高齢者の運転事故が多発している。『週刊新潮』(11/24号、以下『新潮』)は80代ドライバーの愛車は「走る凶器」と化していると形容しているが、たしかに日本中が息を潜めて高齢ドライバーに戦(おのの)いている。

 11月12日に立川市で起きた事故について全国紙の社会部デスクがこう話す。

 「83歳の女性が、病院の敷地内で、歩行中の30代の男女を撥ね殺してしまったというものです。現場の状況から、女性は車を駐車場から出し、料金を払おうとしたところでブレーキと間違ってアクセルを踏んでしまったと見られている。車は精算所のバーを折り、20メートル暴走して歩道に乗り上げて2人を撥ね、コンクリートの壁にぶつかって大破して止まりました。ブレーキをかけた形跡はなく、本人も頭や胸を打ってそのまま入院しました」

 公益財団法人「交通事故総合分析センター」の統計によれば、2014年に80歳以上が自動車などで死亡事故を起こした件数は266件、1993年は62件だったというから約20年で4.3倍に増えていることになる。3日に2件以上にもなるのである。

 「80歳以上のドライバーが死亡事故を起こす確率は64歳以下と比べると実に3.75倍。オーバー80の免許保有者は2015年末で約196万人(警察庁『運転免許統計』)もいる」(『新潮』)というから、これから事故はますます増えるはずだ。

 加齢によって運動能力や判断力は低下する。認知症になるリスクも高まる。しかし、高齢者ドライバーに共通しているのは「自分は大丈夫だ」という思い込みだ。

 『新潮』で都内のある自動車教習所の教官がこう指摘している。

 「高齢者の事故が報じられていても皆さん“どうして逆走なんかしちゃうんだろうね”“アクセルとブレーキなんて踏み間違えないでしょ”と自分は別だと考えている。でもそういう中にも逆走や踏み間違いを行い、それにすら気が付いていない方がいます」

 どこへ行けば免許更新できるの? オレは毎年、郵便局で更新しているんだという「日常生活も心配になる方が来て、平気で車に乗っているのです」(先の教官)

 家族が付き添ってきて、更新できないように落としてほしいと懇願するケースもあるという。

 しかし免許更新で認知症があるとわかっても、高齢者講習は合否を問うものではないから、講習を終えれば、どんなひどい結果が出ても免許を取り上げることはできないのだ。

 来年3月から改正道路交通法が施行され、認知症の「おそれ」があると判定されれば、即座に診断して、認知症なら免許取り消しということになるそうだが、この検査自体、アルツハイマー型認知症を見つけるためのもので、認知症の3分の1を占めるレビー小体型など、運転に影響が極めて大きいものを見逃してしまうと、専門家から批判が出ている。

 それ以外は、事故や違反を起こした場合にのみ、医師の診断を受けて、認知症などがあれば初めて取り消しとするしかないのだ。

 認知症が原因で事故を起こし死亡させても、危険運転致死傷罪にはならず、重度の認知症だった場合、責任能力を問えずに不起訴になる場合もある。こうなると被害者は殺され損ということになる。

 『新潮』は「80歳以上の車はタイヤを外す」という極論がいずれ出てくるというが、今のところは自主返納してもらうしか打つ手がないようだ。

 『週刊ポスト』(12/2号、以下『ポスト』)によれば、65歳以上の免許保有者1710万人のうち昨年1年間で返納した人は27万人にすぎないと報じている。『ポスト』は、75歳、80歳とか、年齢だけで線引きすることには違和感があるという。

 たしかに50歳でも運転の危ういドライバーはいるし、80歳を超えても矍鑠(かくしゃく)とした人はいる。

 認知症も、症状がそれぞれ違うから、一概に認知症の“気”があるから免許を取り上げろというのに異論があることもわかる。

 それに地方では、クルマがないと暮らしが立たない人たちが多くいることも事実である。

 私の知っている地域では、周囲の健康な人がボランティアとして車を運転して、一人で出歩けない高齢者たちを助けている。

 日に何回か巡回バスを運転して、買い物や医者通いを援助している過疎地域もある。

 『ポスト』は「踏み込んでもノロノロにしかバックしない機能のついたクルマ」や、高級車には装備されてきた追突前に緊急停止する自動ブレーキを軽自動車にも装備することを考えるべきだと提案している。

 もうすぐ4人に1人が後期高齢者になる時代が来る。それまでに「人殺しの道具」のような自動車を、人を殺さない道具に変えるために、自動車会社は研究費を注ぎ込むべきであること、言うまでもない。

 もはや燃費や操作性などどうでもいい。安全、安全、安全、これしかない。それができないのならば、個人所有の車を廃止して共有の乗り物に変えるしかないと、私は思う。

 それまでの暫定措置として、いまの目立たないシルバーマークを日の丸のような大きく目立つマークに変えて、車のバンパーやルーフに張ることを義務づける(現在は表示するように努める)というのはどうだろうか。

 「日の丸を見たら気をつけろ!」と、歩行者が自衛するしかいまのところ事故を減らす手立てはないようだ。

 ちなみに私は、自分の運転能力のなさに気づいて、40代半ばで運転免許を自主的に失効させた。後期高齢者諸君、チョットおかしいと感じたら、君たちもそうしたらどうか。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 トランプ氏が大統領になってからの舵取りがどうなるのか、なかなか見えてこない。外交政策はかなりタカ派になると予想されるが、肝心の国内政策がどうなるのか。小池都知事と同じように大風呂敷を広げたため、トランプ自身だけではなく、周囲もどうしたらいいのか、具体策がなく困惑しているということなのだろうか。日本の週刊誌はトランプ景気が来るなどとはしゃいでいるが、共和党は財政規律に厳しい党だといわれる。これから共和党内で激しい主導権争いが起きるのは必至だろう。

