冬の京野菜は、寒い季節ならではのご馳走が揃っている。聖護院(しょうごいん)かぶらや聖護院大根、中堂寺大根(茎大根)、金時にんじんは欠かせない。さらに、九条葱、壬生菜(みぶな)や水菜、酢茎(すぐき)もある。

 そんな冬野菜の一つの堀川ごんぼは、堀川ごぼうや聚楽ごぼうとも呼ばれるゴボウの一種だ。中心が空洞(ほんがら)になっていて、太くても肉質は柔らかく、食感が少し、しこしこしている。鰹だしと合わせると、独特の芳香がぷんぷんとして、食欲がそそられる。普通は、月環(げっかん)、付け焼き、たき物、きんぴらなどにして食べる。調理するときは、米のとぎ汁で柔らかくなるまで湯がいた後、月環ならば、中心の空洞になった部分をくり抜き、海老のすり身や鶏の挽き肉をそこに詰め、おだしと淡口醤油、味醂などで調味して炊きあげる。

 堀川ごんぼの歴史は古く、400年あまりにわたり京都の農家が守り抜いてきた品種である。現在は一乗寺(左京区)付近で栽培されている。その由来が面白く、最初に見つかったのは、豊臣秀吉が築いた幻の邸宅、聚楽第のお堀である。お堀は秀吉の没後は荒廃し、ゴミ捨て場と化していたところ、そこに破棄された食べ残しから発芽したのが堀川ごんぼだという。このゴボウは収穫される機会のないまま大きく育っていたが、食べてみると、独特の味わいのあるものだった。それ以降、年越しゴボウとして栽培が続けられるようになったそうである。

 一時は流通量が極めて限られたため、高級料理店でなければ食べられなかったが、現在は錦市場などでも見かけるようになった。京都のちょっとした居酒屋や割烹でも味わうことができ、正月のお重としても欠かせない食材になっている。


写真奥が、しんじょうを詰めた堀川ごんぼの焚きもの。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   



 作家。享年85。代表作に『エロ事師たち』『アメリカひじき』『火垂るの墓』『骨餓身峠死人葛』『文壇』などがある。

 1930年神奈川県鎌倉市で生まれたが実母は彼を産んですぐ亡くなり、養子に出されている。1945年の空襲で養父も失い、上京して少年院にいるところを実父に引き取られたそうだ。

 直木賞を受賞した『火垂るの墓』は1945年、下の妹を疎開先の福井県で栄養失調で亡くした自分の体験に基づいて書いたものである。

 早大文学部仏文科に入学して7年間在籍する。1962年に出した『プレイボーイ入門』で 「元祖プレイボーイ」として脚光を浴び、1963年『エロ事師たち』で文壇デビュー。同じ年に『おもちゃのチャチャチャ』でレコード大賞童謡賞を受賞している。

 サングラスと早口で相手を挑発する言動が度々話題になったが、根は気の弱い優しい人であったと、野坂氏と交友のあった多くの人たちが語っている。

 私は、野坂氏とはほとんどお付き合いはなかったが、講談社にはよく来ていて、エレベーターで一緒になった。トレードマークのサングラスがとても格好良かった。私も真似て黒のメタルフレームのサングラスをかけていたことがある。あるとき野坂さんが私のそれを見て何やら言いたそうにしていたが、そのまま別れた。その後、某パーティで会ったら私と同じメタルフレームに変えていた。

 野坂さんに原稿を頼み、神楽坂の物書き旅館「和可菜」にもらいに行ったことがある。このときは無愛想な野坂さんで、原稿の入った封筒を放り投げるように渡したきり、背を向けてしまった。

 銀座のバーや新宿ゴールデン街などで会う酔っ払った野坂さんは、呂律が回らず何を言っているのかよくわからないが、誰彼かまわず話しかけてくる人懐っこいところがあった。私同様、吉永小百合の大ファンでもある。

