京都タワーは、玄関口であるJR京都駅の正面にそびえ、市内を一望できる展望タワーである。建物には観光客を対象としたホテル、飲食店、土産物店などが雑居しており、新京極のように賑やかに、いろいろな土産物が所狭しと並んでいる。しかも地下には大浴場があり、旅の終わりに一風呂浴びてから帰ることができる。

 初めて見たとき、白と朱色の二色使いで、すぅと無駄のない円筒型の姿は、「和蝋燭(わろうそく)のイメージでつくられた」と教えられ、古都らしく感じたものである。実際、この説を信じている人が多いのだが、建築家の本当の意図は後から知った。設計は国重要文化財の萬代橋(ばんだいばし、新潟市)、そして日本武道館(千代田区)などを手がけ、モダン建築で知られる山田守。彼はタワー周辺の瓦屋根を波に見立て、灯台が町へ光を注ぐイメージで設計したという。確かに、灯台のようにも見える。

 郵便局舎の跡地を利用し、タワーが建造されたのは1963(昭和38)年のことだ。131メートルという高さは、建築当時の京都市の人口が131万人だったからという理由である。世界2位の東京スカイツリー(墨田区)が634メートルもある現代では、高層建築というに憚られるが、京都の高さ基準は、日本一高い木造建築の東寺五重塔の55メートルなのである。長い間この高さを「高層」の基準としてきたので、京都タワーからの眺望は、開放感があって楽しいものだ。

 建築時には、高さや美観に関する反対意見が相当すごかったそうで、京都タワーの記念誌によれば、反対派に「卑俗な観光塔」と呼ばれていたという。しかし、建造から半世紀を過ぎたいま、評判はすこぶるよい。これも歴史遺産的な地位を獲得したといえ、ランドマークとしても不可欠なものになっている。京都は大文字山(東)、愛宕山(西)、京都タワー(南)、比叡山(北)を見分けられれば、道迷いしてもGPSなしでも問題はない。

 

   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
ジャパンナレッジとは 辞書・事典を中心にした知識源から知りたいことにいち早く到達するためのデータベースです。 収録辞書・事典80以上 総項目数480万以上 総文字数16億

ジャパンナレッジは約1900冊以上(総額850万円)の膨大な辞書・事典などが使い放題のインターネット辞書・事典サイト。
日本国内のみならず、海外の有名大学から図書館まで、多くの機関で利用されています。 (2024年5月時点)

ジャパンナレッジ Personal についてもっと詳しく見る