電通社員・高橋まつりさんが長時間労働や上司の心ないパワハラによって自殺したことで、企業側が社員の適正な労働時間を守り「働き方改革」をするよう政府や厚労省が提唱し始めた。

 しかし、三菱電機でもパワハラと常態化した長時間労働の実態が明らかになった。

 『週刊現代』(2/4号、以下『現代』)によると、13年4月、三菱電機に入社したA氏(31)は、上司から「言われたことしかできないのか。じゃあ、お前は俺が死ねと言ったら死ぬのか」と罵倒された。月の残業時間が160時間にもなるのに、会社へは59時間と過少申告せざるを得なかった。そうしたことが重なり、A氏は適応障害を発症して労災休業が認められたにもかかわらず、三菱電機は彼を解雇した。

 A氏の訴えを受けて藤沢労働基準監督署はA氏を労災認定し、三菱電機と当時の上司を横浜地検に書類送検したのだ。

 こうした流れの中で長時間労働は減ってきているのか。『現代』は有名企業50社を調査して実態を実名とともに公開した。

 やはり三菱電機は月の残業時間が160時間と最も多く、新日鐵住金長谷工コーポレーションが150時間、野村不動産が120時間(いずれも最大)。

 外食産業大手のすかいらーくグループの社員は「うちに限らず、外食産業はブラックそのものですよ。社員が長時間労働になるのは、単純にバイトの人手不足からです」と言う。

 彼は朝10時に来て帰るのは深夜0時過ぎだから、月に残業は120時間になる。だが、それがまるまる残業代として給与に反映するわけではない。

 損保業界は営業職にも「裁量労働制」が採用されている。損保ジャパン日本興亜の20代の営業マンは、「私の『みなし労働時間』は9時間なのですが、実際には12時間働いています。成果主義の賃金体系なので、高い目標を設定させられますが、それを達成しようとすると、とてもではないが9時間では収まらない。ところが、賃金は9時間分で固定されているため、得をしているのは会社だけ」だと話す。

 東京海上日動の30代社員も「国が働き方を決めるのなら、現実の労働時間と『みなし労働時間』の大きなズレもきちんと調査してほしい」と言っている。

 『現代』に出ている50社の社員のコメントを読むと、長時間労働には「仕方がない」というのも含めて肯定的な意見も多いように思う。

 仕事にやりがいがあり、残業に見合う給与が払われればやるという意見が大半である。

 サービス残業はある程度仕方ないし、残業は家計の足しになるという声も多い。

 口汚いパワハラや部下を思いやらないバカな上司への不満を漏らす意見のほうが多い。

 「部下に長時間の残業をさせる上司は無能」(富士通30代のSE)、「長時間労働とパワハラでうつ病を発症」(三菱電機30代研究部門)、「必要があって仕事をしているのに、上司に責められるのが許せない」(三井物産30代営業)「労働環境は過酷の一言。残業代がゼロになって給料が下がれば、誰もCAになりたがらないのでは」(日本航空30代CA)、「長時間労働よりも上司のパワハラが大きい」(野村證券30代個人営業)、「残業代をケチる企業を何とかしてほしい」(三井住友海上30代営業)、「少しでも気を抜くと、本部から厳しく叱責され、気持ちの逃げ場がない」(ファーストリテイリング40代店長)

 だが村田製作所のように残業は月30時間程度で、「企業風土の問題。無理な目標を立てたり、無謀な受注をしたりしなければ、仕事は定時で終わるのが普通」(40代管理職)。ニトリは残業が月30時間を超えるとメールで警告され、「電通のように月100時間超はまったく考えられない」(30代商品企画)。同じ航空会社でも全日空は「残業月100時間などは到底考えられない」(30代本社勤務)

 また東京電力のように、長時間残業は皆無だが、かつての高給は大幅に下げられ残業代もほとんど付かず、家計を圧迫されている40代総務の人間もいる。

 私がいた出版社も残業時間は長い。入社した当初、人と打ち合わせで飲んでいる時間もすべて残業として申告しろといわれ、バカ正直に残業時間250時間と出したら、役員会で大問題になった。

