『週刊ポスト』(4/3号、以下『ポスト』)は安倍首相にも読んでほしいと、いまベストセラーの絵本を紹介している。

 タイトルは『世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ』(汐文社刊、くさばよしみ・編、中川学・絵)。つい3月1日に退任したばかりのウルグアイの大統領、ホセ・ムヒカさんが2012年6月20日に国連の「持続可能な開発会議」(リオ+20)で行なった演説の内容を再録して絵本にしたものだ。

 「2012年、ブラジルのリオデジャネイロで国際会議が開かれました。環境が悪化した地球の未来について、話し合うためでした。
 世界中から集まった各国の代表者は、順番に意見をのべていきました。しかし、これといった名案は出ません。
 そんな会議も終わりに近づき、南米の国ウルグアイの番がやってきました。
 演説の壇上に立ったムヒカ大統領。質素な背広にネクタイなしのシャツすがたです。そう、かれは世界でいちばん貧しい大統領なのです。
 給料の大半を貧しい人のために寄付し、大統領の公邸には住まず、町からはなれた農場で奥さんとくらしています。花や野菜を作り、運転手つきの立派な車に乗るかわりに古びた愛車を自分で運転して、大統領の仕事に向かいます。
 身なりをかまうことなく働くムヒカ大統領を、ウルグアイの人びとは親しみをこめて『ペペ』とよんでいます。
 さて、ムヒカ大統領の演説が始まりました。会場の人たちは、小国の話にそれほど関心をいだいてはいないようでした。しかし演説が終わったとき、大きな拍手がわきおこったのです」(同書はしがきより)

 その内容を掻い摘まんで紹介しよう。

 「世界をおそっているのは、じつは欲深さの妖怪なのです」

 「いまや、ものを売り買いする場所は世界に広がりました。わたしたちは、できるだけ安くつくって、できるだけ高く売るために、どの国のどこの人々を利用したらいいだろうかと、世界をながめるようになりました」

 「貧乏とは、少ししか持っていないことではなく、かぎりなく多くを必要とし、もっともっととほしがることである」

 「人より豊かになるために、情けようしゃのない競争心をくりひろげる世界にいながら、『心を一つに、みんないっしょに』などという話ができるのでしょうか。だれもが持っているはずの、家族や友人や他人を思いやる気持ちは、どこにいってしまったのでしょうか」

 「社会が発展することが、幸福をそこなうものであってはなりません。発展とは、人間の幸せの味方でなくてはならないのです。
 人と人とが幸せな関係を結ぶこと、
 子どもを育てること、
 友人を持つこと、
 地球上に愛があること──
 こうしたものは、人間が生きるためにぎりぎり必要な土台です。発展は、これらをつくることの味方でなくてはならない」

 「水不足や環境の悪化が、いまある危機の原因ではないのです。ほんとうの原因は、わたしたちがめざしてきた幸せの中身にあるのです。見直さなくてはならないのは、わたしたち自身の生き方なのです」

 極めてシンプルで真っ当な内容だが、この約10分のスピーチが終わった後、スタンディングオベーションが起こり、拍手が鳴りやまなかったという。
 ムヒカ氏は1935年生まれ。60年代からゲリラ活動に参加して4度逮捕され、2度脱獄した経歴を持つ。壮絶な半生を送った後、09年11月の大統領選挙で勝利し、10年3月に大統領に就任した。
 安倍首相も4月にアメリカへ行って米議会で演説する予定があるという。『ポスト』が言うように、この絵本を読んで参考にしてみてはいかがだろう。だが「欲深さの妖怪」の権化のような安倍さんには言えないだろうな。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 今週はとびきりのスクープがあるが、『週刊文春』を読んでない人は、新聞、スポーツ紙、テレビを見ても出ていないので、ネットで断片情報を知ることになるのだろう。この1本だけでも週刊誌を買う価値があろうというもの。お楽しみを!

第1位 「AKB48盗撮事件 犯人は事務所元役員」(『週刊文春』4/2号)
第2位 「『これが陸自3佐か、情けない……』防衛省が嘆いた被害女性の臆病と感傷」(『週刊新潮』4/2号)
第3位 「わが東京海上との『1300日裁判』」(『週刊現代』4/11号)

