女性ばかりの中で育ったためか、黙っていては目立たないと、何でも強調して自分からアピールしてくるから、相手をしていて本当に疲れる」(53歳男性食品会社部長)というのである。

 そのうえ、管理職になると、気に入った部下には優しいが、嫌いな部下にはとことん厳しくするから、社内からは「不公平だ」という不満が渦巻いているという。

 だが『ポスト』が女子高校出身の女性代表として挙げているのは、首を傾げたくなる人ばかりである。その象徴的存在が父親と骨肉の争いを繰り広げた大塚家具の大塚久美子社長だという。彼女はお嬢様学校として有名な「白百合学園中・高出身」だが、「来客の前で社員を頭ごなしに叱責するなど、『お嬢様だからリーダーには向いていない』」(経済誌記者)と思われていたようだ。だが、父親に完全勝利した後は「お詫びセール」などで売り上げを拡大させ、6月の中間決算では当初の業績予想を上方修正させたのだが、ここでも「女子校育ちゆえのストイックさ」(同)が功を奏したと、経営手腕が評価されるのではなく、女子校育ちを云々されてしまうと、やや牽強付会すぎるのではないか。

 『ポスト』も書いているように、女子校出身者の社会に出てからの活躍振りには目覚ましいものがある。『週刊ダイヤモンド』(12年11/3号)では、「高校・中高一貫校別生涯賃金期待値ランキング」は、名だたる男子校・共学校を押しのけて2位にフェリス女学院、3位に女子学院がランクインしている。

 その例として『ポスト』が挙げているのは、島尻安伊子(しまじり・あいこ)沖縄・北方領土担当相(聖ウルスラ学院英智高=05年まで女子校)、「NEWS23」の膳場貴子(ぜんば・たかこ)アナ(女子学院中・高)、タレントでエッセイストの小島慶子さん(学習院女子中・高)、経済評論家の勝間和代さん(慶應義塾女子高)たちである。小島さんを除いて、島尻さんは知名度が低すぎるし、膳場アナは本業よりも東大卒の男と結婚・離婚を繰り返していることが話題になるほうが多い。勝間さんはたしかに男勝りの頑張り屋だが、男性からの好感度はあまり高くはないと思う。

 膳場さんのように「男関係に難あり」の理由として、「純粋培養というか、男を見る目がなくて、すぐに惚れてすぐに別れる」(42歳男性社員)ところがあり、やはり自らも女子校(女子学院中・高)卒の漫画家でコラムニストの辛酸なめ子さんは女子校出身者には「聖女」と「浮気症」の両面があるとして、こう言っている。

 「聖女タイプは男性に対して免疫がなく、妄想を膨らませやすい。『相手は自分に対して性的な魅力を感じているはずだ』とか。男性がちょっとこっちを見ただけで『いやらしい目で見てる』と思い込み、やたらとセクハラにうるさくなる。浮気症の面が強い子は会社役員の愛人になったり、社内不倫を誘発したりします。どちらにしても、男性上司や男性社員から見たら、距離の置きかたが難しいですよね」

 私たちの時代の女子校といえば「良妻賢母」の女性を育てる学校というイメージがあったが(古いね~)、今は少数派だそうである。当然であろう。女性が社会で働くことが当たり前になり、バカな男よりもできる女性のほうが企業にとっても有り難い存在になってきたのだから、エリート街道をまっしぐらにひた走る女性がこれからますます増えていくこと間違いない。

 私が『ポスト』の中で唯一納得したのはこの部分である。女子校育ちがなぜ社会で、女々しい男たちを尻目に存在感を増していくのか?

 「女子校出身者は学生時代に役割分担せずに、大変なことでもすべて女子だけでやってきた。だからリーダータイプの子にはとくに、『女子は賢い生き物で、同世代の男子は幼稚』と考えてしまう人が多いんです」(コラムニストの朝井麻由美さん=共学の都立西高出身)

 共学では自ずと男女の役割が決まっていて、男たちは知らず知らず、男はたくましく、女は優しくあれという「幻想」を抱いたまま社会に出て行くヤツが多い。だが、女子校出身者は“男もすなるものを、女もしてみむとてするなり”と、何から何までやってきているから、今どきのひ弱な男など何人かかってきても敵うわけはない。そのうえ、真面目に勉強しているからバカな男十人分以上の能力と働きをする。男以上に酒を呑み、座を盛り上げる能力も上だから、よほど人を見る目がない上司に遭遇しないかぎり女性が出世していくのは必然なのである。

