朝、目が覚めたらスターになっていた。田舎から歌手を夢見て上京してきた女の子が出した一枚のCDが爆発的に売れて、一夜にしてスターになるシンデレラ・ストーリーは昔からよくあった。

 今は情報の流れが昔とは比べものにならないくらい速いから、数時間前に無名だった人間がスターになることも日常茶飯事である。

 最近では、ラグビーW杯で活躍した五郎丸歩選手のケースがそれに当たる。だが、メディアはそうしたスターを作り上げるまでは熱心だが、スターを消費し捨て去るのもあっという間である。佐村河内守(さむらごうち・まもる)氏や小保方晴子氏の名前を思い浮かべれば、納得がいくだろう。

 『週刊文春』(3/24号、以下『文春』)が報じた「フジテレビ“新ニュースの顔”の正体 ショーンKの嘘」も、順風満帆だった人間の人生を、一つの報道が根こそぎひっくり返してしまったケースである。

 ショーンKこと、ショーン・マクアドール川上氏(47)を私が知ったのは、2010年からフジテレビの朝の情報番組『とくダネ!』のコメンテーターとして登場し始めたときである。私は朝飯を食べながらこの番組を見るので彼のことは知っているが、話の内容はともかくジェームズ・ボンドばりのいい男である。それにどことなく漂わせている翳りのある表情もなかなか素敵で、さぞモテるだろうなと秘かに嫉妬していた。

 ラジオで多くの経営者たちと対談している経営コンサルタントという触れ込みだった。何のテーマでも司会の小倉智昭氏から振られれば、淀みなくとうとうと自説を述べる姿に、テレビ向きな人だなと思っていた。

 昨年4月からは古舘伊知郎氏の『報道ステーション』で木曜日のコメンテーターにもなって、さらに存在感を増していった。今年になって、視聴率で低迷するフジテレビが“社運”を賭けた4月からの深夜の大型報道情報番組『ユアタイム~あなたの時間~』のメインキャスターとして、彼を起用すると発表したため、一躍“時の人”になったのである。

 推測するに、以前から川上氏の経歴に疑問の声はあったのではないか。ワイドショーのコメンテーターのままであれば『文春』が取材対象にすることはなかったと思う。

 だが『報道ステーション』のコメンテーターとして有名人の階段を一歩上がった彼にフジテレビが注目し、さらに階段を数段駆け上がることになったことで、『文春』が彼の経歴に注目したのであろう。

 この記事を読む限り、あまりにも彼の経歴詐称がひどすぎる

 彼は経歴を「テンプル大学、パリ第一大学で学んだあと、ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得」としていたが、『文春』が調べると、ハーバード・ビジネス・スクールの同窓会名簿には川上氏の名前はなかった。本人によると、テンプル大学ジャパンは下落合にある大学だが、10か月もいなかったという。パリ第一大学も、付き合っている女性がフランス人だったので学ぶならヨーロッパだと思ったが、大学のオープンキャンパスで聴講しただけだそうだ。

 ハーバードへは当時勤めていた会社から行かせてもらったが、受けたのはたったの「三日間コース」だった。またHPにある米国本社は、あのトランプビルの28階になっているが、ここは月69ドルから借りられるレンタルオフィス。また日本の本社と記載されているのも渋谷のセルリアンタワーの中にあるレンタルオフィス。恵比寿にある支店も、『文春』が行ってみると競馬予想会社や闇金が入居する雑居ビルだそうだ。

 また公式サイト内にある「マネジングパートナー」は3人とも全く別人の写真が掲載されていたというのである。

 『文春』は川上氏の故郷・熊本市まで飛んで、高校の同級生に取材をしている。だが、ショーン・マクアードル川上氏と当時の川上伸一郎クンが同一人物だと気がついている同級生は一人もいなかった。なぜなら、当時とは別人のような顔に変わっていたからである。

 男性の同級生は「“ホラッチョ川上”と呼ばれていました。熊本でホラ吹きという意味です」と話している。

 川上氏は『文春』編集部へ自ら出向いて取材に真摯に答えている。だがそれは裏目に出た。『文春』の詐称の指摘に対して、何度も「それはダメだと思います」と繰り返している。ダメというのは、全面的にウソだったことを認めて、言い訳ができないということだ。

 腹をくくり事実は事実として認める彼の態度は立派である。昨今の不正を暴かれた政治家たちの訳のわからない答弁とはまったく違う。私がそばにいたら「あなたも大変だったね」と肩の一つも叩いてやりたい、そう思わせる内容である。

