牛蒡の茎のことを「しのごんぼ」という。「しの」とは、牛蒡や人参といった根菜の茎の部分を表すことばで、「ごんぼ」は牛蒡の読みが変化した語である。京都や滋賀で使われていた方言であるが、最近はほとんど聞かれなくなった。

 京都の人は正月料理の「たたき牛蒡」に始まり、酢でしめたり、煮たり、漬け物にしたりと、独特の土臭さや歯ごたえのある牛蒡の料理が大好きである。「しのごんぼ」は春先から夏の始まりまで食べられる食材で、種を厚めに撒いて育った畑の牛蒡を間引いたものである。関西にはもともと「葉牛蒡」や「若牛蒡」と呼ばれる早生(わせ)の品種で、葉や茎から根までをすべて食べられる早春の牛蒡がある。「しのごんぼ」は、これに近い感じで食べる地のものだ。

 まだ若くて茎のやわらかなうちは、小さな根の泥を落としてさっとゆがき、茎の部分を中心にお揚げと一緒に炊いたり、生節(なまぶし)と炊き合わせたりして食べる。いわゆる牛蒡を使ったものよりもやさしく、春らしい味わいである。日に日に、根が大きくなり、すると葉や茎はかたく食べにくくなってくるので、そうしたら、今度はひょろりとした根の部分だけを食べる。牛蒡同様、根の表皮に特有の風味や薬効が集まっているので、洗うときには気を配る。料理はきんぴら風に炊いてごはんと食べるもよし、天ぷらや炊き込みごはんにし、若い牛蒡の歯ごたえを楽しむもよし、である。

   

   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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