「マンガの映画化」は、原作に固定ファンがいることや、もとより知名度がある点で、一定の成績を見込みやすい。だからこれまでも、そして今後も「手堅い企画」として製作され続けるだろう。ここ数年興味深いのは、「少女マンガの映画化」が多い点だ。多いだけではない、興行収入も10億円以上というものがザラにあって、そこに届かないと少しガッカリする雰囲気も生まれている。ビッグバジェットのハリウッド映画でもなかなかかなわない勢いなのである。

 古くからの映画ファンは、これを新しい傾向と見るだろう。というのも、かつては少女マンガ原作でヒットしたといえる作品は、皆無と言っていいからだ(内容が高く評価された作品はもちろんある)。2005年の『NANA』が40億という成績を叩きだしたことで、少し風向きが変わった。が、ゼロ年代における少女マンガの映画化は、原作の内容も、一般人の日常とは縁遠い事件が巻き起こる「映画的」なものではなかったか。まっすぐな青春恋愛ものは、まだ業界内でも魅力的な題材ではなかったはずだ。

 この雰囲気が2014年頃に一転した。『好きっていいなよ。』『近キョリ恋愛』など、同時代感のある「学園マンガ」原作の作品にも注目が集まるようになったのだ。決定打となったのが、2014年12月公開の『アオハライド』、続いて2015年3月に公開された『ストロボ・エッジ』である。ともに『別冊マーガレット』の王道をゆく作家・咲坂伊緒(さきさか・いお)の原作で、これらが立て続けにヒットしたことは、「チョイスは間違っていない」という自信のようなものを業界関係者に植え付けただろう。

 これらの映画では、「あまりに劇的なこと」が起こるわけではない。しかし、若い世代にとってはリアルな青春や恋愛の苦しみが描かれていて、それを年齢の近い俳優がみずみずしく演じている。映画館に若い女性を呼ぶには、この感性が必要だった。いま、それをようやく映画業界が察知したのである。ただし、ストーリーが激しすぎないがゆえ、少女マンガの映画化には繊細な描写が必要だ。今後は、スタッフがさじ加減を誤って、ヒットに至らない不運な作品も出てきそうだ。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   


結城靖高(ゆうき・やすたか)
火曜・木曜「旬Wordウォッチ」担当。STUDIO BEANS代表。出版社勤務を経て独立。新語・流行語の紹介からトリビアネタまで幅広い執筆活動を行う。雑誌・書籍の編集もフィールドの一つ。クイズ・パズルプランナーとしては、様々なプロジェクトに企画段階から参加。テレビ番組やソーシャルゲームにも作品を提供している。『書けそうで書けない小学校の漢字』(永岡書店)など著書・編著多数。
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