 シャイで繊細な人であったと『週刊新潮』(12/24号)で元タカラジェンヌで妻の野坂暘子(ようこ)さん(74)が話している。

 「お酒といえば、サングラスと同じく“シャイな自分を隠すため”なんて世間で言われていた通り、野坂にとっては気付け薬のようなものでした。(中略)
それでも家庭では、本当に丁寧な人でした。私は、名前を呼び捨てされたり『おい』なんて言われたことは一度もなく、結婚当初からずっと『あなた』と呼ばれていました。元来育ちは良い人で、食事の作法も実にスマート。養子に行った先の神戸のお宅でも、相当に厳しく躾けられたのだと思います」

 自分で「酒はどしゃ飲み」と言っているように、雑誌『酒』(昭和47年新年特別号)の「文壇酒徒番附」で作家・立原正秋氏と並んで東の横綱とされている。

 酒での武勇伝は数知れない。有名なのは大島渚監督夫妻の真珠婚式で、自分の祝辞の番を飛ばされたと勘違いした野坂氏が大島氏をいきなりぶん殴ったことである。大島氏も負けじとマイクで殴り返したが、二人の友情にヒビは入らなかった。

 行動の人でもあった。72年には氏が編集長をしていた雑誌『面白半分』に掲載した『四畳半襖の下張り』がわいせつ文書販売容疑で摘発されると、敢然と法廷闘争を挑んだ(最高裁で有罪が確定)。

 クロード野坂と称して歌手活動もし、小沢昭一、永六輔と「中年御三家」を結成して武道館でライブを行なって大成功させている。彼が吹き込んだ『黒の舟唄』はかなりヒットした。

 参議院議員になった後、田中角栄の金権政治を批判して旧新潟3区から出馬するなど、常に時代を挑発し続けた人だった。

 だが03年5月に脳梗塞で倒れてから、夫人との二人三脚が始まった。暘子さんによれば、発症してからあれだけ好きだった酒とタバコをキッパリ止めたという。右手が動かなくなり夫人に口述筆記をしてもらっていた。議論好きが喋ることもかなわなくなってしまった。

 「それなのに野坂は、ついに死ぬまで、ひと言も文句や不平不満を口に出しませんでした。どれだけ苦しかっただろうと思います」(暘子さん)

 焼け跡闇市派と称していた野坂氏は最後まで、「『戦争について語るために僕は生きているんだ。日本が目の前で崩れていくのが見えるようだ。もっともっと戦争の恐さを伝えていかなくてはいけない』」(暘子さん=『週刊文春』〈12/24号〉より)と言っていたという。

 葬儀は野坂氏の生前の希望を生かして無宗教で戒名なし。祭壇には野坂氏の遺骨が置かれたという。

 弔辞を読んだ作家・五木寛之氏(83)は「野坂さんは1960年代の象徴だった」と言った。「二度と飢えてる子どもの顔は見たくない」(永六輔氏)と言い続け、ノンフィクション作家の本田靖春氏とともに、戦後民主主義を頑ななまでに守ろうとした人であった。

 良寛の辞世の句に「うらを見せ おもてを見せて 散るもみぢ」がある。紅葉が裏を見せ表を見せてひらひら散るように、人間は喜びや悲しみ、長所や短所など、さまざまな裏と表を世間にさらけ出しながら死んでいく。

 野坂氏の書くものも彼の生き方も、自分の裏も表もさらけ出した。それでも最後にはこう呟くのである。

 「いとしいなあ、いとしいなあ……人間生きたる限り、そういうもんや……」(野坂昭如著『エロ事師たち』より)

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 今年もあとわずか。来年は今年よりもよい年になるように祈りたいが、週刊誌の予測では波乱の多い年になるようである。温暖化は年ごとに早さを増し、東京周辺での大地震も囁かれている。日本沈没、いや世界が沈没する日が近いのかもしれない。一日一生と思い定めて生きていかなくてはならないようだ。

