毎年、確定申告の申告期間は、原則的に2月16日から3月15日まで。昨日で、今年の申告期間は終わったが、来年から新たに始まる「スイッチOTC薬控除」に備えて、今からコツコツ集めておきたいのが市販薬のレシートだ。

 スイッチOTC薬控除は、2017年の確定申告から導入される医療費控除の特例(適用は2021年12月31日までの5年間)。街の薬局やドラッグストアなどで販売されている「スイッチOTC」と呼ばれている市販薬をたくさん購入した人を減税する制度だ。従来からある医療費控除と同様に、自分で申告しないと控除を受けられない。

 対象となる市販薬や控除額は次の通り。

○対象の市販薬
 街の薬局などで販売されている医療用成分が配合された市販薬のうちスイッチOTCと呼ばれているもの。

 OTCとはOver The Counter(カウンター越し)の略で、いわゆる大衆薬や市販薬を指す。そしてスイッチOTCは、従来は医師の処方箋が必要な医療用医薬品のなかから、これまでの使用実績などによって薬局で購入できるように、一般用医薬品・要指導医薬品に転用されたもの。両者の区別については現在、表示法を検討中とのことだ。

 具体的な商品名は、胃腸薬の「ガスター10」、鎮痛剤の「ロキソニンS」、抗アレルギー薬の「エスタック鼻炎24」など。

○控除額
 1年間に、自分や生計を一にする家族が購入したスイッチOTC医薬品の合計が1万2000円を超えた金額で、最高8万8000円まで。

 たとえば、1年間に購入した薬の合計が5万円だった場合は、3万8000円を、その年の所得から控除できる。

 この場合の還付金の目安は、所得税率10%の人だと3800円、20%の人だと7600円。家族のうち、誰が申告してもいいので、収入が高く、所得税率の高い人が申告したほうが、還付金が多くなるのが一般的だ。

 申告には、医薬品を購入したことを証明する領収書やレシートが必要なので、来年の申告に備えて今から集めておくといいだろう。

 ただし、控除を受けられるのは1万2000円を超えた分の薬代なので、1万2000円を少し超えただけでは、ほとんど税金は戻らない。また、スイッチOTC薬控除を受けると、従来の医療費控除は利用できなくなり、どちらか一方の控除しか受けられない。

 スイッチOTC薬控除は、病院や診療所の利用が少ない家庭の税金を優遇することを目的としているので、出産したり、長期入院したりして、医療費が10万円を超えるようなケースでは、従来の医療費控除を利用して、薬代もまとめて申告したほうがお得になる。

 また、スイッチOTC薬控除を利用できるのは、特定健康診査(メタボ健診)、予防接種(医師の関与のあるもの)、定期健康診断、健康診査、がん検診などを受けて、ふだんから病気の予防や健康増進に取り組んでいる人という条件がある。

 これは、病院や診療所に行かずに、自分で市販薬を購入して病気を治してくれる国民を増やすことで、国民医療費を削減しようという意図があるからだ。

 日本の医療費は年々増加しており、2014年度は過去最大の約40兆円。医療の高度化に加えて、人口の高齢化が進む日本では、団塊の世代が75歳以上になる2025年には53.3兆円になると予測されている。そのため、第2次安倍政権になってから、医療費に対して国が投入する予算は削減する一方で、患者の自己負担を増やす政策が次々と打ち出されている。

 2016年度から健康増進の努力をしている国民を優遇するインセンティブ制度も始まるが、来年から導入されるスイッチOTC薬控除もその一環と見ることもできる。

 従来からある医療費控除は、医療費が高額になった個人の税負担を軽減するのが目的だが、スイッチOTC薬控除は国の医療費削減が最大の目的なのだ。

 継続的に服用している市販薬があり、結果的にスイッチOTC薬控除が使えるなら、確定申告で税金を取り戻せるのは個人のメリットにはなる。だが、税金を安くするために、慣れない市販薬を服用して病気が悪化したら、反対に医療費が増えることにもなりかねない。

 薬は、飲み合わせによっては副作用によって、思わぬ健康被害を受けることもあるので、節税するために、自己判断で薬を飲むのは危険だ。

 健康が損なわれないように、薬も税制も適切に利用しよう。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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