しっかりと粘りのある丸餅に、丹波大納言を使った粒あんが堂々とのっている。粒あんは、編み笠の形を模(かたど)っているという。このあんが甘さを控えた上品な味なので、丹波大納言のつぶつぶ感が引き立ち、すっきりとした餅菓子に仕上がっている。この「おせきもち」に加え、もう一つの看板メニューである「おはぎ」もおいしそうだ。

 「おせきもち」は京と大坂を結ぶ鳥羽街道の茶屋として、450年前に創業した。名前は、餅菓子も、茶屋も「おせきもち」という。由来は江戸時代に「せき女」という女が笠の裏に、編み笠の形をした餅をのせ、鳥羽街道の旅人に振る舞ったのが最初だという。

 淀川に沿うように進む鳥羽街道は、当時の大坂と京都を行き来する人がたいてい通った道である。京都の表玄関という立地で、昔は平安京の正門、羅城門へと続いている大道の入り口があった付近にあたる。現在は名神高速道路の京都南インターチェンジ付近にあたり、自動車の往来が激しく、歩いている旅人はほとんど見当たらない。だが、変わらぬ味と、ふっと往時を偲ばせるような趣のある茶屋を訪ねてくる客は後を絶たない。1200年あまり前の平安遷都のとき、都の守護と国の安泰を祈願して創建された、方除(かたよ)けの大社・城南宮の参道近くにあるため、参拝みやげとしてもずっと愛されてきた茶屋である。

 

   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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