 あえて、女子校出身の優秀な娘さんたちにアドバイスをするとすれば、「男はバカだけど可愛い」と思う気持ちを、心の隅にちょっぴりだけもってもらいたいということである。男ってナイーブで可愛いもんだなと、私はこの歳になってつくづく思っている。カミさんはまったくそうは思ってないようだが。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 11月30日に運用を担う年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が「公的年金の積立金の運用で、今年7~9月期に7兆8899億円の損失が出た。四半期の赤字額ではリーマン・ショック直後の2008年10~12月期の5兆6601億円を超え、年金積立金の市場運用を始めた01年度以降で過去最悪だった」(朝日新聞12月1日付)と発表した。このことは『ポスト』がだいぶ前に報じていたが、新聞は「発表されないと書かない」体質があり、これほど重大な政府の過ちを国民に知らせなかったのである。週刊誌にはまだまだできることがあるのだ。

第1位 「『シールズ』美人メンバーが『添い寝マッサージ』でバイト中」(『週刊新潮』12/3号)
第2位 「元CIA長官 衝撃の告白『飛行機か、地下鉄か──年内に米国でテロが起きます』」(『週刊現代』12/12号)
第3位 「『とくダネ!』小倉キャスター『歩きスマホに罰金を』発言の賛否」(『週刊ポスト』12/11号)

 第3位。『ポスト』はフジテレビの『とくダネ!』小倉智昭(ともあき)キャスターが、歩きスマホに罰金をかけろと発言して賛否が起きていると報じている。

 「自動車を運転している時に携帯を使ってると罰金になるじゃない。歩きながらスマホ使ってる人も罰金でも取ればいいじゃない。税収不足だし。止まってやらなきゃダメというルールを作りましょう」(小倉氏)

 モバイル評論家の法林岳之(ほうりん・たかゆき)氏も深く頷いて、小倉さんの発言は何もとっぴなものではないという。さらに世界的に歩きスマホは取り締まりの方向に傾きつつあり、米ニュージャージー州フォートリーでは12年に「歩きスマホ規制条例」が成立、違反者に85ドルの罰金が科されるようになっているというのだ。
 私も同意見である。私のオフィスのすぐ近くには早稲田大学があるが、地下鉄から降りた学生たちが、スマホを見ながらヨチヨチ歩くので蹴っ飛ばしたくなることがままある。
 横から覗いてみると、たいていはゲームをやっているだけである。そんなことは教室でやればいい。どうせ勉強なんかしないのだから。歩きスマホ禁止、電車の中ではスマホを通じなくするべきだとまで、私は思っている。小倉発言なんぞ当たり前すぎる。

 第2位。『現代』は元CIA (米中央情報局)長官のジェームズ・ウールジー氏(74歳)の独占インタビューを掲載している。
 イスラム国は次のテロはワシントンだと名指しした。アメリカはクリスマスシーズンを迎えて大混乱しているようだ。ウールジー氏がこう語る。

 「アメリカはかなり脆(もろ)い状態にあります。いますぐにテロリストがパリと同じような事件を起こしてもおかしくない。この数週間以内、つまりは年内にアメリカでテロ計画が実行されても、残念ながら私は驚きません。(中略)
 テロリストたちはアメリカで、自動小銃などを簡単に手に入れられます。言うまでもなく、これは悪用すれば大量殺戮が可能な武器となります。
 テロリストたちが使う通信手段もプレイステーションなどのゲーム機を使ったものになっており、非常に巧妙な暗号化がなされている。私がCIA長官を務めていた'93~'95年当時にくらべて、敵の情報を掴むのはより難しい。テロを未然に防ぐのは非常に困難になっているわけです」

 ワシントンでは、地下鉄での警察官の巡回強化、抜き打ち検査が開始され、ホワイトハウス周辺ではシークレットサービスが増員されたという。地下鉄を避ける通勤者も日に日に多くなっているそうである。
 在米ジャーナリストの肥田美佐子氏は、「アラバマ州やテキサス州などでは、護身のための銃器を求める人が急増している。パリでのテロ以降、売り上げが3割増を記録している銃器店もあるようです」と話している。
 だが、欧米はイスラム国を壊滅することはできないと、CIAでカウンターテロリズムアナリストを務めたアキ・ベリズ氏は指摘する。

