日本語にすると「もう一つの事実」あるいは「代替的事実」。

 米国・トランプ政権から飛び出した奇妙な言葉である。その経緯はこうだ。

 2017年1月の大統領就任式会場の人出について、米メディアは8年前のオバマ大統領の就任式に比べてとても少なかったと指摘した。

 これに対し、トランプ大統領自身が米メディアを「うそつきだ」と批判。さらにスパイサー報道官は「史上最多の聴衆だった」と主張した。その際、高圧的なスパイサー氏は記者からの質問を一切受け付けつけなかった。

 そこに登場したのがコンウェイ大統領顧問。テレビ番組で前述のスパイサー発言への疑念を指摘されると、こう言い放ったのだ。

 「オルタナティブ・ファクトだ」

 ちなみに、8年前の就任式の写真と比べると明らかに人出が少なかったのは「客観的事実」だ。

 コンウェイ氏の発言は、事実の前に強弁としか言いようがない。番組ではキャスターから「代替的事実とは事実ではない。ウソだ」と反論されたが、当然だ。コンウェイ氏は「いずれにせよ人出の数を確認する方法はない」としか言い返せなかった。

 「オルタナティブ・ファクト」にはトランプ政権によるメディア批判の側面がある。見逃してはならないのは、政権に批判的なメディアの指摘を一切認めず、逆に「偽ニュース」として根拠もなく排除する、その政治的スタンスだ。逆にトランプ大統領にこそ、虚言ぶりが目立つ。

 野放図なトランプ節に我々はもっと警戒せねばならない。
   

   

マンデー政経塾 / 板津久作   


板津久作(いたづ・きゅうさく)
月曜日「マンデー政経塾」担当。政治ジャーナリスト。永田町取材歴は20年。ただいま、糖質制限ダイエットに挑戦中。
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