 早速人事課長に呼びつけられ、何としても100時間以内に収めろといわれた。その会社では当時、残業代は青天井だったから、毎月の給料より残業代が大きく上回っていた。

 だが出版も含め、新聞、テレビも「みなし残業制」になったから、「本給の7割くらいが別途支給」(朝日新聞30代記者)されるようになった。

 これだと、働く人間と適当に仕事をこなしている人間と同じ残業代になるから、正直、働く者がバカを見ることになる。

 だが、仕事にやりがいがあり、上司もそれを認めてくれれば、長時間労働そのものはさほど気にはならないはずだ。

 私の若い友人で、小さな出版社で働いているヤツがいるが、彼は月に1日休めればいいほうだと言っている。

 だが、編集の仕事が好きだから、疲れるが辞めようとは思わないと言う。

 電通の事件は長時間残業よりも上司のパワハラが原因による精神的な問題が大きかったのではないかと言われている。

 先ほどの三菱電機の例もそうだったが、社員がさまざまなプレッシャーで精神的に変調をきたしたとき、それをケアする体制が企業側に求められるはずだ。

 やむなく長時間労働をした後は有給休暇をとらせるなどして、肉体と精神をリフレッシュさせることが重要なのは言うまでもない。

 だが、一部の優良企業を除いては、そのような体制はおろか残業代もろくに支払われない企業が圧倒的に多いはずである。

 まして非正規労働者は長時間労働を拒むことも、有給の休暇をとることもできはしない。

 こうした人たちが病を得て辞めていっても、会社側は黙したまま語らない。こういう人たちの過酷な労働状況を改善することこそ、政治の喫緊の課題であるはずだ。

 それなのに経済産業省は、プレミアムフライデーなるものを2月から導入するとしている。なぜこのようなものを導入するのか? 説明も不十分だし、その効果はほとんどないと思う。

 仮に午後3時に仕事を終わるとして、残りの時間の給与は払われるのか。デパートなどは売上を伸ばそうと手ぐすねを引いているが、時間ばかり余ってカネがないのでは、家に帰ってテレビや音楽を聴くかふて寝するしかない。

 アンケートでは、時間ができたら旅行へ行きたいという人が多いというが、独身者ならともかく妻帯者では月に一回も無理だろう。

 賃金が上がらずに余暇を楽しめ、カネを使えと言われても、ない袖は振れない。余暇を増やすならそれに見合うカネを支給するか、金曜日には働いている人に等しく現金1万円を配るとか具体的なものがなければ、よほど儲かって社員思いの企業以外、そんなバカバカしい制度をやろうという企業はほとんど出てこないであろう。

 少子化対策が重要だと言いながら、女性の社会参加を奨励する。一億総活躍社会だと言いながら、賃金は上げず、休日ばかり増やしたり早引けさせたりして消費を盛り上げろと調子っぱずれの進軍ラッパを吹き続ける。安倍政権のやることは私にはまったく理解し難いことばかりである。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 トランプという男はすごい。これほど言行一致の大統領はアメリカの歴史のなかでも希有であろう。
 メキシコ国境にトランプの長城を建設する。イスラム圏からの移民は排斥する。アメリカの雇用を増やさない企業は許さない。日銀の黒田総裁が安倍の言うがままに大量のお札を刷り続けているように、毎日毎日、大量の大統領令を発行し続けている。
 たしかに、そのためにかかる予算は議会の承認が必要になるが、トランプのやることすべてを止めることはできないだろう。もしそんなことをすれば、トランプは機関銃でも持ち出して反対するヤツらに発砲するかもしれない。失礼な言い方だが、バカは隣の北朝鮮より怖い。