 「イスラム国を壊滅したいのであれば地上部隊の派遣が必須です。(中略)
 もし地上部隊がうまくイスラム国が支配する都市を征服できたとしても、その後はどうなるのか。地上軍を撤退させれば、すぐにイスラム国は復活するでしょう。アメリカがイラク戦争で学んだのは、その国から撤退する方法を知らない限りは兵を送るべきではないということでした。が、アメリカはまだその答えを持っていない」

 在英国際情報シンクタンクのコマツ・リサーチ・アンド・アドバイザリーで代表を務める小松啓一郞氏は、テロはますます巧妙かつ悪質になっているという。

 「米英の諜報活動の専門家に聞くと、いまはボールペンのように見える超小型容器に格納できる生物兵器ができている。金属探知機にもひっかからず、500万円で作製できる。これを空気中に放つと早い人で17時間ほどで発病し、最終的に広島型原爆の60~70倍の殺傷力があるとされています」

 これは17時間前後経たないとテロが起こったことがわからないため、犯人は容易に犯行現場から離れ、地球の裏側まで逃げることができるのだ。
 日本も安倍晋三首相が「イスラム国対策」として中東諸国へ2億ドルの支援を行なうと表明したため、イスラム国からターゲットにされている。
 日本でテロが起きるとしたらどういう形で起きるのか、日本大学総合科学研究所の安部川元伸(あべかわ・もとのぶ)教授がこう話す。

 「日本では銃の調達は難しいので、化学肥料や除光液など身近で手に入る材料を使って爆発物を作り、人の多いところでそれを爆発させるテロが考えられます。ターゲットとしては銀座などの繁華街や、乗車率が過密な通勤時の電車などが狙われやすい」

 そんなことが現実に起きたら被害は甚大なものになる。そんな日が来ないように祈るしかないのだろうか。アメリカの9・11から14年。テロと戦い、テロをなくすと言っていた欧米諸国だが、テロはなくなるどころか世界中がテロの恐怖に怯えなくてはならないようになってしまった。
 もはやこれまでのようなテロとの戦い方を考え直し、迂遠なようだが力よりも格差是正や貧困をなくす方向で、少しずつ世界から「不満」を取り除いていくしかないのではないか。そう思う日々である。

 第1位。『新潮』の本領は、底意地の悪そうなおっさんが「正義」や「誠意」を建前にしている人間に対して、あんたの本音はそんなところにあるんじゃないだろ?とニヤニヤ笑いながら詰め寄るような記事にあると思う。
 反安保法で名を馳せた「シールズ」関西の美人メンバーが「添い寝マッサージ」店で働いていたという記事は、その典型的なものであろう。
 安倍政権を「命を馬鹿にしている」と批判し、「路上に立ちながら理想を語る」ことでよりよい社会を作っていきたいと抱負を語った小川麻紀さん(仮名)は、全国紙や政党機関誌にも度々登場した女性だという。
 その言やよしだが、その彼女によく似た女性が、さる大都市の繁華街にある「いかがわし気なマッサージ店」(『新潮』)の前で、女子高生の制服姿で客探しをしていたのを見つけたというのである。
 今話題のJK(女子高生)リフレと呼ばれる業態の店だそうだ。おっさん記者が「えいっ! とばかりに、60分8000円の“添い寝リフレ”なるコースを予約して、その子を指名した」(同)。薄いカーテンで仕切られた部屋で、彼女は「うつ伏せの記者に跨(またが)ってマッサージ」(同)をした後、添い寝してくれたそうだ。
 そこで「シールズの小川さんでしょ?」と尋ねると、あっさり認めたという。彼女は「こういうバイトを運動が受け入れられないとしたら、おかしいと思う。ファミレスとかケーキ屋さんでバイトしている子ばっかりって、そんな幸せな社会運動、ありえないでしょ」と話し、こう続けた。

