今年1月、相続税の基礎控除額が6割に縮小され、最高税率が50%から55%に引き上げられた。

 この改正によって、これまで全体の4%程度だった相続税の課税対象者が、2015年からは6%程度になることが見込まれている。めぼしい金融資産がなくても、首都圏に一戸建てを持っていると課税対象になる可能性が高いと言われており、節税対策と銘打った不動産会社や税理士法人のコマーシャルを目にする機会も増えている。

 だが、闇雲に節税対策する前に確認したいのが、「小規模宅地等の特例」を使えないかどうかだ。

 小規模宅地等の特例は、支払うべき税額から一定額を差し引ける税額控除のひとつで、相続によって同居している妻や子どもなどが自宅を手放さなくても済むように配慮したものだ。居住用の宅地や事業に使っていた土地は、一定面積まで相続時の評価額が減額される。

 たとえば、居住用の宅地で、妻などの配偶者や子どもが相続して、その後も住み続ける場合は本来の評価額の8割減となる。これまで、適用面積は240㎡だったが、今回の改正に合わせて330㎡まで拡大された(平成27年1月1日以後の相続より適用)。利用できれば、相続財産の評価を大幅に下げることができるので、ぜひとも覚えておきたい特例だ。

 亡くなった人が老人ホームなどの施設に入居していて、自宅に住んでいなかった場合、これまでは特例の対象外だったが、今回から要件が緩和。介護目的で入所していて、家を他人に貸していなければ、8割の評価減を認めてもらえることになった。完全分離型の二世帯住宅にも適用されることになり、小規模宅地等の特例は利用できる範囲が広がっている。

 特例を利用できるのは、原則的に亡くなった人の配偶者および同居していた親族のみだが、相続開始前の3年間、自分(またはその配偶者)の持ち家に住んでいなければその親族も利用可能だ(ただし、相続税の申告期限までに、相続した家を保有継続することが条件。以上の特例は平成26年1月1日以後の相続より適用されている)。

 不動産会社や税理士法人のキャンペーンにのって、節税対策とばかりに慌てて投資用マンションなどを買ったりすると、納税額以上の手数料や手間賃を払うことにもなりかねない。

 家族のなかで、誰が何を相続するのかといった遺産分割が決まらなければ、小規模宅地等の特例を使えるかどうかも分からない。まずは、我が家にはどんな資産が、どれくらいあるのかを把握した上で、できるだけ元気なうちに相続について考えておこう。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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