これは「おじいちゃん」をめぐるちょっといい話だ。舞台は東京都北区の街角にある中村印刷所。家族で営む小さな印刷所で、その社長・中村輝雄さんは70代前半である。

 数年前、中村社長は近所で製本業をたたんだばかりの男性と「新商品」の開発を始めた。それが開いても中心の「ノド」の部分が膨らまない方眼ノートだった。開いても水平となることで、ページをまたいで書くことが容易となり、コピーやスキャンをしてもノドの黒い影が出ない。デジタル時代においても使い勝手がよく、様々な分野で活用が考えられる。……これは、その良さが理解されてからの紹介。この技術は「ナカムラ・プリンティング・バインダー」から「ナカプリバイン」と命名され、東京都トライアル発注制度の認定商品にまでなったが、当初はまったく売れなかった。

 中村社長のパートナーの元製本業の男性はさらに高齢で、現在は80歳。その「おじいちゃん」は、よかったら友人にでもあげてくれ、と失意の中で孫娘にノートを渡した。若い孫は、少しは宣伝になるかという軽い気持ちで、ノートに関してツイートを残した。

 ここから快進撃が始まった。またたく間に「こんな使えそうな商品が埋もれているなんて!」と情報が拡散。売れに売れて、町の印刷所は大わらわとなった。そうこうするうちに、「ジャポニカ学習帳」でおなじみのショウワノートとの提携が決まって、現在に至る。日の目を見るべき商品が、優しい孫のツイッターから本当に日の目を見た。これはじつに痛快な話ではないか。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   


結城靖高(ゆうき・やすたか)
火曜・木曜「旬Wordウォッチ」担当。STUDIO BEANS代表。出版社勤務を経て独立。新語・流行語の紹介からトリビアネタまで幅広い執筆活動を行う。雑誌・書籍の編集もフィールドの一つ。クイズ・パズルプランナーとしては、様々なプロジェクトに企画段階から参加。テレビ番組やソーシャルゲームにも作品を提供している。『書けそうで書けない小学校の漢字』(永岡書店)など著書・編著多数。
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