高い所に上ると足がすくんだり、めまいがしたりして、高い場所を異常に怖がる「高所恐怖症」は昔からあった。だが、今、問題になっているのは、高いところを怖がらない「高所平気症」による転落事故だ。

 高さの感覚は4歳頃までに培われると言われている。子どもは自分の目線の高さを基準にして、地面との距離を測って、高いかどうかを判断する能力を身につけていく。

 ところが、生まれたときから高層マンションなどで暮らしていると、空に近い景色は見えても地面を見ることはできない。とくに高層マンションだと、階段をつかわずにエレベーターで瞬間移動できてしまう。そのため、高さの感覚に麻痺し、恐怖を感じなくなる高所平気症になりやすいのだという。

 その結果、問題となっているのが、マンションのベランダなどからの子どもの転落事故だ。東京消防庁管内では、2010~2014年の5年間で、12歳以下の子どもの転落事故が155件起きている。

 一般的な高層マンションのベランダの柵は、転落防止のために建築基準法で高さ1.1m以上という基準が設けられているが、その他に要件はない。なかには、デザインによって模様が施された柵などもあり、子どもが簡単に足をかけられるものもある。高所平気症によって、高いところに恐怖を抱かない子どもが、ベランダの柵をよじ登って、転落したケースなどもある。

 また、ベランダに置かれているエアコンの室外機、休憩用の机や椅子などを足場にして、子どもが柵を乗り越えてしまう事故も起きている。

 事故を未然に防ぐには、「ベランダには足場になるようなものは置かない」「足がかけられやすい模様のあるベランダの柵は半透明のアクリル板などでカバーする」「小さな子どもをひとりにして出かけない」「ベランダの鍵を二重にする」などの対策が必要だ。

 また、地上で遊ぶ機会を作って、子どもに高いところが危険だという認識を持たせることも大切だ。公園の滑り台やジャングルジムなど、子どもが地面を目視できる遊具を使えば、高さの感覚をつかめるようになるという。

 高所恐怖症は不安障害のひとつだが、高所平気症はそうした異常ではなく、高低感覚が育っていない状態だ。子どもを危険から守るためにも、日々の遊びのなかで「高いところは危険」という認識を自然につけられるようにしたい。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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