ユネスコ(国連教育・科学・文化機関)が世界記憶遺産に「南京大虐殺の文書」を登録したことが波紋を起こしている。

 世界記憶遺産は「人類が後世に残すべき」文書や図面、印刷物、映像、音声、写真などが対象で、1992年に創設された。一覧に目を通すと歴史の教科書に載っているような文書などが数多く登録されているのがわかる。これまで人権宣言(フランス)、マグナ・カルタ(イギリス)、アンネの日記(オランダ)、共産党宣言草稿(ドイツ)など300件以上が登録されている。日本からは慶長遣欧使節関連資料など5件が選ばれている。

 ユネスコには似たような制度に遺跡や自然が対象の「世界遺産」があるが、その選考過程には大きな違いがある。

 まず世界遺産は、条約に基づき政府が申請し、選考過程では関係国の政府が意見表明する機会がある。異論があればその場で表明し、各国に働きかける場合もある。

 これに対し、世界記憶遺産にはそうした機会が一切ない。政府だけでなく民間団体による申請も可能だ。一方的な政治的な主張を背景にした申請も行なわれている。

 今回の「南京大虐殺の文書」は中国政府が申請した。かつての大日本帝国による「負の遺産」を国際社会に印象づけようとする思惑が見え隠れする。日本政府が強い懸念を示したのは言うまでもない。

 日本政府や自民党内にはユネスコに対する日本の分担金(2014年で約37億円)の支払い停止を求める声が出ている。

 ただ、日本が支払い停止に踏み切れば、国際社会での日本の影響力低下につながりかねないし、もう一つの「世界遺産」の登録にも響く。むしろ世界記憶遺産の選考方法について透明性を高めることを求めるべきではないか。
   

   

マンデー政経塾 / 板津久作   


板津久作(いたづ・きゅうさく)
月曜日「マンデー政経塾」担当。政治ジャーナリスト。永田町取材歴は20年。ただいま、糖質制限ダイエットに挑戦中。
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