白頭山は中朝国境にある山。標高は2744メートル。朝鮮半島では最高峰である。

 白頭山は、朝鮮民族にとって特別な意味を持つ山だ。民族の祖・檀君(だんくん)の出生地とされるからだ。加えて北朝鮮は第二次世界大戦後、同国を建国した金日成(キム・イルソン)主席が、白頭山を根城とする抗日パルチザンの指導者だったとしている。息子の金正日(キム・ジョンイル)総書記も同地で誕生したという。そのため、白頭山は、檀君を引き合いに、金日成主席の一族を神聖化するための、いわば「舞台装置」と言える。

 「白頭山の血統」は、こうした神聖な白頭山への崇拝を背景に、金日成主席の血を受け継ぐ者が正統と位置付けられている。現在の金正恩(キム・ジョンウン)委員長は金日成の孫に相当する。

 最近、「白頭山の血統」が取りざたされるのは、2017年2月、マレーシアで金正日総書記の長男である金正男(キム・ジョンナム)氏が、VXガスにより毒殺されたからだ。

 犯行には北朝鮮の国家ぐるみの関与がマレーシア当局の捜査で明らかになっている。金正男氏は、一時期、北朝鮮政権トップの世襲を批判していた。

 金正男氏はまぎれもなく「白頭山の血統」の一人である。その殺害指令は、弟でもある金正恩委員長でない限り、できないはずだ。金正恩委員長が、自身の座を脅かしかねない血統の一人を排除したのである。金正恩委員長は「自分に刃向かうものは断じて許さない」という、独裁者に共通する性格があるようだ。気になるのは、金正男氏の子息も暗殺される可能性を指摘されていることだ。

 「白頭山の血統」の裏には血生臭いものが見え隠れしている。
   

   

マンデー政経塾 / 板津久作   


板津久作(いたづ・きゅうさく)
月曜日「マンデー政経塾」担当。政治ジャーナリスト。永田町取材歴は20年。ただいま、糖質制限ダイエットに挑戦中。
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