7月10日の参議院議員選挙で、自民、公明両党が議席を伸ばし、日本国憲法の改正に前向きな政党や政治家が衆参両院で3分の2を超えた。改憲勢力が3分の2の議席を確保したことで、憲法96条で定めた憲法改正の国会発議が可能になったのだ。

 改憲の原案は、衆議院、参議院、どちらでも提出できて、それぞれの憲法審査会での審議・採決を経て、本会議へと進む。両院で、3分の2以上の国会議員が賛成すると、憲法改正発議される。その後、60~180日間の周知期間をとり、「国民投票」が行なわれ、国民の過半数の賛成が得られれば憲法は改正されるという手順になる。

 国民投票法は2007年5月に第一次安倍内閣で成立し、2014年6月に改正され、改憲に必要な手続きが整えられてきた。

 憲法改正は、自民党の安倍晋三首相の悲願で、改憲の本丸は戦争放棄をうたった憲法9条だ。しかし、いきなり9条の改正はハードルが高いため、国民が受け入れられやすい環境権やプライバシー権の新設などから着手すると言われている。また、96条を改正し、国会発議ができる議員数を「3分の2以上」の賛成から「過半数」に引き下げて、改憲しやすいようにするといった自民党の憲法改正草案も出されている。

 社会秩序の混乱、大災害時などには、内閣(首相)に権限を与えて、鶴の一声で国民の権利を極端に制限できるような緊急事態条項も現実味を帯びた話となっている。

 ただし、いくら憲法改正の国会発議が出されても、国民の過半数が賛成しなければ、憲法を変えることはできない。

 憲法改正についての世論調査(NHK放送文化研究所、2016年4月15~17日実施)では、「改正の必要がある」は27.3%、「改正の必要はない」が30.5%で拮抗している。ただし、戦争放棄の9条に関しては、「改正の必要がある」は22.1%、「改正の必要はない」が39.8%で17.7ポイントの開きがある。国民の間では、憲法改正の機運がたかまっているわけではないのだ。

 こうした国民の意思を反映するためには、ひとりひとりが自分の1票を無駄にせず、投票に足を運ぶ必要がある。なぜなら、国民投票の「過半数」とは、投票総数(賛成の投票数と反対の投票数を合計した数)の2分の1を超えた場合だからだ。

 たとえば、「9条を変える必要はない」と思っていても、投票に足を運んで1票を投じなければ、その思いを国政に反映することはできず、望まない未来のなかで自分や子どもが生きていくことを強いられるかもしれないのだ。

 先ごろ、EU離脱か残留かを国民投票で決めたイギリスでは、「まさか離脱が現実のことになるとは思わず、離脱に入れてしまった。自分の一票くらい影響がないと思っていた」と、自分の投票行動を後悔する人もいたという。

 だが、すべてが終わったあとで、何をいってもあとの祭りだ。国民投票で決まったことを覆すのは、並大抵のことではないだろう。

 日本でもこれと同じことが起こらないとは限らない。

 自民・公明両党が過半数を占める状況が続けば、遠くない将来、憲法改正の是非を問う国民投票は行なわれるだろう。そのとき、自分は「賛成」するのか。「反対」するのか。自分の一票には子どもたちの未来を変える大きな力があることを自覚したうえで、慎重にその一票を投じたい。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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