第1位 「テレビ通販番組で銃を売るって正気?」(『ニューズウィーク日本版』(12/22号)
第2位 「2016年大予言 日本の天国と地獄」(『週刊ポスト』1/1・8号)/「2016年大予測! ニッポンが変わる世界が変わる」(『週刊現代』1/2・9号)
第3位 「こんなにあるぞ! あと5年頑張れば死なずに済む病気」(『週刊ポスト』1/1・8号)

 第3位。『ポスト』が紹介している新薬の話。国内で年間約7万2000人が命を落とす肺がん治療で注目を集める新薬が「免疫チェックポイント阻害薬」だという。

 「人体に備わっている免疫細胞は異物や細菌などを攻撃し、身体を病原体から守る。これまでの抗がん剤はその攻撃力を高めるものが主流だったが、一方でがん細胞側には、免疫細胞からの攻撃を弱める『PD-L1』というタンパク質が備わっていることが最近の研究で明らかになった。要は抗がん剤で免疫の“アクセル”を踏んでもがん細胞側が同時に“ブレーキ”を踏む状態になっていた。
 慶応大学医学部先端医科学研究所所長の河上裕教授が解説する。
 『このブレーキを破壊すれば、免疫細胞はがん細胞を効果的に攻撃できます。「免疫チェックポイント阻害薬」はブレーキ役の「PD-L1」を無効にするよう働きかけます』」(『ポスト』)

 米製薬会社「ブリストル・マイヤーズ スクイブ」の研究では、この新薬は肺がん患者の死亡リスクを既存の抗がん剤より4割も減らしたというのである。
 日本ではすでに世界に先駆けて「免疫チェックポイント阻害薬」の実用化が進んでいる。小野薬品工業が開発した薬が新規治療薬として承認されたそうだ。近い将来肺がんでも適用される予定だという。
 糖尿病も国内で年間約1万3000人が亡くなる。I型糖尿病は生活習慣とは無関係に、血糖値を下げる働きを持つインスリンが分泌されなくなる病気だが、この糖尿病を抜本的に治療するため、山中伸弥・京大教授が所長を務めるiPS細胞研究所は、iPS細胞などの幹細胞を使ったβ細胞の作成に心血を注いでいる。
 すでに米ハーバード大学などのチームがヒトの幹細胞からインスリンを分泌する細胞を作成することに成功しているという。この細胞を手術で人体に移植すれば、インスリン分泌の機能が回復するかもしれないというのだ。そうなれば、I型糖尿病の完治も夢ではない。
 また、若返り薬もできそうだという。米・ウォールストリートジャーナルなどによると、寿命を延ばすとされる薬「メトホルミン」の臨床試験をアメリカの米食品医療品局(FDA)が世界で初めて承認したそうだ。
 これはもともと糖尿病の治療薬として広く使われていたそうだが、英カーディフ大学の研究者が調べたところ、この薬を投与された糖尿病患者が、他の患者より平均8年も長生きしたことから研究を始めたというのだ。
 研究者は投薬により人間の老化を20年遅らせる効果があると主張しているという。

 第2位。『ポスト』と『現代』がともに来年の予測をやっている。『ポスト』から見出しを見てみよう。「山口組VS神戸山口組『正月抗争』勃発!」「軽減税率で屈服した自民党&財務省が通常国会で『菅降ろし』クーデター」「フジテレビ民放最下位に転落 カトパンほか人気女子アナが流出」「東芝、シャープ、そしてソニーが大合併 新社名は『シャー芝ソニー』!?」「参院選『自民圧勝』に大異変! 共産党が『大衆党』に党名変更」「トランプ大統領誕生でついに日本は戦争に駆り出される!」などなど。
 『現代』のほうは「『株価1万5000円割れ、1ドル100円』と読む専門家もいるが、実際のところは」。
 『現代』によれば、来年夏、来年秋以降を「要警戒」とする声は多いという。

