京町家の繊細な風情に欠かせない要素の一つが京格子である。縦の桟(さん)が非常に細かく組まれている一方、横桟は数本だけでほとんど存在感がない。この独特の組み込み方が、細やかな印象を与えるため、千本格子とも呼ばれている。

 京格子にはもう一つの、紅殻格子(べんがらごうし)という通称がある。ベンガラは黄みを帯びた赤色の塗料で、格子や柱に塗られていた。インドのベンガル地方で産出されていた酸化第二鉄を主成分とする顔料で、耐久性や防腐効果に優れている。京都の商家などでは、格子などを油拭きする習慣があったので、磨くうちにだんだんと黒ずんでいき、京町家らしい渋く赤黒い色味に変わっていったそうである。

 京都の格子は、中世に入り乱世で家を守るために設けられたのがきっかけで、当初は牢屋のように太い桟が間隔をあけて組まれた、台格子と呼ばれるものだった。京格子の様式が生まれるのは、大工道具が発展を遂げた江戸時代のことで、1600年代半ばになってからのことである。

 京都では格子を「こし」ともいい、通りに面して格子のはめ込まれた部屋のことを、格子の間(こしのま)と呼んでいる。格子の間隔が狭いので、屋外から室内の様子はわかりにくいものの、室内に入ってみると、予想以上に明るく、採光への配慮が十分されていることがわかる。ちなみに、職住一体の住宅である町家の格子には、職業や使われた場所、材料、形状などで決まった種類があった。それらは仕舞屋(しもたや)格子や麩屋(ふや)格子などと呼ばれ、格子だけでその場所や住人の仕事などがわかるようになっていた。

 

   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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