 第3位。東京海上日動火災保険といえば損害保険業界大手だが、そこで社員による訴訟が起きていると『現代』が報じている。
 そこに勤める50代の現役社員、田中一郎氏(仮名)がそれだ。東京の有名私立大学を卒業した田中氏は、北海道にある支店に勤務していた10年7月、突然降格人事を言い渡されたそうだ。
 課長代理から主任に格下げとなり権限も大幅に奪われ、入社24年にして入社3年目の社員と同じ扱いを受けるようになったというのだ。
 原告代理人を務める菅谷公彦弁護士によると、「05年、田中氏は最高評価のSランクでした。これは3000人以上いる課長代理クラスの、上位5%にしか与えられません」
 ところが06年、田中氏の知らないところで評価は一気に3段階落ち、Bになり、10年には最低のDとされ、異例の降格人事を受けたのだ。
 田中氏は社内の苦情処理委員会に諮(はか)ったが十分な説明はなく、翌11年に降格の無効を求める労働審判手続きを札幌地裁に申し立てた。だが裁判官らによる1か月間の審議と調停も不調に終わる。
 その間に会社側からは社内の書類を奪われるなどされる。弁護士からは、自らの人権を守るために裁判所に提出しようとしている証拠書類を渡す必要はないと言われていたのに、元上司らは渡さないと懲戒解雇もありうると言わんばかりの勢いだったので抵抗できなかったそうだ。
 この直後、田中氏は北海道から遠く離れた西日本の支店に転勤となる。4年間、約1300日、毎回自費で札幌地裁に通う闘いの日々が始まった。
 05年に発覚した大手損保各社の不払い問題は、直前の3年間で約18万件、総額84億円超に達し、東京海上を含む26社が金融庁から業務改善命令を受けたが、これと田中氏の降格が深く関わっているというのである。菅谷弁護士がこう言う。

 「報告書には『田中氏の不十分な指示のために、担当者が、支払い漏れへの対応業務に必要な書類の入ったフォルダーを廃棄した』とか、金融庁の指示による調査に際しても田中氏が、本来支払い漏れとカウントするべき事案を『一律「支払い対象外」とする報告を独断で行った』などと書かれていた」

 つまり一部の不払いの責任が田中氏にあるかのように報告されていたというのである。
 裁判ではこんなこともあった。12年8月、会社側が田中氏の「勤務態度が悪かった」ことを裏付けるとして、驚くべき「新証拠」を提出したという。A3用紙2枚半にびっしりと書かれた「指導記録」だ。
 だが、この書類はエクセルで作った表のプリントアウトで、作成時期がわかる元のデータを出せと言っても出してこなかったという。
 その課長は指導記録について、一般的なもので他の社員にも同様の指導記録を作成していると証言していた。
 だが、裁判官に確認されると、件の課長は「いや、田中氏だけです」と言ったのだ。
 そうして今年3月18日、札幌地裁の判決では、田中氏の降格人事は不当なものだったとして、田中氏の地位を元に戻すことが認められた。しかし、処分の理由は解明されておらず、慰謝料も認められなかった。
 これに不服な田中氏は、このままでは引き下がれないと、札幌高裁に控訴する予定だそうだ。
 『現代』の報道が事実だとすれば、社の不始末を一社員に押し付けたということになろう。田中氏の言うように、処分の理由を東京海上側が明らかにしない、または明らかに出来ないのでは、我々も納得がいかない。損保会社の深い闇をこじ開けられるのか、注目の裁判である。

 第2位。3月18日にアフリカ大陸の北端に位置するチュニジアの首都・チュニスで発生したテロ事件で、死傷者は約70人。邦人3人も死亡している。
 『ポスト』(4/3号)は、安倍首相はイスラム国の人質事件のあと、「彼らに罪を償わせるために人道支援する」「日本人には指一本触れさせない」と言ったのに、それを果たせなかったではないかと責めている。それは安倍首相にいささか酷な気はするが、イスラム国が言っているように、日本人はどこにいても過激派の標的になる時代が来たことは間違いない。
 安倍首相は3月20日の国会質疑で自衛隊を「我が軍」と答弁した。麻生太郎副総理の「未曾有(みぞゆう)」などとは比べものにならない重大発言だが、安倍首相御用達の大新聞は情けないことに及び腰の批判しかしていない。
 自衛隊を「我が軍」と思っている安倍首相には、この『新潮』の以下の記事はショックだったであろう。
 なぜなら、休暇を利用して母親との観光旅行中にテロリストたちによって負傷した被害者のひとりが、ただの民間人ではなかったからだ。
 その人は結城法子氏 (35)。銃撃された彼女は左耳などに怪我を負い、現地の病院に搬送されて全身麻酔での手術を受ける事態となった。
 その彼女の手記がいくつかの新聞で掲載され、そこには彼女が自衛隊中央病院に勤める陸上自衛隊の3等陸佐であることが書かれている。『新潮』は彼女が負傷したことや、その大きなショックがあることには配慮しながら、3佐といえば旧日本軍の少佐に相当する要職なのに、その手記には「臆病と感傷」しかないと難じている。
 彼女は自衛隊員の健康管理等にあたる医官で「約200人の部隊を指揮するほどの職責を担っている。(中略)有事の際は海外に派遣される可能性もあります」(防衛省担当記者)
 陸上幕僚監部広報室も「医官といえども陸上自衛官ですから、自衛隊員としての最低限の訓練は受けております」と認めているように、「結城氏は立派な我が国の『防人(さきもり)』の1人なのである」(『新潮』)
 そういう立場の人にしては、手記に立場を意識していない言葉が並んでいるのは如何なものかというのである。たとえばこういう箇所だ。

