「そんなとこに『ごもく』ほかしたらあかん!」。そんな風に急に怒り顔で呼びかけられたら、関西人でなければ「えっ、なに?」と驚くことだろう。「ごもく」はゴミのこと。「ごもく」の収集の日には、「ごもく、あつめきゃはるし、おもてにだしといてな」という具合に使われるわけである。昔はゴミを「ごもくた」ともいった。もちろん「ゴミ箱」は、「ごもく箱」と呼んでいる。熊手ならば「ごもくかき」である。ついでに「ゴミ」ということばは、火を焚くために集められた松の枯れ葉を意味する「ご」から出た、という語源説があるから、「ごもくかき」というのは言い得て妙な方言で面白くもある。

 また、「ほかす」とは「捨てる」という意味で、これも関西では現役で使われていることばである。「ほかす」は「投げ捨てる」という意味の「放下す」が語源である。

 「ごもく」や「落ち葉」といえば、京都には「ごもく箱は表に出さず、朝一番に表を掃き、水を撒く」という昔からのしきたりがある。寺院が多く、朝から掃除をする雲水さんがおり、木々の落ち葉が多いためかもしれない。落ち葉の掃除は一苦労だけれど、「おはようさん」、「おはようさんどす」と挨拶を交わすと、なんとも清々しく一日が始められるのである。


石地蔵や愛宕講などの信仰、毎朝の門掃(かどば)きの習慣が、京都の人がきれいに、心地よく暮らすための秘訣だ。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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