爆買いという言葉が人口に膾炙(かいしゃ)してきたようだ。といってもいい意味ではなく、カネに飽かせて何でも買いまくる、主に中国人観光客に使われることが多い。

 秋葉原で炊飯器やウォシュレットを何十個も買いまくる。北海道から沖縄までの土地を買いまくる。中でもおいしい水の出る山林を密かに買っていたことが週刊誌で報じられ、「日本の飲み水が危ない」と騒ぎになったこともある。

 爆買いはモノや土地ばかりではない。「中国の女性優しくない。日本女性優しくて何でもしてくれる」と、日本女性を抱けるソープランドやデリバリーヘルスへも出張って、女性たちを爆買いしていると報じた週刊誌もあった。

 『週刊現代』(5/23号、以下『現代』)は、中国の大金持ちたちが「京都で爆買い」している様子をルポしている。

 それによるとこうである。

 「『おお、こんなところに鯉がいるじゃないか! 大きくて、うまそうだな。おい小龍(シャオロン)、一匹摑まえて来い!』
 父親の王長興さん(38・仮名)にけしかけられて、9歳の喜富くん(愛称は『小龍』)は靴を脱ぎ捨て、池に足を踏み入れた。
 ここは京都・金閣寺」

 周りの日本人から変な目で見られていることに気付いた父親は、鯉を捕ることをやめさせたそうだが、別の中国人が、嵐山の渡月橋で、眼下に鯉が泳いでいるのを見て「なぜ鯉が泳いでいる!? みんな捕らないのか?」と聞いたという話も出てくる。

 鯉は中央アジアが原産だといわれ、日本でも鯉のあらいや鯉こくは食べられているが、中国料理の鯉の丸揚げは絶品である。だから鯉を見るとヨダレが出るのであろう。

 今年は日本のゴールデンウイークと中国の祝日が重なったようで、大挙して日本に押しかけた中国人観光客が、古都・京都でも多く見られたようだ。

 『現代』の記者は、中国の富裕層が案内を頼む日本の旅行代理店に頼んで、2組の中国人一家の観光に密着したという。

 まず出てくるのがマナーの悪さである。さきほどの喜富くんが尿意を催すと、母親がみやげ物屋の裏でビニール袋におしっこをさせ、ゴミ箱にポイ。見て見ぬふりをしていた店員がこう話す。

 「ああいうの、ほんま、どうにかなりませんかね。子供はまだしも、大人もトイレのドアを閉めずに大きいほうをしてはるし、使用済みのトイレットペーパーをそこらに捨てはるし……。私らも商売ですから、おカネが服着て歩いていると、割り切るようにしていますけど」

 なぜ、そういうことを日本でしてはいけないのだと注意しないのか。そんな態度だから中国人は、カネさえ使えば文句はないだろうと中国式悪習慣を改めないのだ。

 おみくじを大吉が出るまで引いたり、ちまきをまずいと吐き捨てるのは許せる範囲か。南禅寺近くの湯豆腐が名物の店で、「なんだ、この鍋に豆腐(ドオウフ)を入れただけの食い物は!?」と眉間にシワを寄せたという。私も何度か食べてはいるが、湯豆腐コース6000円は高いと思う。

 もうひと組の陳立功社長(48)が「桜を見たい。どうにかならないか?」と言い出し、一年中咲く桜はないのか、冷凍保存してあるのは? と聞くが、その気持ちはわかる。

 陳社長の日本観光の目的は「大人の遊び」で、祇園で芸者遊びがしたいという。だが、祇園は一見(いちげん)さんお断り、老舗のお茶屋は中国人観光客をすべて断っているそうだ。

 失礼だが、カネが物言う花街でぎょうさんおカネをもってはる中国人さんを断るというのは、私には解せない。蛇の道は蛇。コネさえあれば入れると思うが、一般の観光客では、お茶屋遊びの真似事しかできないようである。

 2時間で5万円ほど払って、祇園小唄の踊りを見て野球拳で遊ぶ。野球拳も負けたほうが脱いでいくというのではなく、酒を飲まされるだけでは、陳社長が「芸者遊びなど、この程度か」と腹を立てるのもわかる。

