コン、コン、チキチン、コン、チキチン──。7月1日から31日までの1か月、京都は祇園祭一色である。この間、八坂神社の氏子である祇園の人や山鉾を管理する町のお年寄りなどには、「きゅうり」を食べないという人がおられる。理由は、というと、祇園社の主祭神である須佐之男命(スサノオノミコト)のご神紋「五瓜に唐花」が、「きゅうり」を輪切りにした時の切り口の模様に似ているから、なのである。ご神紋「五瓜に唐花」は、織田信長の家紋としてもよく知られている。これは「きゅうり」ではなく、「まくわうり」と「からはな」の模様を組み合わせたもので、八坂神社では、「五瓜に唐花」と「左三つ巴(ひだりみっつともえ)」の二つの紋を組み合わせた状態で使われている場合が多い。

 7月の土用の丑の日や弘法大師のご縁日(21日)には、神光院(北区西賀茂)、五智山蓮華寺(右京区御室(おむろ))、三宝寺(右京区鳴滝(なるたき))で、「きゅうり封じ」というおまじないが行なわれる。この行事は、「きゅうり」に参拝者の痛みや苦しみ、悩みなどを封じ込めた後、祈祷してから参拝者が持ち帰り土の中に埋めておくと、「きゅうり」が腐るころに身のわずらいが治っているというものである。

 このような「きゅうり」や「うり」と、「水」を関連づけた風習はいろいろとあり、その理由は「きゅうり」の9割以上を「水分」が占めているからである。例えば、祇園社(八坂神社)の場合、その起源は「水神信仰」とされているため、水と「きゅうり」や「うり」が結びつけられるようになったという説がある。また、巷に浸透しているものとしては、お寿司の巻物「カッパ巻き」がそうである。これは水の神「河童」へのお供えとして初物の「キュウリ」を川に流すという風習があり、それがいつしか「きゅうり」の海苔巻きを「カッパ巻き」と呼ぶようになったといわれている。

 

   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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