アメリカのオバマ大統領が、現職として初めて被爆地・広島を訪れた。

 5月27日、伊勢志摩サミットの閉幕後、オバマ大統領は夕方5時20分頃に、広島の平和記念公園に到着。原爆資料館を見学し、「核兵器なき世界を追求する勇気を持とう」と記帳した。そして、原爆死没者慰霊碑に献花したあと、17分間のスピーチを行なった。

 《71年前の晴れた朝、空から死が降ってきて世界が一変しました》

 こう始められたスピーチには、アメリカ国内の原爆投下肯定論に配慮し、謝罪はなかった。また、「私が生きているうちに、(核廃絶という)この目標を達成することはできないかもしれません」と、核廃絶が一筋縄ではいかない世界の複雑な現実もうかがわせた。

 それでもなお、2009年のプラハ演説で掲げた「核なき世界」の理想は少しも衰えてはいなかった。

 《破滅から世界を遠ざける努力を続けなければなりません》と語り、戦争ではなく、外交によって、紛争を回避することの重要性を訴えた。そして、スピーチの最後をこう締めくくった。

 《広島と長崎を核戦争の始まりとして記憶するのではなく、私たち自身の道徳的な目覚めにしなければならないのです》

 もちろん、スピーチだけで、核廃絶が実現するわけではない。だが、原爆を投下した国の大統領が被爆地を訪れ、資料館で実相に触れ、被爆者と語らい、その場で「核なき世界」の理想を掲げたという事実は、確実に歴史に刻まれたのだ。

 言葉に出したからには、どんなに困難なことでも努力し続ける義務があるし、あのスピーチを見届けた世界中の人々にも、「核なき世界」への実現を後押しする義務がある。

 核兵器によらず、いまだ世界の各地では紛争により傷つき、愛する人を失い、暮らしを破壊される人があとを絶たない。国境を挟んで憎しみあっていても、宇宙から見れば同じ地球で暮らす同胞だ。そうした大きな目で見れば、国と国との戦いはなんと小さなことだろうと思う。

 100年後、200年後、歴史を振り返ったときに、今回のオバマ大統領の広島訪問が、核兵器のない平和な世界を実現できたターニングポイントだったといえるように、これからの世界の人々の行動を見届けたい。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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