中国大陸と台湾は「不可分の領土」であるという政治的立場。要は台湾が中国の一部であるという考え方。中国・習近平政権は台湾について、絶対に譲れない「核心的利益」と位置付け、台湾の蔡英文(さいえいぶん)政権にもその受け入れを求めている。米国も1979年の米中国交正常化以来、歴代米政権はこの「一つの中国」論を踏襲してきた。

 ところが、である。アメリカのトランプ大統領が、就任直前の2016年12月、「一つの中国」を条件付きで見直す考えを示唆したのだ。

 中国政府が猛反発したのは言うまでもない。王毅(おうき)外相はすぐさま、こう警告した。

 「世界の誰であれ、どんな勢力であれ、もし『一つの中国』原則を破壊し、中国の核心的利益を損なおうとたくらめば、最終的に自業自得の結果に終わるほかない」
 国際社会も、意図的かどうかはともかく「トランプ氏が中国の核心的利益、虎の尾を踏んだ」とみて、米中の軍事的衝突の可能性も含めて両国関係を注視した。

 トランプ氏としては、中国に対し「南シナ海、北朝鮮問題などの外交・安保問題、人民元の為替操作問題などで適切な対応をとるべきだ」と先制パンチを見舞ったつもりだったのだろう。

 もっとも、その後、トランプ氏の「一つの中国」見直し論は2017年2月、中国の習近平との電話会談で撤回された。

 トランプ氏が「一つの中国」見直しを引っ込めたのは、大統領に就任して、従来からの米中外交の基本を学習した結果とも言える。ただ、政府中枢にピーター・ナバロ大統領補佐官(「国家通商会議」担当)ら、対中強硬派を抱えて、節目節目で「一つの中国」見直し論が再浮上する可能性は否定できない。

 日本にとっても「一つの中国」見直しは、極東の安全保障に大きく関わる問題である。日本政府もその動向を注意深く見守っている。
   

   

マンデー政経塾 / 板津久作   


板津久作(いたづ・きゅうさく)
月曜日「マンデー政経塾」担当。政治ジャーナリスト。永田町取材歴は20年。ただいま、糖質制限ダイエットに挑戦中。
ジャパンナレッジとは 辞書・事典を中心にした知識源から知りたいことにいち早く到達するためのデータベースです。 収録辞書・事典80以上 総項目数480万以上 総文字数16億

ジャパンナレッジは約1900冊以上(総額850万円)の膨大な辞書・事典などが使い放題のインターネット辞書・事典サイト。
日本国内のみならず、海外の有名大学から図書館まで、多くの機関で利用されています。 (2024年5月時点)

ジャパンナレッジ Personal についてもっと詳しく見る