 その陳社長、血統書付き但馬牛に舌鼓を打ち、一泊13万円ほどの高級ホテルに泊まり、最後に日本人ガイドに頼むのは、やはり日本女性との裸の交わり。

 『現代』によれば、友人の分も含めて一晩50万円を支払ったという。骨董にも興味のある陳社長は骨董屋で明代の壺を買い求め、お代は200万円だったそうだ。

 締めて二泊三日で王さん一家が使った金額が300万円。陳社長は500万円。陳社長は、京都を車で回っているとき、気に入った家を見つけ、値段をガイドに聞いたという。1億円だといわれると、「それは安いな。上海の高級マンションの最上階と同じくらいじゃないか」。そう言ってガハハと笑ったそうだ。

 2014年に日本に来た外国人旅行者数は1341万4000人といわれ、そのうち中国人は240万人。今年はもっと増えそうだという。

 バブルの全盛期、日本はアメリカの象徴であるロックフェラーセンターや映画会社を買い漁り、アメリカ人の顰蹙(ひんしゅく)を買った。中国人が東京タワーや富士山を買うと言い出したら、日本人はどうするのだろう。

 今の中国人の姿は、バブルの頃の日本人の姿と同じである。韓国でキーセン、フィリピンなどで女の子を爆買春する日本人は、ハゲ、メガネ、首にカメラをぶら下げたイエロー・モンキーだと批判された。私も中国へ漢方薬の爆買いに何度か行ったことがある。

 安倍晋三首相の反中国的な姿勢が日中関係をおかしくしているが、観光客は年々増えている。ありがたいことだ。旅行会社もガイドやみやげ物屋の店員たちも、カネさえもらえばそれでいいというのではなく、中国と日本の文化の違いやマナーの違いを、わからせる努力をもっとするべきである。

 一般の日本人も、彼らのマナーの悪さを見て見ぬふりをするのではなく、日本語で注意してやるべきである。真の日本のよさを教えてあげるべきである。

 そうでないとバブルが弾けた日本のように、中国のバブルが終われば、鉦や太鼓でおいで下さいと言っても、中国人は日本に来なくなるはずだ。爆買い結構。安倍さんは、羽田空港で中国人観光客に頭を下げ、おいでやすと言ってニコッと笑うべきではないか。気持ち悪いけどね。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 今週は合併号明けなので『現代』と『ポスト』から選んだ。中でも、先日逮捕された官邸ドローン犯が、元自衛隊員で漫画の腕もなかなかで、いまの世を風刺するストーリーマンガを書いていたという『ポスト』の記事がおもしろかった。
 大新聞やテレビが伝えないことにこそ「神は宿る」ということが、よくわかる記事である。

第1位 「総理官邸ドローン犯 大新聞が封印した『政府批判漫画』と『自衛官の経歴』」(『週刊ポスト』5/22号)
第2位 「2015夏『不動産が暴落する』全情報」(『週刊現代』5/23号)
第3位 「安倍晋三『沈黙の仮面』“独裁者”の生い立ちと苦悩」「『安倍さん、あんたは米政府の代行者か』」(『週刊ポスト』5/22号)

 第3位。『ポスト』が安倍晋三首相についての連載を始めた。昔政治部の記者だった時代に、安倍首相の父親、安倍晋太郎氏の番記者を務めていた野上忠興(ただおき)氏が書いている。
 二言目には岸信介という安倍首相だが、二人には違いがあるという。

 「私が復帰したのは日本の立て直しにおいて憲法改正がいかに必要かということを痛感しておったからなんです。今の憲法は(米国が)占領政策を行なうためのナニであった。その辺の事情を国民に十分理解せしむるという役割は、総理が担わないといけない」(原彬久著・ 『岸信介証言録』より=『ポスト』)