 ウソで固めた経歴と度胸と話術でのし上がり、“新時代のキャスター”に成り上がる寸前で、砂上の楼閣はいち週刊誌の報道で脆くも崩れ去ってしまった。

 川上氏が長年出演していたFMのラジオ番組へ送った「お詫びのテープ」が、多くのワイドショーで流された。

 涙ながらにリスナーやスタッフたちへ詫びている。地方の高校を出た若者が、東京で一旗揚げるためにアメリカの日本校に短期間入り、フランスにも行って語学を独学で懸命に学んだのであろう。ハーバード大学でMBAをとったと経歴詐称するからには、経営学の勉強も相当したのだろう。

 そして彼自らが偽りの経歴を信じ込んでしまったのではないのか。そうでなくては、簡単に見破られる嘘をそのままにしておいた理由がわからない。

 変な言い方になるかもしれないが、彼が嘘をつくことで誰か損をした人間がいるのだろうか。リスナーや視聴者の中には騙されたと怒っている人はいるだろうが、彼がテレビなどで有名になることでカネを騙し取ったなどという話は、今のところ聞こえてこない。

 話は少し変わるが、私が『週刊現代』編集長の終わり頃、ある知り合いから「元木さんがやった記事で自殺した人間はどれほどいると思うか?」と聞かれたことがあった。

 突然だったので戸惑った。彼はジャーナリストではなかったが、鋭い感覚を持った人であった。

 「多くはないとは思うが、もしかするといるかもしれない」と答えた記憶がある。

 新聞の社会面で、雑誌に書かれたことを苦に電車に飛び込んだという記事を見たことがある。その人の名前に記憶はなかったし、日々のルーチンワークに忙しく、私の雑誌で取り上げた人かどうか確認もしなかった。

 だが、自殺まではいかなくとも、その人間が表舞台から姿を消してしまうきっかけになった記事をつくったことは何度かある。だが、書かれた本人がどういう思いでその記事を読み、どれだけ辛い思いをしたかについて、思いを馳せたことはその当時はなかった。

 だが、身近に週刊誌に書かれたことで職を辞し、朝から酒を飲んで肝臓を壊死させて死んでいったジャーナリストを見たことがある。

 彼は某大新聞の政治部のナンバー2だった。彼の幼なじみに某宗教団体の教祖の娘がいた。彼女の離婚話の相談相手になっているうちに男女の仲になってしまった。

 週刊誌にとっては、彼より彼女のほうにバリューがあった。離婚話を有利に進めようという夫が、二人が寝室で寝ている写真を盗み撮りし、それをそのまま編集部は掲載したのだ。

 新聞社は彼を引き留めた。だが、彼は妻と離婚してフリーのジャーナリストになった。会社という歯止めがなくなったため、朝から酒を飲み、いつ会っても赤い顔をしていた。緩慢な自殺だったと思う。倒れて病院に担ぎ込まれたときは手の施しようがなかった。

 ひと言も、週刊誌に書かれたことへの恨み言は言わなかった。だが、彼の死を早めたのは一本の記事だったことは疑いようがない。あの記事が、あの写真さえ出なければ、祭壇の上にある彼の写真にそう語りかけたことを今でも覚えている。

 一本の記事がその人間の人生を暗転させてしまう。だが、メディアにとってそのことは終わったことなのだ。私もそうだったが、次なる獲物に向かって遮二無二突き進んでいく。

 最後に米澤穂信(ほのぶ)氏の『王とサーカス』の中の一節を紹介しておこう。元新聞記者だった主人公が、旅行先でその国の王族一家が殺されるという大事件に遭遇する。主人公は人伝に軍の高官に会うことができ、事の真相を聞かせてくれと頼むが、高官は拒否する。その理由を彼はこう話す。

 「私が王族たちの死体の写真を提供すれば、お前の読者はショックを受ける。『恐ろしいことだ』と言い、次のページをめくる。もっと衝撃的な写真が載っていないか確かめるために。(中略)だがそれは本当に悲しんでいるのではなく、悲劇を消費しているのだと考えたことはないか?(中略)
 お前はサーカスの座長だ。お前の書くものはサーカスの演し物(だしもの)だ。われわれの王の死は、とっておきのメインイベントというわけだ。(中略)人々はなぜ綱渡りを見て楽しむのか。演者がいつか落ちはしないかと期待しているからだと思ったことはないか?(中略)だが私は、この国をサーカスにするつもりはないのだ」

