ある日、大量の1万円札が、空から降ってきて「みなさん自由に使え」となったら、そりゃかき集めて、いろんなものを買うだろう。市中に大量に金が出回れば、物価があがり、安倍政権悲願の「デフレからの脱却」が実現する。「ヘリコプター・マネー」は、文字通り、空のヘリコプターからお金を市中にばらまくように配り、景気を刺激する政策。ノーベル賞受賞の経済学者、ミルトン・フリードマンが半世紀前に提唱した。

 実際は、空からばらまくのではない。例えば、政府が国債を発行し、中央銀行(日本の場合は日銀)がその国債を直接引き受けて、所有し続ける、という形をとる。政府は国債を償還する必要がない。

 なんだ、そんなことなら、デフレ脱却のためもっと早くに実施すればいいのでは、と思う向きもあるだろうが、そう簡単にはいかないだろう。というのも、ヘリコプター・マネーには大きなリスクが潜んでいるからだ。ジャブジャブお金を刷れば、円の価値が下がり、石油価格など輸入物価が急騰し、極度のインフレを招きかねないからだ。国債相場が暴落する懸念もある。そのため、財政法は第5条で、公債の日銀引き受けを禁止している。いわゆる「禁じ手」なのである。

 ただ、同じ5条では、「特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない」とも明記し、例外を設けている。

 黒田日銀は2%の物価上昇目標を達成できず、マイナス金利政策も思ったような効果があがらず、円高・株安の基調は変わらない。こうしたことから、このまま景気低迷が続けば、近い将来、安倍政権と日銀は、ヘリコプター・マネーの導入に舵を切るのではないか、との見方が金融筋の間で出ているのだ。

 なんでもありなのか。
   

   

マンデー政経塾 / 板津久作   


板津久作(いたづ・きゅうさく)
月曜日「マンデー政経塾」担当。政治ジャーナリスト。永田町取材歴は20年。ただいま、糖質制限ダイエットに挑戦中。
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