「子どもがいない」「子どもはいるが、郷里を離れて都市部で暮らしている」などの理由で、年々、墓守をする人がいないお墓が増えている。

 訪れる人が誰もいないお墓は荒れ果て、いずれは無縁墓となる。そうなる前に、魂抜きなど供養をしたうえで先祖の遺骨を墓から取り出し、墓石を解体して更地に戻すのが「墓じまい」だ。

 郷里の墓から取り出した遺骨は、墓参りのしやすい生活圏内の墓地や共同の永代供養墓などに改葬するのが一般的だが、なかには海や山への散骨、墓石を持たない樹木葬などを希望する人もいるという。

 ただし、墓じまいするには、一定の行政手続きが必要だ。「墓地、埋葬等に関する法律(墓埋法)」では、公衆衛生を守るために遺骨の埋葬に関して定めた項目がある。そのため、墓じまいする際も、これまでの墓の管理者からの「埋蔵証明書」、遺骨を移す新しい霊園などの「受入証明書」を「改葬許可申請書」に添えてこれまで墓のあった市区町村に提出し、改葬の許可を得る必要がある。

 古い墓の管理者が先祖代々の菩提寺などの場合、檀家が減るのを恐れた寺院から高額な離檀料(りだんりょう)を請求されるなどのケースもあるようだ。離檀料は墓じまいする際に、檀家が寺院に支払う謝礼だが相場は決まっていない。なかには数百万円もの離檀料を請求されて、トラブルに発展するケースもあるようだ。

 トラブルを避けるには、いきなり墓じまいを切り出すのではなく、墓守ができない理由などをきちんと説明し、それまでお世話になった感謝の気持を伝えるなど、少しずつ準備を始めるのが得策だ。

 また、墓埋法では、墓地以外の区域での焼骨(遺骨)の埋蔵を禁止しているため、海や山などに勝手に散骨すると罰せられる可能性があるので注意したい。

 少子化や都市部への人口集中が進む今、墓じまいを希望する人は増えそうだ。そうしたニーズを汲み取り、行政手続きの代行、墓石の解体、永代供養墓の紹介、散骨や自然葬の手配など、一連のサービスを提供する業者やNPO法人も出ている。

 これまで、子孫が守り続けるのが当たり前だった先祖の墓への考え方も、人口問題や宗教観の変化などによって大きく変わりつつある。お墓がなくなるのは寂しい一方、墓守のいない荒れ果てた墓が増えるのも問題だ。

 お墓に対する考え方はそれぞれだが、どこかで区切りをつけるのであれば、墓じまいもまた選択肢のひとつであることは間違いない。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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