 何度でも言うが他人の不幸は蜜の味だ。蜜を求める読者がいる限り、週刊誌もテレビも新聞も、他人の粗探しをやめはしない。だがそこに力を注ぐあまり、もっと注力しなければいけない権力者たちへの監視を怠っていはしないか。否、権力者から目をそらせる役割を自ら担ってはいないだろうか。ショーンK氏の話から逸れたかもしれないが、メディアに携わるすべての人々がとっくりと考えるべき問題である。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 メディアを疑えとはよく言われることである。同じように権力者を疑え、裁判を疑え、警察を疑えといえる。絶対と思っているものでも、違う角度から見てみると、おかしなことがいっぱいある。私はDNAもそうだと思うのだ。DNAが一致すれば間違いなくそいつが真犯人だ。DNAは間違えない。だが、ミステリー好きの私は、DNAを利用した完全犯罪はできると思うし、もう既に起こっているかもしれない。DNAで冤罪が晴れることもあるが、DNAで冤罪がつくられることもあると思うのだが、いかがだろうか。

第1位 「舛添都知事“大名視察”『血税5000万円』の使い途」(『週刊文春』3/24号)
第2位 「『被害者の口からDNA』中野劇団員を全裸で絞め殺した男」(『週刊文春』3/24号)/「囲碁王者すら圧倒して『人工知能』は世界をどこへ導くか」(『週刊新潮』3/24号)
第3位 「秘書にセクハラ!堂々と二股!『32歳石﨑徹代議士』の不道徳な日常」(『週刊新潮』3/24号)

 第3位。有名になったことを後悔しているであろう人間がここにもいる。『新潮』が報じている安倍チルドレンの一人、石﨑徹代議士(32)である。
 彼は新潟市出身で、慶應大学を卒業後、財務省に入省。その後自民党の候補者募集に応募して合格。総選挙に新潟市から出馬して最年少当選を果たしている。現在二期目。
 学生時代に付き合っていた女性と結婚したが、政治家に転身すると話したら、「そんな話聞いてない」と離婚を切り出され別れたという。
 バツイチ、独身、なかなかのイケメンとなれば、出てくるスキャンダルは「セクハラと二股交際」と決まっている
 まずはセクハラから。後援会の会長である渡辺毅氏が語っているのだ。

 「石﨑君が、地元秘書を公募し、14年の4月、30代前半の女性が運転手兼秘書として採用されました。ところが、そのわずか1カ月後、別の秘書から、その女性が石﨑君に言い寄られ、それを苦に事務所を辞めることになったと報告があった」

 そこで渡辺氏は、秘書にその女性から聞き取り調査をさせたという。その生々しい描写のいくつかが『新潮』に掲載されている。

 4月12日(土)。場所は「かくれがDining 忍」
 「D(代議士のこと=筆者注)が『近くに来て』と言い、対面式に着席していたが隣席状態となる。
 23時頃~接吻を迫り、衣服の上から胸、陰部を触る。徐徐に衣服の下に手が伸び、状況がエスタレートし始め、『どこかに泊まろう』と誘う。23時半過ぎ~Dが『ここでしようか(性交渉)』と言い、拒否すると『じゃあホテルに行こう』と誘う」

 ようやく振り切って別々に店を出たそうだ。
 こんな人間でも言うことはでかく、将来は総理大臣になると公言しているという。
 秘書にセクハラをしていた同時期に、地元テレビ局BSN新潟放送に勤務する女性記者と同棲していたというから、女性にはまめのようだ。
 彼女とは結婚することを前提に付き合っていたそうだが、同じ時期に自民党の先輩議員の女性秘書とも付き合っていたというのである。
 前文科省副大臣の丹羽秀樹代議士の秘書だが、丹羽代議士が件の秘書と話し合ったところ、付き合っていることを認め、周囲には石﨑氏と結婚するつもりだと言っていたという。 石﨑代議士は『新潮』の取材に対して「セクハラをした事実も、二股交際の事実も一切ありません」と答えているが、後援会長がしゃべっているのだから、苦しい言い訳である。
 『新潮』は「政治家というよりは、性事家と呼ぶに相応しい」と結んでいるが、この御仁も進む道を間違ったようである。

