4月14日に福井地裁で出された関西電力高浜原発3、4号機の「再稼働差し止め仮処分」を認めるという判決が注目を集めている。

 『週刊朝日』(5/1号、以下『朝日』)が報じているように、担当判事が昨年5月にも大飯(おおい)原発運転差し止め判決(関電控訴で高裁で審理中)を出した樋口英明裁判長だったから、弁護団側にも勝算はあったようだ。

 樋口裁判長は審尋を2回で打ちきり、3月には関電の意見書提出も認めず結審した。

 福井地裁の決定文は、「各原発が想定する最大級の地震の大きさを示す『基準値振動』について検討。この10年で国内の四つの原発に想定を超える地震が5回も来たことから、高浜原発の地震想定だけに信頼性があるとはいえないと指摘した。さらに、基準値振動を700ガルまで引き上げても根本的な耐震補強工事がされていないため、それ以下の規模の地震で外部電源が停止し、主給水ポンプが破損する可能性があるとし、これらを『現実的で切迫した危険』と表現した」(『朝日』)

 さらに新規制基準のあり方にも踏み込み、深刻な災害を起こす可能性が万が一にもないといえる厳格な内容であるべきなのに、緩やかすぎると断定し、住民らの人格権が侵害される恐れありと認めたのである。

 仮処分が出た場合は、関電側が不服申し立てをした上で仮処分を覆すか、本訴の提起が必要となるから、どちらにしても今秋に想定していた再稼働はずれ込むことが確実になったのである。

 司法から再稼働の安全性の不備を突かれた安倍晋三首相だが、それを意に介さず、衆院本会議でこうまくし立てた。

 「世界で最も厳しいレベルの新規制基準に適合すると(原子力規制委員会が)認めた原発について、その判断を尊重し、再稼働を進めていくのが政府の一貫した方針だ」

 自分に都合のいい判断を下した規制委員会は尊重して、司法は尊重しないという理屈はどこから出てくるのであろう。

 だが、『週刊現代』(5/2号、『現代』)が報じているように、樋口氏は判決直前に「定期異動」という名目で、名古屋家裁に異動になってしまったのだ。

 「これは左遷以外の何ものでもありませんよ。定年まで3年の裁判官を家裁に送るなんて、誰が見ても窓際人事。定期異動にかこつけて、厄介払いしたということでしょう。最高裁を頂点とする裁判所全体は、基本的に政府の歩調に合わせ、原発再稼働を是とする立場を取っている。その方針に反した樋口氏は、報復人事を食らったんですよ」(ある司法関係者)

 したがって、本来であれば樋口氏は今回の仮処分を決定することはできなかったのである。

 だが、樋口氏は裁判事務の取扱上さし迫った必要があるときは、同じ管轄内の裁判官であれば、当該審理での裁判官の職務を代理で行うことができるという「職務代行」というものを行使して「最後にして最大の抵抗を行い、意地を示したのだ」(『現代』)

 今回仮処分が出たことで、あちこちの裁判所で仮処分申請を起こすことができるようにはなったが、関電側にはこんな脅しがあると『朝日』は書いている。

 「仮処分の後の本訴で原告側が敗訴した場合、電力会社から再稼働できなかったことによる損害賠償を求められる恐れもあり、川内(せんだい)原発差し止めの仮処分申請では1月に原告住民の一部が申し立てを取り下げている。仮に電力会社にこうした手段に出られたら、原告住民側には大きな痛手になるだろう」

 権力とピッタリの電力会社ならやりそうなことだ。

 『朝日』、『現代』の論調とは違って『週刊新潮』(4/30号)は「“あの人だから”と指呼される『高浜原発』差し止め裁判官」、『週刊文春』(4/30号)は「高浜原発『差し止め裁判長』に京大地震学の権威も呆れた」と、樋口裁判官を揶揄する内容を掲載しているが、どれほどの覚悟がこの判決には必要だったのかを考えれば、私には、このような記事は書けない。

 4月22日には川内原発の仮処分申請に対する決定が出たが、案の定、申請を鹿児島地裁は却下した。一人の孤高の裁判官が自分の人生を賭けて出した判決に、われもと続く者はいないようである。これを司法の劣化と言わずして何と言おう。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 今週も大メディア批判、NHK連ドラ・ヒロインのヘアヌード、神の手といわれる名医の腕も疑って見ろと警鐘を鳴らす週刊誌ならではの3本を選んでみた。
 連休中の「緑陰読書」に最適。ただしヌードは人前では広げて見ないこと!