 「来夏の選挙以降、安倍政権が経済政策に関心を失い、安保政策へ傾注し始めれば危険。これまでは日本銀行や年金基金などの公的マネーに支えられてきた面が大きいので、政策転換が意識されれば、日本売りに火がつく。年末には1万6000円まで売り込まれる事態もあり得る」(BNPパリバ証券日本株チーフストラテジストの丸山俊氏)
 「直近の中間決算で日本企業の下方修正が目立ってきたが、企業業績はすでにピークアウトしており、16年度は大幅減益でしょう。春闘も賃上げどころではなく、暗転。日本株は1万4000円くらいまで売り込まれるでしょう」(ミョウジョウ・アセット・マネジメント代表の菊池真氏)

 あまり明るく見ていないようである。『現代』もやはりアメリカ大統領選はトランプ有力と見ている。
 ジャーナリストの堀田佳男氏はこう言う。

 「『イスラム教徒は入国禁止』といった発言を連発しても、トランプ氏の支持率は下がるどころか上がり、今や共和党内で40%に達しています。
 『トランプ支持者は、教育レベルが低い低所得者』とされますが、一概には言えません。というのも、白人のインテリにも『彼の実行力、行動力は認めざるを得ない』と考える人が増えている。
 アメリカ人にとっては、ビジネスで成功し大富豪になったトランプ氏の、『オレに任せてくれれば、中東和平だってすぐ話をつけてみせる』といった自信満々の発言は、非常に説得力があるのです」

 80年にもまさかは起きている。俳優上がりのタレント候補とバカにされていたドナルド・レーガン氏が、現職のジミー・カーター氏を破り大統領になった。
 巨大地震も心配である。琉球大学名誉教授の木村政昭氏はこう語る。

 「みな、南海トラフの心配ばかりしていますけれども、私が2016年に心配している場所は、伊豆諸島周辺です。ここでM8・5の地震が起きると予想しているのです」

 氏が長年の研究から、この超巨大地震がやってくると予想した期間は2012年±5年。つまり2017年までとなり、刻一刻とその時が近づいている状況だという。木村氏が続ける。

 「とくに震源が東京湾の南東方向だった場合、東京が巨大津波に襲われる可能性がある。これは東京の防災上の弱点とも言えるでしょう」

 来年も波乱の年になるのだろうか。

 第1位。『ニューズウィーク日本版』に驚くべき記事がある。来年1月20日から、カリフォルニア州で全米初の銃器専門通販の放送局『ガンTV』が立ち上げられ、銃や銃弾、付属品の販売をオンラインで行なうというのである。
 12月初めにこの州のサンバーナディーノの障がい者支援施設で銃の乱射事件が起きたばかりだし、ここは全米で最も厳しい銃規制法があるのにだ。
 銃暴力防止団体のローラ・クティレッタ上席弁護士は「銃の犠牲になる人は年間3万人。その多くは自宅で銃を見つけた子供たちだ。(中略)
(銃は=筆者注)夜中の3時にテレビを見ながら、ふと思い立って買うものではない」と、この通販を批判している。
 だが「恐ろしい事件が起きると銃を捨てるのでなく、銃を買いたくなる」(『ニューズウィーク日本版』)のがアメリカ人なのだ。
 銃を買うときには身元審査が行なわれるが、1日の処理が最高だったのは12年に26人が銃の犠牲になったサンディーフック小学校事件の翌日の17万7170件だった。しかし今回のパリのテロ事件が起きた後の先月27日には、その記録を塗り替える18万5345件の身元照合があったという。
 テロを企てようとしている犯罪歴のない人間も、ネットで簡単に銃を手に入れることができるのだ。こんな国に私は住みたいとは思わない。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   



 猫の醸し出す愛らしさは、いつの時代でも人気だっただろう。だから、改めて「いま猫がブーム」といわれたところでピンとこないかもしれないが、ビジネス的な話でいえば、たしかに「きている」といえそうだ。