第1位 「こいつ、本物のバカかもしれない トランプ日本口撃が怖すぎる」(『週刊現代』2/11号)/「『在沖縄米軍を台湾へ』トランプ高官候補が日中に突きつけた刃」(『週刊文春』2/2号)/「トランプに会談を蹴られた安倍首相の“逃げ恥”」(『週刊ポスト』2/10号)
第2位 「文科省『天下り斡旋』の責任者 前川喜平事務次官に退職金5610万円」(『週刊現代』2/11号)
第3位 「75歳オーバータクシー運転手 何人いるんですか?」(『週刊ポスト』2/10号)

 第3位。『ポスト』の素朴な疑問特集。今週は75歳を超えるドライバーの死亡事故率は2倍になると今年1月の警察庁の発表を受けて、ではタクシードライバーにはどれぐらいの75歳オーバー運転手がいるのかと調べてみた。
 大手のタクシー会社に聞いたがどこもハッキリした答えはなかったようだ。
 そこで『ポスト』が独自に調べると、東京地区では75歳~79歳の運転手は2522人。80歳以上も442人いる。
 大阪地区は75歳以上が1416人で、個人タクシー運転手の1割以上が75歳オーバーだそうだ。
 08年からの道交法改正で「もみじマーク」の掲示は努力義務になった。しかし タクシーに貼ってあるのを見ないが、もし貼っていれば相当な数のタクシーが「もみじマーク」になる。
 1月30日から東京のタクシーの初乗りが「約1km380円~410円」になった。高齢者が気軽に乗れるタクシーという考えはいいが、運転するのも乗客も高齢者ばかりということになりかねない。
 それはそれでいいが、私も含めて高齢者は短気である。目も耳も不自由になっているのに、ちょっとしたことでカーッとして、無茶な運転をしないように心がけてもらいたいものだ。

 第2位。本来なら省庁による天下りの斡旋は禁止されているが、文部科学省で09年頃から人事課OBを通じた組織ぐるみの再就職斡旋が行なわれてきたことが発覚した。
 なかでも悪質なのは、早稲田大学へ天下った吉田大輔前高等教育局長のケースである。
 文科省の人事課が早稲田に対して吉田の天下りを働きかけたにもかかわらず、内閣府の再就職等監視委員会の調査に備え、吉田や早稲田に対して虚偽の仮想問答まで準備していた。
 そこには吉田が自発的に面接を受け、採用されたとあった。嘘っぱちである。
 吉田は文科省を定年退職したときに5260万円の退職金を受け取り、早稲田でも年収1400万円もらっていたという。
 私もやっていた非常勤講師などは、1回でもらう講師料は雀の涙ほどもない。
 第一、吉田が何を教えられるというのか。最低の教育とはどういうことかを、身をもって学生たちに教えていたのだろうか。
 だいたい、官僚上がりの教授は、私の経験では態度が横柄なのが多い。高級官僚出身というだけで、訳もわからず敬ってしまう学生が多いからだ。
 しかも『現代』によれば、こうしたことをやってきた元締めの事務次官、前川喜平が引責辞任したにもかかわらず、退職金の5610万円を受け取るつもりだというのだ。
 麻生太郎財務相は、蓮舫民進党代表に対して、「天下りって言葉は安易に使われない方が良いと思います。いかにも上から目線に感じます(中略)天上がっている方もずいぶんいらっしゃるように感じますので」と答弁したとasahi.com(1月30日)が報じている。
 天上がりでもいいが、官僚の中にも優秀なのはいくらかはいるだろうから、そうした人間を民間で活用する仕組みをこそ、本気で考えるべきである。

