小豆餡を入れて両面を炙り焼いた腰高の丸餅。甘さの控えめな粒餡を、やわらかくきめ細かな薄めの餅で包んである。あっさりと軽い食感は、散策の途中で小腹の足しにするときなどにちょうどよく、焼き目の香ばしさも手伝って、一つ、二つと、軽々食べられる。

 一般に焼餅は焼いた餅の総称である。古くは餡を入れた「うずら焼き」、粳(うるち)の米粉で餡を包んだ「ぎんつばやき(きんつばの一種)」なども合わせ、焼餅と呼ばれていた。京都では江戸時代になってから、今日のような餡入りの焼餅が広く食べられるようになり、神社参詣に供した菓子として、この頃から門前茶屋で有名になった。江戸中期の宝暦年間には、祇園社西門下の餅屋が「祇園の焼餅」と呼ばれていて、たいそう人気があったそうだ。次いで上賀茂(北区)・下鴨(左京区)神社周辺の焼餅が有名で、これは5月の葵祭で祭祀に用いる双葉葵にちなみ、葵餅や双葉餅と呼ばれていたそうである。現在は上賀茂社門前にある神馬堂(じんばどう)の焼餅が名物で、いつも午前中に売り切れてしまう人気ぶり。北野天満宮(上京区)東門前にある天神堂の焼餅も有名で、ここは餡を包んだ餅の厚みが薄くて食べやすい。どれもまじりけのない素朴な餅菓子なので、何より焼きたてを食べるのがいちばんうまい。


神馬堂の焼餅。少し噛みごたえのある餅の加減や甘さ控えめの餡と、味は抜群においしいが、瞬く間に売り切れてしまうので、食べたいときには食べられないのが残念なところである。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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