1月30日、東京で「ちょい乗りタクシー」の運行が始まった。

 「ちょっと、そこまで」の距離でも、重い荷物を持っているときや真夏の炎天下のなかではタクシーを使えれば便利だ。だが、これまでの東京の初乗り運賃は、2キロメートルまでで730円。一般庶民は、そう簡単に利用できる金額ではない。

 しかも、東京は地下鉄やバスなどが整備され、公共交通機関が便利に利用できる。あえてタクシーを使わなくても、目的地の周辺まで行くことが可能だ。そのため、2014年度の東京のタクシーの利用者は、10年前に比べて23%も減少。対抗策として打ち出されたのが「ちょい乗りタクシー」だ。

 昨年、東京の大手タクシー会社が相次いで運賃改定を申請。これを受けて、国土交通省は、今年1月30日から東京(23区と武蔵野市、三鷹市)のタクシーの運賃を見直し、初乗り運賃を1.052キロメートルまでで380~410円に引き下げることにした(ほぼ全業者が410円を選択)。短距離でも気軽に利用できる料金体系に見直すことで、タクシー利用者を増やすのが狙いだ。

 だが、今回の見直しは、全体的なタクシー料金の引き下げではない。初乗り後の加算も見直され、従来は280メートルごとに90円だったが、現在は237メートルごとに80円に変更された。そのため、約2キロメートルまでは、これまでよりも運賃が安くなるが、約6.5キロメートル以上は運賃が高くなる。短距離の利用は有利になったが、長距離で利用することが多い人はこれまでよりもタクシー代は増えそうだ。

 今回の初乗り運賃の見直しは、2020年の東京オリンピックに向けて、外国人観光客などに手軽にタクシーを利用してもらうことを見込んだものだ。短距離は割安に利用できても、長距離タクシーに気軽に乗れる運賃ではない。

 アベノミクスの効果は、いまだ庶民までは広がっていない。いくらタクシーの初乗り運賃が下がっても、バブル期のように、酔客が深夜のタクシー待ちをする光景は見られまい。「ちょい乗りタクシー」ができても、一般庶民は終電の時間を気にしながら、「さてボチボチ引き上げますか」と店をあとにすることになるのだろう。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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