西日本と東日本の食べものの違いについて、かねてからいろいろ触れているが、「おにぎり」一つにこれほど違いがあるとは思いもしなかった。

 まず第一に、形が違う。東日本は三角か丸型が標準の形だと思うが、京都は俵型が基本形である。さらに、お葬式や法事などの特別なときに使うものや食べるものは、日常のものと異なる形にするという風習があり、京都では「おにぎり」を三角形にすることが多い。さらに、三角形の「おにぎり」は、災害時の炊き出しや火事場のお見舞いなどとして用いるものともされている。気の急いているときにどこからでも食べやすいからだという。コンビニエンスストアの「おにぎり」が日常食化している昨今、このような風習は徐々に薄れているものの、肝心なときに問われる大切な常識といえるだろう。京都には神社やお寺が多く、古い行事や祭が頻繁に行なわれるためかもしれない。

 一方、「おにぎり」の中身は、海苔や昆布の佃煮、おかか、明太子、たらこ、焼いた塩ざけなどが定番だ。これに東西の違いはないものの、京都で初めて「おにぎり」をいただいたとき、かぶりついて思わず口から出しそうになったことが思い出される。なぜかといえば、海苔を巻いた「おにぎり」のそれが、味付け海苔を使っていたからだ。それまで味付け海苔は、旅館の朝食ぐらいでしか食べる機会がなかったのでずいぶん驚いた。京都では、子どもにも、大人にも、一番食べ慣れた「おにぎり」だと教えられた。

 

   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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