 「ここで働いているのは半分賭みたいなもので、どっかでバレるなって。そうしたらシールズも辞めるつもり。バレたら、社会的にアウトですよ」

 おじさん記者は「マズイと思うなら、辞めたほうがいいんじゃないかな?」と、ごく当たり前の感想を漏らす。

 大昔なら、こうした底辺の女性たちの実態を知らずして社会変革などできはしない、私はそれを実践しているのだなどと大見得を切った女性がいたかもしれないが、彼女にそれを望むのは無理というものであろう。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   



 登山を楽しむ「山ガール」、ジョギングを楽しむ「美ジョガー」……。昨今は、オシャレを楽しみつつアクティブに運動する女性が増えているようだ。そのことは、デザインの洗練されたスポーツウェアが、市場を席巻していることからもわかる。またよく見れば、着ているものだけではない。メイクまでバッチリという女性が目立っている。

 運動の場で基本ノーメイクという感覚は、むろん一般的ではあるだろう。だが、それが仲間とのアウトドアやスポーツイベントとなると、話は違う。若い世代ならば自撮りやグループショットをSNSにアップするはずだ。そのときにメイクが崩れてパンダ目になっているようなことは避けたい。スポーツメイクが注目される所以である。

 運動すれば当然にして汗が流れるし、強い日差しにさらされることになる。日常的なメイクとは違ったアプローチが必要で、ファンラン(楽しむことを目的で走る)イベントでもメイク教室が開かれるといった状況だ。仕事向きでも遊び向きでも、通常のメイクは、ことスポーツ時に関しては雰囲気が合わないものという。だから専門の講師の話はたいへん参考になるらしい。もちろん、化粧品会社の方でも、スポーツメイク向けのアイテムの展開を狙っているはずだ。「運動しているときにも美しくありたい」という女性たちのバイタリティには、驚かされるばかりである。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 昨年、高度な医療を提供する「特定機能病院」で相次いで起きた医療事故を受けて、11月5日、厚生労働省は事故防止の対策をまとめた。

 特定機能病院は、医療機関の役割分担を進めるために、1992年に行なわれた第2次医療法改正で制度化された病院群のひとつ。手術や化学治療など高度な医療を提供する能力があると厚生労働省が承認した施設で、次のような要件がある。

・手術や化学治療など高度な医療の提供、開発及び、評価のほか、研修を実施している。
・内科、神経科、小児科、外科、整形外科、脳神経外科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、放射線科、歯科、麻酔科のうち10以上の診療科がある。
・地域の中小病院や診療所と連携し、患者の紹介率が30%以上ある。
・入院用のベッドが400床以上ある。
・医師、看護師、薬剤師、管理栄養士が一定数以上いる。
・集中治療室、無菌病室、医薬品情報管理室などの設備がある。

 以上のような条件をクリアした病院は、現在、大学病院を中心に全国に84施設(2015年11月現在)ある。承認されると診療報酬でも優遇され、一般的な病院に比べると入院料、技術料などで加算することができる。一定規模の医療機関が施設基準を整えて「特定機能病院」の承認を得ているのは、病院経営のうえでも重要な要素となっているからだ。

 しかし、今年6月、医療事故を起こした東京女子医大病院、群馬大学病院の2病院が、特定機能病院の承認を取り消される事態になっている。再発を防止するために、厚生労働省では特別チームをつくって立ち入り検査を実施。その結果、医療安全に積極的に取り組んでいなかったり、院内での事故報告の体制が整っていなかったりする病院が散見されたのだ。

 この報告を受け、今後は、特定機能病院に対して、「医療安全担当の専従の医師や薬剤師を配置した管理部門を設ける」「すべての死亡事例を管理部門に報告し、必要な検証を行なう」「医療安全の専門家、法律家など第三者が過半数を占める監査委員会をつくる」といったことが義務付けられた。改善策が守られない場合は、承認を取り消す可能性もあるという。

 だが、そうして特定機能病院の承認が取り消されると、最終的に困るのは高度な医療が受けられなくなる患者だろう。医療が複雑化するなかで、高度な医療を提供する特定機能病院には負荷がかかっているのも事実だ。

 どうしたら医療の安全を守れるのかは、医療者任せにせず、国民一人ひとりが考えたい問題だ。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   