 その例は枚挙にいとまがない。いまや「猫カフェ」は東京だけではなく日本全国にある。書店でも関連書籍が目立って多く、昔からネコを被写体とする仕事でも名高い岩合光昭(いわごう・みつあき)氏の写真集も改めて売れている。スマホ向けのゲームでは、『ねこあつめ』(開発元:ヒットポイント)が大ヒットした。グッズもエンタメも、とにかく猫、ネコ、ねこ。このようなネコに関するビジネスの好調を、最近は「ネコノミクス」と称する。安倍内閣の「アベノミクス」からきていると思われる。

 地方もまた、猫に注目している。2015年にこの世を去った貴志駅の「たま駅長」は、和歌山電鐵の運営におおいに貢献したが、このことは猫が観光の切り札となる可能性を示唆したといえよう。近年、「日本最北の猫島」などと呼ばれる田代島(たしろじま/宮城県石巻市)などが、猫好きのあいだで知名度を増している。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 12月16日、最高裁大法廷は「夫婦別姓」を求めて争われていた注目の裁判で、原告の請求を退け、夫婦同姓を定める民法の規定を合憲と判断した。

 民法第750条では、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と定めている。これは明治時代に始まり、戦後に「家制度」を廃止したあとも残された規定だ。夫婦同姓を義務付ける国は世界のなかで日本だけとされており、国連からも是正を求められている。

 1996年、法務省の法制審議会は、夫婦の希望によって別々の姓を名乗れる「選択的夫婦別姓制度」の導入を提案。だが、政府与党である自民党内に「日本の伝統を壊す」「家族が崩壊する」などの反対意見が多く、制度導入は棚上げにされてきたのだ。

 そのため、2011年には、事実婚の5組の男女が、夫婦別姓を認めない民法の規定は婚姻の自由を侵害しているとして、国を相手に提訴。一審、二審ともに原告が敗訴し、上告していたが、国内の科学者84万人を代表する日本学術会議が「違憲判決が出ることを強く期待」とコメントするなど、最高裁での判決に注目が集まっていた。

 だが、最高裁裁判長の寺田逸郎(いつろう)長官は、夫婦同姓が日本の社会に定着していることから合理性があるとして、民法750条の規定を合憲と判断。原告の請求を退ける結果となった。ただし、今回の判決は、選択的夫婦別姓制度に合理性がないと断ずるものではなく、国会での議論を促す形となった。

 また、ジェンダー問題を扱うだけに、裁判官の男女構成比も問題になった。最高裁の裁判官15人のうち、女性はわずか3人。今回は、その3人の女性裁判官すべてが「民法の規定は違憲」と反対したにもかかわらず、10人の男性裁判官による多数意見で判決が下された。裁判官の男女構成比が、判決に影響を及ぼしているとも考えられる。

 結婚後も働き続ける女性が増えるなか、仕事で使う旧姓と戸籍上の氏が異なることでの混乱も多い。

 夫婦別姓だと「子どもによくない影響がある」「家族の一体感が損なわれる」といった意見もあるが、そこには明確な科学的根拠は示されていない。そもそも、家族は必ず一体感を持って暮らさなければいけないものでもないはずだ。

 最高裁判決は下されたが、現実的には夫婦別姓論議に決着がついたわけではない。古くからの因習や感情論ではなく、現実社会で人々が暮らしやすい戸籍制度とはどのようなものなのか、今後も議論を続けていく必要がある。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   



 外国人旅行客が驚くことの一つに、コンビニで飲むコーヒーのうまさがあるらしい。かなりクオリティが高いというのだ。一応は「客観的評価」といえるもので、日本のコンビニ業界の味へのこだわりを示しているといえよう。2013年1月、セブン-イレブンが「セブンカフェ」を展開したことで、各社競合が勃発し、コンビニにおけるコーヒーの質がグンと上がった。これと同じような状況がいま、ドーナツをめぐって起こりそうだ。

 2014年の試験販売を経て、セブン-イレブンが本格始動した「セブンカフェ ドーナツ」は、2015年を代表するフード分野でのヒットとなっている。「レジ脇でドーナツを売る」という商法をみごとに確立させた。これに追随してドーナツの専用ケースを設けたローソン、そして現状はパンコーナーでドーナツを売っているファミリーマートと、三社が火花を散らしている。