 野上氏から見ると安倍と岸とでは政治・外交的思想や、その手法で大きな違いがあるように思えてならないという。

 「例えば、政治手法だ。岸は『両岸』と呼ばれ、政治的に対立する勢力に太い人脈をつくりながらバランスとコンセンサスを重視する老練な政治家であった。
 外交面でも、日米安保条約を改定して日米同盟を強固にする一方で、外交三原則に『アジア重視』を掲げ、首相として初めて東南アジア諸国やオセアニアを歴訪し、インドネシア、ラオス、カンボジア、南ベトナムと相次いで賠償協定を締結して国交回復を達成している。
 首相退陣後も岸は訪韓して次の池田内閣の日韓国交正常化交渉を根回しした。憲法改正にしても、岸は改正の必要性を『国民に十分理解せしむる』ことが総理の役割だと強調している。
 対して、安倍は外交では中国、韓国とコトを構え、内政では『この道しかない』と一直線に推し進めようとする数をバックとしたカジ取りが目立つ。岸とは好対照だ。
 老練だった祖父と違い『頑なさ』と『危うさ』が同居する安倍晋三」(『ポスト』)

 安倍首相には、岸とは政治的な系譜が真逆の父方の祖父・安倍寛(かん)という人がいる。
 岸が東条内閣で商工大臣を務めて戦中から権力の中枢を歩いたのに対し、寛は東条英機の戦争方針に反対し、戦時中の総選挙では「大政翼賛会非推薦」で当選した反骨の政治家として知られるという。
岸と寛にはもう一つ大きな違いがあったそうだ。

 「岸が有名な『濾過器の哲学』で数々の政治資金疑惑を乗り切ったのに対し、寛は『昭和の吉田松陰』と呼ばれるほど『潔癖な政治家』だった」(『ポスト』)

 安倍家を長く支えてきた地元後援者の1人はこう語った。

 「確かに晋三さんは岸さんの血を継いどるが、安倍家のおじいちゃんは寛さんで、戦時中に東条英機に反対して非推薦を貫いた偉い人じゃった。それをいいたいが、晋三さんと話をしても岸、岸というんでね」

 別の特集だが、村上正邦(まさくに)(82・元自民党)、矢野絢也(じゅんや)(83・元公明党)、平野貞夫(79・元民主党)の長老たちが安倍首相に苦言を呈している。いくつか拾ってみよう。

 「矢野 (中略)しかもそのプロセスは極めてたちが悪い。去年、閣議決定で憲法解釈を変えましたが、それに関連する安保法制はまだ国会で審議されてもいないんです。
 つまり議会を無視して官邸だけで約束している。安倍さんの米議会での演説では、この法制を8月までに必ず成立させるとまで約束しちゃってるわけ。これが国会でも問題にされないことが不思議です。安倍さんに蹂躙(じゅうりん)されるがままの野党は誠に恥知らずであり、怯懦(きょうだ)、無責任だと」

 「平野 おっしゃる通りで、このガイドラインは日米安保条約違反でもある。安保条約での日米協力は極東の範囲に限定されているんです。60年安保ではそれで揉めに揉めて、範囲が縮小されたんですから。それを全世界に展開できるようにするわけで、ダメに決まってるでしょう。そういう有識者の議論さえない。国会だけでなく、日本の有識者のバカさ加減にも呆れます」

 「矢野 私らの時代は予算委員会で総括質問やると、議論が紛糾してしょっちゅう予算委員会が止まったわけですよ。その瞬間から時計を止めて、質問時間が残った。でも今はそうじゃないんだって。紛糾しちゃうとそのまま時間が消化されて終わり」

 いまの官邸や国会のあり方がおかしいと、大声を上げるメディアや識者がいないとダメなこと、言われなくてもわかっちゃいるのだがね。

 第2位。『現代』では今年の夏に不動産が暴落とまたまた騒いでいる。
 都市未来総合研究所の統計によると、14年の国内の不動産取引額は5兆600億円で、前年比で16%も伸びた。
 また、不動産経済研究所によれば、首都圏の新築マンションの平均価格は5060万円と22年ぶりに5000万円の大台を超えたそうだ。
 15年3月の首都圏のマンション契約率も79・6%と、販売の好不調の分かれ目といわれる70%を大きく上回っているのだそうである。
それならば心配はないのではないかと思うのだが、そうではないらしい。
 『現代』によれば「東西を問わず都市圏中心部の値上がりは危険な水準にまで達しつつある。そのことを示す確実なデータも出てきた」というのだ。
 東京大学柏キャンパスの第二総合研究棟にある東京大学大学院情報理工学系研究科ソーシャルICT研究センターの大西立顕准(たかあき)教授はスパコンを利用して、リクルート社から提供された首都圏の中古マンションの取引価格データを徹底分析したそうだ。