 第2位。私が住んでいる東京・中野区で起きた25歳の劇団員・加賀谷理沙さん殺しは、事件当時近くに住んでいた戸倉高広容疑者(37)が逮捕されたが、その捜査のやり方にやや首を傾げざるを得ないのだ。
 加賀谷さんから検出されたDNAを基に、近隣住民を含めて千人以上のDNA鑑定をやり、実家に引っ越していた戸倉容疑者からも任意でDNAの提出を受けていたと『文春』(『新潮』によると被害者宅から半径500メートル圏内に住む75歳以下の成人男性に対して行なった)は報じている。
 同じ鑑定結果が出る人間は9兆4000億人に2人しかいないというから、残された証拠の分析と地道な地取りを重ねて犯人を追うよりも、警察にとってはありがたい「証拠」であろう。
 だが、真犯人が誰かのDNAを相手に知られずに何らかの方法で入手し、殺害した人間に付着させて逃亡したとしたら、どうなるのだろうか。
 今回の場合も、容疑者は現時点では完全に自白してはいないようだ。自白も証拠もなくてDNAだけを「証拠の王様」にしてしまうことで、冤罪事件が再び起きることはないのだろうか。
 また、DNAさえわかれば犯人を見つけやすいと、日本人全員のDNAをマイナンバーに登録せよと、愚かな為政者が号令をかける心配はないのだろうか。
 この延長線上で人工知能が囲碁王者を破ったことを手放しで褒め称えるのは、いかがなものかという『新潮』の記事も紹介しておく。
 たしかに人工知能の発達は目覚ましいものがあり、いずれは農作物の栽培や建築、コールセンターでの応対や通訳、翻訳もこなせるようになるという。
 それは、今ある仕事の半分は人工知能によって代替が利くということだから、人間はいらないということになる。さらに人工知能は人間を超えられないという考えも過去のものになり、「人工知能が精神病になることで、作り損なうと、サイコパスの殺人鬼みたいな人工知能が生まれる可能性だってある」(神戸大学松田卓也名誉教授)。人工知能を使った武器やロボットを開発し、世界征服を目指すどこかの国の為政者も出てくるかもしれない。もはや手塚治虫が描いたSFの世界は、現実になろうとしているのである。

 第1位。舛添要一都知事の評判がよくない。特に大名行列のように多くの人間を引き連れて行く海外出張費がとんでもない額になるのだ。
 3月8日付の産経新聞が「都知事のロンドン・パリ出張費 20人5泊で5000万円」だとすっぱ抜いた。それを受けて『文春』は、現地に記者を派遣して使い途を徹底調査した。
 それによると舛添氏が使用した日本航空のファーストクラスの往復が約250万円。知事を除く19名のうち7名の職員が往復ビジネスクラスで一人120万円。残りの12名はエコノミークラスで往復64万円。締めて計1800万円にもなる。
 知事がロンドンで泊まったのは5つ星ホテルの「コンラッド・ロンドン・セントジェームズ」の最高級スイートだが、ホテル側が舛添氏をVIPと認めてプレジデンシャルスイートと同じ価格、一泊約40万円にしてくれたそうだ。職員たちも同ホテルに泊まっている。
 『文春』の記者が泊まった最低価格帯の部屋は一泊約4万円だったというが、ロンドンはホテルの値段が高いことで知られるから、これはリーズナブルであろう。
 重要課題があってどうしてもというのなら致し方ないと思うが、今回の目的は、2019年の東京五輪をアピールするレセプション、「ジャパンソサエティ」での講演、ラグビーW杯3位決定戦と決勝戦の観戦というのだ。
 こんなものだったら都知事を含めて2、3人でいいのではないか。それに神戸学院大学上脇博之(ひろし)教授によると、「都の条例によって定められた知事の一日あたりの宿泊費は四万二百円が上限」だから、知事は条例違反の可能性が出てくるというのである。
 それに彼は昨年就任以来、外遊はロシア、ロンドン、韓国を各2回訪れるなど計8回になり、経費の総額は2億1千万円を超えると『文春』は報じている。
 その上、『文春』がこの件に関して回答してくれるよう東京都に申し込んだが、都知事が説明責任を果たすことはなかったという。
 私は東京都民だし東京五輪には反対している。私の税金がこのように“無駄”に使われていることにはらわたが煮えくりかえる。
 髙橋かずみ都議によると、全国の待機児童数の四分の一が東京都に集中しているという。血税を湯水のように使って遊んでいるヒマがあったら、もっと真剣に取り組む重要課題があるはずだ。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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