第1位 「『名医』を疑え!」(『週刊文春』4/30号)
第2位 「独占掲載『マッサン』のエリー 衝撃の全裸ヘアヌード*見えなかったら、お代はお返しします」(『週刊現代』5/9・16号)
第3位 「安倍官邸と大メディア 弾圧と癒着の全記録」(『週刊ポスト』5/8・15号)

 第3位。『ポスト』が毎週のように追及している大メディアと安倍官邸との「癒着」ともいえる馴れ合い関係批判を、私は支持している。
 『ポスト』は第2次安倍内閣発足から、安倍首相と新聞とテレビ局幹部らとの「夜の会食」は2年半で50回に上るという。
 田崎史郎時事通信解説委員なども足繁く通っているし、ここには出てきていないのは「会食」ではないからかもしれないが、田原総一朗氏などもよく安倍首相と会っている。
 メディア論では「権力のメディア操縦」は3段階で進むという。第1段階は圧力で政権に不利な報道を規制する。第2段階はメディアのトップを懐柔することで政権批判を自主規制させ、第3段階では現場の記者たちが問題意識さえ持たなくなって権力監視機能を完全マヒさせる。
 安倍はこれを忠実に実行し、ほぼ第3段階まで来ているのではないだろうか。もともと新聞というのは戦時中やGHQ占領時代を見てみればよくわかるように、強い者にはひたすら弱く、相手がそれほど強くないと見るや「われわれはウオッチドッグ(番犬)でなければならない」と言い出すメディアなのである。
 もちろんテレビは言うまでもない。

 「昨年来、『日本の外務官僚たちが、批判的な記事を大っぴらに攻撃しているようだ』」

 独紙フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)のカルステン・ゲルミス記者が日本外国特派員協会の機関誌にこう書いて、話題になっていると 4月28日のasahi.comが報じている。

 「ゲルミス氏は2010年1月から今月上旬まで東京に5年余り滞在した。発端となる記事をFAZ紙に掲載したのは昨年8月14日のこと。『漁夫の利』と題し、『安倍政権が歴史の修正を試み、韓国との関係を悪化させているうちに、中韓が接近して日本は孤立化する』という内容の記事だった。(中略)
 記事が出た直後に、在フランクフルト日本総領事がFAZ本社を訪れ、海外担当の編集者に1時間半にわたり抗議したという」

 その結果、中根猛・駐ベルリン大使による反論記事が9月1日付のFAZ誌に掲載された。

 「寄稿によると、総領事は、中国が、ゲルミス氏の記事を反日プロパガンダに利用していると強調。さらに、総領事は『金が絡んでいると疑い始めざるを得ない』と指摘した」(同)

 批判的な記事を書いた記者のことを、こともあろうに「中国から金が出ている」と誹謗するなど、言語道断である。
 トップがトップなら、下の役人どもも身の程をわきまえないということか。外国メディアの笑いものだが、日本のメディアでこれを笑えるところはどこにもないのではないか。

 第2位。お次は『現代』の袋とじ。合併号らしい派手なグラビアである。NHKの朝ドラ『マッサン』で一躍知名度を上げ人気者になったシャーロット・ケイト・フォックスだが、元々彼女はアメリカで売れない女優だった。
 日本でがぜん売れっ子になったのだが、その彼女がだいぶ前に出演していたインディーズレーベルの映画『誘惑のジェラシー』で、濃厚なセックスシーンも厭わず、ヘアを晒しながら熱演していたというのだ。
 映画ではたしかにアンダーヘアも見える。男とのセックスシーンもある。『マッサン』人気で注目を浴びているからであろう、この映画がDVDで近々発売になるというパブではあるが、テレビドラマの清楚な役との乖離がなかなかそそるのである。是非一見を。

