残業しても賃金が支払われない「サービス残業」があとを絶たない。

 労働基準監督署の指導によって、2014年度に企業が未払いの残業代を支給した従業員は、前年度より8万8627人増加。過去最多の20万3507人を記録した。是正勧告によって支払われた残業代の合計は、前年比19億378万円増加の142億4576万円となった(厚生労働省「監督指導による賃金不払い残業の是正結果」)。

 労働基準法では、労働時間は原則的に1日8時間、1週間40時間までと決められている。これを超えて労働させる場合は、労使協定(時間外労働協定/36協定)を結び、雇用主は割増賃金を支払わなければならないとしている。

 時間外労働の賃金は、法定時間外労働が月60時間までは1.25倍、月60時間を超えた分は1.5倍。また、残業した時間帯が深夜(22時~翌日5時)に及んだ場合は、さらに0.25倍を加えて、1.5~1.75倍の割増賃金を支払わなければならない。

 ところが、会社側が残業代の上限を決めて一定額以上を支払わなかったり、出勤・退勤時刻の15分未満を切り捨てて残業代を低く見積もったりする「サービス残業」が数多く報告されている。なかには、残業手当を全く支払わずに長時間労働を強いる悪質なケースもある。

 連合総研の「勤労者短観」によると、2015年9月にサービス残業をした労働者は35.1%。不払い残業時間は、平均で18.1時間。サービス残業をした人の68.8%が、「申告する際に、自分自身で調整した」と答えている。調整した理由でいちばん多いのが「申告しづらい雰囲気がある」というものだ。サービス残業をしている人は、していない人よりも仕事に対する満足度や意欲が低く、転職への希望も強い。つまり、労働時間をきちんと管理できない企業は、従業員のやる気を失わせ、会社の魅力を半減させる可能性があるのだ。

 前述の通り、時間外労働に対して割増賃金を支払わないのは、労働者の権利侵害にあたり、本来はあってはならないことだ。だが、そもそも日本は諸外国に比べると労働時間が長く、そのことが少子化や女性の社会進出を阻む原因になっている。

 政府は、「一億総活躍プラン」の原案に、長時間労働に対する立ち入り調査の目安を、これまでの残業100時間から80時間に引き下げることを盛り込んだ。だが、特別条項付きの労使協定を結べば、月45時間を超える残業も可能になり、際限なく労働時間を延ばせてしまう現行の労働基準法に欠陥があることにもなる。日本の長時間労働体質を改善するためには、法律によって厳しく規制する必要があるのではないだろうか。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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