京野菜が続々と旬を迎える夏。おばんざいが一番おいしい季節である。茄子、胡瓜、人参、じゃがいも、葱、椎茸などを油煮にする「野菜の油煮(炒め煮)」は、スタミナもつくので盛夏のおばんざいとしてよく食べられる。つくり方は、鍋に炒めるときよりも多めの油をいれ、野菜にゆっくり火を通すのがコツ。味付けは、おしたじ(醤油)と砂糖で少し甘めに加減する。

 そのままでもおいしい「野菜の油煮」に、もう一工夫加え贅沢にしたのが「泥亀煮」だ。なんとも不思議な名前であるが、実際につくってみると、その意味はすぐわかる。「泥亀(どろがめ)」とは「スッポン」の別称で、まさに泥まみれの亀なのである。

 泥亀煮の材料は、茄子、八丁味噌、半ずりの白ごま、だし、砂糖、味醂、おしたじ。油はごま油とサラダ油の両方を用意する。まず、茄子は縦半分に切り、裏表に格子の切れ目を入れ、あく抜きをする。油は両方混ぜて熱し、続けて茄子をゆっくり炒める。そこに用意しただしと白ごま、調味料を加え、中火で10分。八丁味噌は煮汁でのばしておき、最後のほうで鍋に加え、煮汁がほぼなくなれば完成である。茄子に含ませた胡麻の風味や甘めの味つけは、京都の蒸し暑い夏にも食欲を湧かせてくれるはずだ。

 実は「泥亀煮」を八丁味噌ではなく、白味噌で仕上げるという手もある。すると、「利休煮」という上品な名前になる。「利久煮」というのは、茄子料理だけというわけではなく、胡麻を使った煮物の総称である。なんでも千利休は胡麻好きというだけでなく、黒胡麻のようなやや緑がかった灰色を料理としても好んだらしい。「利休揚げ」や「利休かまぼこ」、「利休豆腐」など、「利休」という名のつく胡麻料理はいろいろあるのだが、夏のおばんざいというならば、利休もきっと八丁味噌仕立ての「泥亀煮」を「うまい」と感じたのではなかろうか。

 

   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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