 第1位。「医は仁術なり」といわれる。『広辞苑』によれば「医は、人命を救う博愛の道である」ことを意味する格言。
 だが、このところテレビなどで取り上げられる「名医」たちは、難しい手術をこなせる“技術”にばかりスポットライトが当てられ、患者に対する“博愛”の精神が欠如している医者が多いのではないかと『文春』が特集を組んでいる。
 トップに挙げられたのは、人工血管「ステントグラフト」の第一人者とされ“神の手”を持つとNHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』でも特集を組まれた慈恵医大・大木隆生(たかお)教授(52)である。
 慈恵医大を卒業した大木氏は、渡米して学んだ医科大学でステントグラフト治療(大動脈瘤などの手術で、折りたたんだ人工血管を足の付け根から通して血管を補強することで、瘤の拡大や破裂を回避する)により名を挙げて、06年に帰国して慈恵医大の教授に就任した。  『文春』によれば、その名医が、手術した患者(死亡・当時74歳)の遺族から、8700万円の損害賠償請求訴訟を起こされているというのである。
 当該の患者の手術は10時間半にも及んだというから、相当な難手術であったようだ。その結果、右下肢は血液の循環不全となり、2週間後に余儀なくされた右大腿切断の手術の2日後に患者は亡くなっている。
 訴訟に至ったのは、術前の説明「インフォームド・コンセント」が十分ではないというものだ。遺族側は、手術死亡率について、開胸手術では20%、ステントでは2~3%だと説明されていたという。しかも「未承認の機器」を使ったのでリスクが高いはずなのに、そのリスクに対する開示はなかったと主張しているそうである。
 遺族側は、特注のステントグラフトを作製したメーカーが大木氏に再三、「この特注品は試験をしておらず、予期せぬ危険が生じる可能性があることを、患者に対して必ず忠告しなければならない」と書いてある文書を入手しているという。
 これだけでも大木氏の“博愛精神”に疑問があるが、これまでも手術室で大木氏はゴルフのクラブを振り回して、レントゲン写真などを見るためのシャーカステンというディスプレイ機器を割って、全身麻酔の患者に破片が飛べば大惨事になっていた非常識な“事件”も起こしていたという。
 大木氏は『文春』の取材に対して、訴訟の事実は認めたが、こう言っている。

 「患者が亡くなった場合、全員が全員納得する医療を提供するのは至難の業です」

 このほかにも群馬大学病院第二外科助教・須納瀬豊(すのせ・ゆたか)医師が腹腔鏡下肝切除術で8人が死亡したケースでは、群大病院側が「全ての事例において、過失があったと判断された」という最終報告書を出したが、『文春』は、第二外科の責任者である診療科長の責任も問われなければならないのではと追及している。
 腹腔鏡手術を受けた患者11人が死亡した千葉県がんセンター、生体肝移植で4人が死亡した消化器疾患専門病院「神戸国際フロンティアメディカルセンター」なども取り上げている。
 医療に詳しいジャーナリストの鳥集徹(とりだまり・とおる)氏は「ダメな名医」の見抜き方をこう話す。

 「名医と呼ばれながら事故を起こしてしまう医師に共通するのは、患者に『簡単な手術』などと説明して手術に誘導していることです。(中略)私がほんとうに名医だと思う医師は、必ず『他の医者にセカンドオピニオンを聞くべきだ』と口を揃えます」

 私の友人の外科医が「手術なんてさして難しくはない。大工仕事と同じだよ」と私に言ったことがある。大工仕事を易しいと言っているのではない。神の手などなくても一生懸命手術し、それでも助けられない命があるということである。
 自分は名医などとふんぞり返っている医者にろくな者はいないのだが、そうした連中を、ラーメンランキングの如く、名医のいる病院などと特集を組んだり、それを売りにする単行本を出すから、つけあがらせるのだ。
 『文春』は「失敗しない病院選び最新5カ条」をあげている。①外科医は“エンジニア”(これは私の知人の外科医が言っていたことと同じ)、②セカンドオピニオンに紹介状は不要(まったく違うクラスの病院やその地域と離れた病院へ行く)、③質問・資料請求は遠慮せずに(これに応じない病院は?)、④病院内の“空気”を読む、⑤通える範囲に「かかりつけ医」を。人生持つべき友は医者と弁護士ですぞ。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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