 第1位。トランプ大統領の暴走が止まらない。メキシコ国境にトランプの長城を築き、何兆円もの費用をメキシコ側に払わせると言って、メキシコ国民を激怒させた。
 トランプ政権のバノン大統領上級顧問兼首席戦略官が26日のニューヨーク・タイムズ紙の電話インタビューで、「メディアは恥ずかしい思いをし、屈辱を与えられるべきだ。黙ってしばらく聞いていろ」と威嚇したとasahi.com(1月27日)が報じている。
 まさに「バカは隣の火事より怖い」である。こんな連中と話し合いをしなければいけない安倍首相が可哀相に見えるぐらいだ。急いで首脳会談などやらないほうがいい。
 『文春』は、元国連大使でトランプ政権の高官候補といわれるジョン・ボルト氏が米ウォール・ストリート・ジャーナルに寄稿して「在沖縄米軍の少なくとも一部を(台湾に)再配備してもいいかもしれない」と言い、物議を醸しているという。
 そんなことをすれば中国が黙っていないことはもちろんのこと、中国関係を悪化させたくない台湾にとっても迷惑だし、日本も中国の脅威にこれまで以上に怯えなくてはいけなくなる。
 トランプ外交は世界からそっぽを向かれ始めている。その証拠に「シリア内戦をめぐり(中略)アサド政権と反体制派の和平協議は24日、昨年末に発効した停戦合意を完全に履行させるため、仲介役のロシア、トルコ、イランによる停戦監視の仕組みを設けるとした共同声明を発表、閉会した」(朝日新聞1月25日付)。アメリカ抜きで動き始めているのである。
 『現代』は「こいつ、本物のバカかもしれない」として、80年代にトランプのゴーストライターを18か月やっていたトニー・シュウォーツ氏を登場させ、こう言わせている。

 「どのような話題をふってみても、インタビューが5分と続くことはありませんでした。彼は一つのテーマに集中することができない性格で、過去のことを聞いても『終わったことを話してもしょうがない』と怒り出す始末。まるで教室でじっとしていられない幼稚園児のようでした。
 トランプ氏のような人物が、核ミサイルのボタンを押す決定権を握っているということは、恐怖以外のなにものでもありません」

 彼はまた、トランプ氏の知的水準の低さは驚くべきもので、情報源はテレビ、彼が本を読んでいるところも、自宅やオフィスに本を見たこともないと言う。
 また、トランプ大統領は周りにウォールストリート関係者を多数置いているから、政権下でインサイダー取引や相場操縦が行なわれる可能性を危惧する声まである。
 日本を含めた世界中のトランプ大統領への見通しが甘かったことは、わずか1週間ほどしか経っていないのに証明された。
 なかでも安倍首相は、大甘の最たるものだろう。
 まあ、この人に相手の人柄や能力を見分ける力が備わっていると考えるほうが無理があろうが。
 『ポスト』は、安倍首相はトランプが就任してすぐに首脳会談をやり、首脳同士でも蜜月なところを世界に知らしめたいとトランプ大統領側に申し込んでいたが、逃げられてしまって恥をかいたと報じている。
 電話会談でも各国首脳の後塵を拝した。
 だが何としてもトランプにお目もじしたいと懇願して、会えることにはなったが、向こう側がこういう条件を出したというのだ。
 麻生副総理の同席だ。なぜなら、トランプは大の王室好きで、英国のメイ首相が最初の首脳会談相手になったのも、英国側が今夏、トランプを国賓として招待し、エリザベス女王との会見をセットすると打診したからだと、自民党の外交族議員が明かしている。
 したがって、日本の皇族と縁戚である麻生氏に同行してもらうという条件で、首脳会談を持ちかけたらのってきたというのである。
 どこまで信じられる話かわからないが、このような相手と急いで会うことはなかろうと思うのだが。
 首相がそんな具合だから、日本の企業も早々とトランプに跪(ひざまず)くところが次々に出てくる。

 「トランプ米大統領が大統領令で、中東・アフリカの7カ国の国民や難民の入国を一時禁止したことを受け、全日空と日本航空は30日、対象の人の米国便への搭乗を原則として断る方針を決めた」(朝日新聞1月31日付)

 搭乗者が自己判断すればいいことで、飛行機会社がそんなことをする必要はない。
 この国は元々、長いものには巻かれろというのが生き方の基本にある。戦前の軍、終戦後の占領軍、そしていまは数だけはある自民党政権に唯々諾々と従うのが、日本人の日本人らしい生き方なのである。
 このままいけば早晩トランプ政権は国内外から批判を受け、立ち往生すること間違いない。
 自らすすんでひれ伏すことはない。しばらくは高みの見物といくのも、日本人的な生き方だと思うのだが。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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