「娘さん、しっぽりしてきよったなぁ、最近。うちのキョロはほんま、なに考えてんのやら……はずかしいわぁ」。

 「しっぽり」は、大人びていたり、落ち着いていたりする様子を表す言葉である。もともとは、「しっとりと十分に濡れるさま」や「しめやかなさま」、あるいは「男女間の情愛のこまやかなさま、親密なさま」(『日本国語大辞典』)といった意味でも使われてきた。京都や奈良、和歌山などではニュアンスが若干変化した他の意味もあり、「熱心な」という意味で、「しっぽりきばってもろて、わるいなぁ」というような使い方もされていたそうである。なお、「キョロ」というのは、目をキョロキョロしているというところから「落ち着きのない人」という意味で、かわいらしさを加味しつつ使われることが多い。

 「しっぽり」の「大人びたしっかり感」がいきすぎて、厳しさが加わるほどになると、「しかつい」という形容になる。「おたく、この頃しかついこと言わはりますな」などという感じ。ちょっと皮肉交じりに注意を促すわけだ。また、「しっぽり」の対義として使われる言葉は、せかせかして落ち着かないという意味の「いらち」であろう。「ほんまにいらちやし、忘れもんせんといてな」という風に使う。標準語の「せっかち」と同じような使い方だろう。


峰床山(左京区)にて。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
ジャパンナレッジとは 辞書・事典を中心にした知識源から知りたいことにいち早く到達するためのデータベースです。 収録辞書・事典80以上 総項目数480万以上 総文字数16億

ジャパンナレッジは約1900冊以上(総額850万円)の膨大な辞書・事典などが使い放題のインターネット辞書・事典サイト。
日本国内のみならず、海外の有名大学から図書館まで、多くの機関で利用されています。 (2024年5月時点)

ジャパンナレッジ Personal についてもっと詳しく見る