 安閑としていられないのはミスタードーナツである。かつてはライバルだったダンキンドーナツは1998年に撤退。しばらく業界に脅威になる存在はいなかったものの、もはやコンビニドーナツの隆盛をただ見ているわけにはいかないだろう。目下、アメリカの名店・ドミニクアンセル ベーカリーの日本進出など、ドーナツ自体が流行中といえる状況。歓迎すべきブームの一方で、「敵」は急激に増えている。

 ミスタードーナツのような専門店と、コンビニドーナツの売り方はもちろん異なる。コンビニのドーナツは「ついで買い」商品で、現状は専門店の味に至ってはいまい。逆に言うと、コンビニドーナツには美味しさの改良というゾーンがまだまだ残っている。ドーナツ戦争の行方は、しばらく予断を許さない。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 2016年、画期的な「オフィス機器」が発売される。なんとオフィスで再生紙を作り出す装置を、セイコーエプソンが開発した。

 装置の名前は「PaperLab」(ペーパーラボ)。発表資料によると、使用済みの紙を入れてボタンをポンと押す。すると装置の中で機械的な衝撃で綿状の繊維に分解し、その後、結合素材を混ぜた上で加圧、再生紙として成形する。この過程でインクも取り除かれる。約3分で最初の1枚が出てくる。A4だと毎分14枚、1日8時間稼働させれば6720枚を生産できる計算だ。

 普通、A4の紙1枚を作り出すのにコップ1杯分の水が使われているがペーパーラボは水を一切使わない。コンセントにつなぐだけでいいのだ。コピー用紙や名刺用紙、色や香りがついた紙も生産が可能だ。大きさは横幅2.6メートル、奥行き1.2メートル、高さ1.8メートル。ちょっと奥行きのある事務棚という感じか。

 価格は明らかになっていないが、「10年間、一定量の紙を再生すればもとがとれる」という。

 導入先はオフィス用紙を大量に消費している大企業や役所だろうか。利点は書類の処分を外部に委託せずに済むこと。機密文書などはシュレッダーで裁断する必要もない。綿状の繊維質まで分解するからだ。

 現在、紙のリサイクルはオフィスで回収→工場に輸送→再生紙製造→販売業者に輸送→オフィスに再生紙を輸送──というサイクルだが、これが社内だけで済む。輸送の手間がかからない。

 エプソンといえばプリンターや複合機だが、それにしても独創的な機器を開発したものだ。
   

   

マンデー政経塾 / 板津久作   



 「やればできる子」をローマ字表記(Yareba Dekiru Ko)にし、その頭文字3つを組み合わせた造語。

 「やればできる子」自体は、さして目新しくもなく、「その気になったらやれるじゃん!」と、子どもや同世代の友人のやる気を喚起させるための励まし文句として、数年前からじわじわ流行り出していた。

 筆者もここ数年、草野球で滅多にしない盗塁やスライディングやバントを成功させたときは、一番年長者なのにチームメイトから「やればできる子!」とよく野次られたりするが、こう言われたら、たしかに息子くらいの年齢の若手から「子」扱いされても、まんざらじゃない嬉しさがじわっと込み上げてきたりもする(「やればできるヒト・オジサン」だといきなり語感が悪くなってしまうし)。個人的にはけっこう好きな言葉である。

 ただ、「YDK」と省略することによってポップなイメージが強くなり、そのありがたみまでが薄まってしまう、それどころか「やれるのにやらない子」というネガティブなニュアンスさえただよってくると感じるのは、はたして筆者だけだろうか? 女子高生を「JK」としただけで、なんとなく犯罪性を帯びてくるのと同様で、なんでもかんでも頭文字化するのはいかがなものかと思うのだが……?

編集部注:YDKは2014年、学習塾の明光義塾のテレビCMで最初に使われた。
   

   

ゴメスの日曜俗語館 / 山田ゴメス   


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