第1位 「安倍が考える『1月トランプ解散』」(『週刊現代』12/03号)
第2位 「銀行員が買わない投信・金融商品 保険会社の社員が買わない保険」(『週刊現代』12/03号)
第3位 「『ダイオキシン上海蟹』でレストラン大パニック 他にも危険な中国食材はこんなにある」(『週刊現代』12/03号)

 第3位。上海ガニは私の大好物である。先日も六本木の中国飯店で酔っぱらいガニを堪能してきた。
 毎年一度はこれを食べないと1年が終わらない。中国でも何度も食べた。だが、本場はカニを蒸すのが正式な食べ方で、老酒漬けというカニは食べられないと思う。
 だが、『現代』によると、11月2日に香港の食品衛生管理当局が、中国江蘇省の水産会社2社が養殖した上海ガニから基準値の5倍を超えるダイオキシンが検出されたと発表し、市中から800kgの回収を決定したという。
 この2社は、香港に出回る上海ガニの7~8割のシェアを占めていたという。
 そのための余波が日本にも及び、先ほどの中国飯店では、「中国政府が今回の件を調査中だそうで、当面、輸出禁止になりそう」だというのだ。
 中国の上海ガニは、正統なものは「陽澄湖」というさほど大きくない湖で育ったものをいうが、そんなものは数がしれている。
 よく聞くのは、カニを大量に運んで来て、「陽澄湖」にザブンとつけて、上海ガニでございというものだが、これなどはまだ品のいいほうだ。
 あまりにひどいものが出回るので、「陽澄湖」のカニだという証明に、一つずつナンバーがついたタグをつけていたが、そのタグの偽物が大量にでてきて何の役にも立たなくなってしまった。
 何しろ中国には偽物だけを集めた展示会が開かれるほど、偽物が出回っている国である。
 不衛生なところで養殖されたカニは、日本にも大量に入ってきているのは間違いない。
 中国飯店のカニは本物だと信じたいが……嗚呼!

 第2位。『現代』に、銀行がすすめる投信や金融商品、保険会社がすすめる保険を買ってはいけないという巻頭特集がある。
 私は銀行と保険会社は信じてはいけないという親からの言い伝えを守っているから、こんなことを何で今さらとは思うが、読んでみた。
 三菱東京UFJ銀行の都内支店に勤務する40代の銀行員がこう明かしている。

 「銀行では投資信託と定期預金をセットにした商品を販売しています。当行だと『ウェルカム・セレクション』が、それにあたります。定期預金に50万円以上、投資信託を新規に購入すると、定期預金の金利が3%になるというものです。現在の定期預金金利は年0.01%ですから、『実に300倍!』とセールスするわけです。
 そのうえ、退職金の運用で、投資信託と定期預金の合計資金が500万円以上なら、さらに1%の金利が上乗せされます。
 しかし、これにダマされてはいけません。3~4%の高金利がつくのは契約後3ヵ月のみ。仮に250万円の定期なら、税引き後で2万円程度の利息です」

 セットで買わされる投資信託は購入時の手数料が3%台。資産を金融機関に運用してもらう対価として、信託報酬は年2%前後が多いから、仮に250万円相当の投資信託を購入して計5%のコストがかかったとすると、12万5000円以上が銀行の手数料として持っていかれてしまう。
 2万円の利息をもらうのに12万円以上の手数料を支払うことになる。こういう商法を詐欺商法というのだ。
 みずほ、三井住友も同様である。保険については今さら書くほどのことはない。
 気をつけよう、甘い言葉と大銀行。馬鹿を見るのはいつも正直で少し思慮の浅い顧客である。

 第1位。今週はすべて『現代』の記事になった。こんなことは初めてである。トランプショックのためか、『文春』、『新潮』に冴えがない。
 その『現代』に、安倍首相が北方領土解散ではなく、トランプ解散を1月にやるのではないかという記事がある。
 あわてふためいて安倍首相はトランプに会いに行き、朝貢外交、土下座外交と揶揄されているが、それさえも口実にして、何とか1月解散をやりたいと目論んでいるというのだ。
 それにトランプはビジネスマンだから、アメリカの景気が上向き、その風が日本にも吹くかもしれないという、甘すぎる見通しでいるというのだから、この男の頭の中には、オカラぐらいしか詰まっていないのかもしれない。
 いつも言うが、日本人というのは物事を真正面から見ようとしない民族である。あれほどバカトランプ、史上最低の大統領と言っていたのに、会ってニッコリされれば、アイツはいいやつだ、信用できると、何の根拠もないのに信じてしまう。
 敗戦後、アメリカに占領されれば女は強姦され、男どもは殺されるか重労働を課せられると怯えていたのに、マッカーサーが天皇と会って友好的に話しただけで、コイツはいい人だ、信用できると妄信してアメリカ一辺倒になって恥じるところがない。
 トランプ、プーチンロシア大統領、習近平、みな一筋縄でいく相手ではない。ましてや安倍のように後先を考えずに、相手の懐へ無防備に飛び込んでいく人間なんぞ、相手は信用しない。
 トランプで株が上がる、トランプで景気が上向く、それをメディアもおかしいと批判せずにお先棒を担ぐのでは、もはやメディアなどいらない。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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