 英語のインバウンド(inbound)は、本来「(外から)入ってくる」という意味だ。雑誌やニュースなどによって、少し使い方のぶれがあるので混乱するかもしれないが、基本的に「外国人の日本観光(客)」と捉えておけばいいだろう。たとえば「インバウンド消費」といえば、訪日観光客による国内での買い物をさすわけだ。

 インバウンドとは逆に、日本からの海外旅行のことを「アウトバウンド」という。わが国ではもともと、アウトバウンドと比較してインバウンドが少ないことから、政府が十数年にわたって観光客の誘致に躍起となっていた。その戦略が結実したか、あるいは円安などの影響か、大都市では外国人による消費が明らかに伸びている。ことに2015年は、「日経MJヒット商品番付」による表現を使えば「インバウンド旋風」と呼ばれる好調ぶり。現実として徐々に日本の人口が減っていくなか、この活況は頼みの綱かもしれない。

 アジア地域からの外国人が、家電や日用品を大量購入する「爆買い」は、今年の大きなトピックとなった。爆買いの象徴的な存在といえば、量販店のドン・キホーテ。多言語によるPOP(店頭で掲示される商品説明)を導入するなど、いち早くインバウンドの動向を察知していた。その手法は、いまや大手のデパート、また商店街などでも参考にしているという。

 2020年東京五輪に向けて、外国人を迎える環境は着々と整いつつある。いまこそ「おもてなし」とやらの実力が問われそうだ。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 個人のマンションや家の空き部屋に客を泊めて料金をとる「民泊」。旅館業法で規制されているが、これを解禁する動きが出ている。

 政府はすでに国家戦略特区による規制緩和で民泊を認める方針を打ち出しており、大阪府は2015年10月、宿泊日数など一定の条件を満たせば旅館業法の適用外で民泊を認める条例を国内では初めて制定した。2016年中にも民泊の営業が始まる。東京の大田区や品川区でも同様な条例を制定する方向だ。また政府の規制改革会議は新たな主要議題として民泊を取り上げることになった。民泊を国家戦略特区だけでなく全国規模で展開することを視野に2016年6月に実施計画をまとめるとの見方がもっぱらだ。

 民泊が必要なのは、外国人旅行客が増えて都市部を中心にホテル不足が深刻化しているからだ。国土交通省の観光統計によると、2015年8月の客室稼働率は全国平均で70.2%で過去最高。とくに外国人旅行客が多く利用するシティーホテルは85.2%で予約しにくい状況だ。そのためシティホテルの宿泊客はビジネスホテルに流れ、ビジネスホテルの稼働率も80.7%に達している。出張が多いビジネスマンからは「最近、ビジネスホテルが取れない」「ホテル代が高くなった」といった声が聞こえてくる。

 安倍政権は外国人旅行客を増やすのに熱心だが、急増するホテル需要に客室数が追いついていない。民泊にはこれを補う側面があるだろうが、騒音やゴミ出しなど問題も起きている。安全・衛生管理なども果たして十分なのかどうか。クリアすべき課題がある。
   

   

マンデー政経塾 / 板津久作   



 「フレンド(友だち)」と「エネミー(敵)」を合わせた造語で、「仲が良いと思っていたのに、じつは裏では敵だった」という人間関係のことを指し、なぜか2015年の『ユーキャン新語・流行語大賞』(『現代用語の基礎知識』選)にもノミネートされている。

 なぜ「なぜか〜」なのかと言えば、この「フレネミー」なる言葉は、「五郎丸ポーズ」や「あったかいんだからぁ」……に代表される従来の大賞候補語と違って、その出どころやブレイクの時期が特定できないから。表現を変えれば、数年前からすでにじわじわと浸透してきて、「そろそろ今年あたり、いいんじゃない?」みたいな感じでピックアップされた(っぽい)、流行語大賞史上では、なかなか珍しいケースであるからだ。

 とくに女性同士の恋愛絡みのいざこざで勃発しやすいネガティブワードとされているが、このような関係性は男性社会の出世競争や国家間のかけひきにおいても日常茶飯事であり、ゆえにライトなテイストでメジャーな流行語として世に出回るには少々ポップさに欠ける印象が筆者的には強い。もっとベタに「テキトモ」くらいにとどめておいたほうが、LINEとかでも気軽に使用できるのではなかろうか?
   

   

ゴメスの日曜俗語館 / 山田ゴメス   


<<前へ       次へ>>