 「86年からのデータ約108万件を分析しました。これほど大規模なデータを基に、不動産のバブルを解明するのは世界で初めての試みです。すると12年末からの状況が、(バブル真っ最中の)88年と似ていることがわかったのです」

 しかし購買欲が衰えない外国人勢力がある。現在、海外とりわけ中国をはじめとするアジアの投資家たちが、都心の優良物件を買い漁っているのである。この連中がいる間は大丈夫なのではないか。
 中国共産党の関係者で、日本に複数の物件を持つ張麗莉さん(仮名)はこう語る。

 「中国との距離が近く、食習慣が比較的似ているという他に、日本が他国に比べて勝るアドバンテージはありません。日本経済に関する悪いニュースが流れれば、投資家が一気に売りモードに入って、パニックが起きるかもしれない。私たちは国外に資産を逃がすことさえできれば、そこが日本である必要はありませんからね」

 さらに海外と日本の不動産事情に詳しいS&Sインベストメンツの岡村聡氏がこう語る。

 「例えば、日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁が追加の金融緩和を否定するなど、ちょっとした一言が引き金になることも考えられる。外国人は円安・インフレを期待して日本の不動産を買っているわけですから、金融政策の方向性がぶれると影響が大きい」

 不動産バブルも株バブルも弾けるのはそう遠くない気がする。

 第1位。官邸ドローン事件で逮捕された山本泰雄容疑者(40)が元自衛官でなかなかマンガもうまいことを、私は知らなかった。
 『ポスト』によれば「逮捕後に大新聞、テレビは容疑者の人物像を連日報じたが、その多くは『無職』『反原発に固執』と強調するものだった。冒頭で紹介した『漫画』について主要5紙とNHKは全く報じず、『元自衛官』の経歴もほとんど触れられていない」

 「山本容疑者が描いたとする漫画からは、政府の政策への憤りが読み取れる。
 作品のタイトルは『ハローワーカー』。舞台は、〈老人駆除法〉が成立した日本だ。主人公の若者がハローワークで“国家公務員”にならないかとスカウトされ、“法”に基づいて老人を殺害していくという設定である。
 作中では厚生労働省幹部の男性がこんな台詞を笑顔で口にする。〈失業者を雇用し 高齢者を駆除させる 高齢者にかかる年金・医療・福祉費用を大幅に削減し 出産・育児・教育に活用する 『老人駆除法』は我が厚生労働省が導き出した年金・雇用・少子高齢化などを一挙に解決できる特効薬…〉」(『ポスト』)

 漫画を読んだ印象について五野井郁夫(ごのい・いくお)・高千穂大学経営学部准教授が語る。

 「彼の漫画を読むと、元自衛官だったことをもっと掘り下げて考えるべきだとわかります。作品の描写を読み込んでいくと、『人間を殺傷するためにはどのくらいの刃渡りの凶器が効果的か』であるとか、自衛隊で学んだ戦闘知識、情報分析能力などが反映されていることがわかります。
 山本容疑者のような元自衛官が日本には大量にいる。大量採用・退職の組織である自衛隊の中で、除隊した隊員のケアがどれだけされているのか。米国では戦場帰還兵の心のケアが重要な問題ですが、自衛隊ではそれは十分といえるのか。自衛隊で訓練された人が今回のような事件を企図したことは、もっと重く受け止めるべきです」

 『ポスト』は「さらにいえば、『老人駆除部隊』の“活躍”が描かれる作品からは、軍事力・警察力を独占する国家権力が暴走することへの反感が読み取れる。自衛官としての経験がそうした問題意識を生み、犯行につながったのか、もっと議論を深めなければならなかったはずだ」と書いているが、その通りであろう。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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