 「外でも、救急室でも、多くの人がいて写真やビデオを向けられ、とても不快でした」「私は一日中泣いていたせいで目が腫れ上がって開けることができず……」

 『新潮』はこうも書いている。

 「ここには『被害者としての思い』が前面に押し出されているものの、他方で『何か』が決定的に欠けているとの違和感が拭い去れない。それは手記が徹頭徹尾『私』に終始しており、陸自3佐という『公の立場での思い』が、見事なまでにすっぽり抜けている点に起因する」

 また彼女を取材しようとして大使館の人間とやり取りしている朝日新聞の記者の声を、「日本語で怒鳴っている声が聞こえ、ショックでした」と書いているところについても、こう書いている(朝日新聞の記者は、彼女の手記の後ろに、そのときのことについて書いている)。

 「手法の是非はともかく、メディアが被害者の生の声を聞こうとするのはごく自然な行為であり、彼女が矛先を向けるべきは朝日ではなく、テロリストであるはずだ。しかしながら、手記にはテロの犯人を非難する記述は1行たりとも見当たらない……」

 そんな彼女に「国防の前線に立つ自衛官の自覚を感じるのが難しい」(同)と言い、それを象徴するのが「結城3佐は、海外渡航承認申請書を提出しておりませんでした」(陸幕広報室)という点だと指摘する。
 自衛官には私的休暇であっても日本を離れる際には、事前に届け出を行なわなければならない義務が課せられているそうだ。彼女は無断渡航だったのだ。

 「病院へ着くと、パスポートなどが入ったバッグはとられて、携帯もなくなってしまいました」「日本大使館の方がいらして、日本の家族の連絡先を聞かれましたが、携帯がなかったので実家の固定電話しか分からず、なかなか連絡がつかなかったようです」

 こうした記述にも、元陸自北部方面総監の大越兼行氏は愕然とすると言う。

 「家族との連絡よりも何よりも、真っ先に防衛省に連絡を入れて、自分が置かれた状況を報告し、何をすべきか指示を仰ぐことが自衛官には求められるはずです。それもせずに、手記を公表する……。彼女の一件が、自衛隊に対する国民の期待を裏切ることにつながりはしないかと危惧しています」

 彼女の場合、重傷を負ったわけだから、ここまで言うのは酷な気が私にはするが、我が軍隊だと考えている安倍首相はどう感じているのだろう。新聞記者はそのことについて質問するべきである。
 『文春』(4/2号)は「GW旅行 危険な観光地リスト」という特集の中で、こうしたテロに遭う危険性のある観光地をあげている。
 北アフリカに近いイタリア。今年に入ってベルギーやデンマークでイスラム過激派によるテロ事件が起きている。カナダでも銃乱射事件が起きた。当然のことながらアメリカは最も危ない。東南アジアでもインドネシアやタイの南部、さらにフィリピン南部のスールー諸島などなど。
 結局、どこへ行っても危険は伴うということだ。比較的安全なのは国内旅行だけだというのでは、寂しい連休になりそうである。

 第1位。さて今週の第1位はテレビでは絶対放送できない大スキャンダルである。何しろ今をときめくAKB48の女の子たちを盗撮していた動画や写真を『文春』が入手したというのだ。

 「動画のひとつを開く。
 画面はホテルの一室でカメラをセッティングする黒いTシャツの男を映し出す。長髪の男は角度を確認すると、小走りに部屋を出る。
 その一分後に入ってきたのが人気メンバーのA子だ。A子は当時未成年。上は黒のTシャツ、下は白いジャージのパンツを穿いている。 その後ろから男も一緒に入室。(中略)
 男が退出すると、痩せてすらりとした体型のA子は、ジャージのパンツ、ストッキング、パンツを順に手早く降ろす。露になる臀部。A子は、あらかじめ用意されていた白いビキニの水着のパンツを穿き、次に上半身の着替えにかかる。(中略)
 そうして緑や黒、ピンクなど計五種類の水着の試着を終えたのだった」

 これを盗撮していた男は、何とAKB48のメンバーが所属している「オフィス48」の元取締役だった野寺隆志氏(38)だというのだ。
 彼は2010年に「一身上の都合」でそこを退社しているが、2013年に小学生の女子児童に対するわいせつ行為で逮捕され、実刑判決が出ている。
 その取り調べの際に、ライターやボールペン状のカメラで盗撮をしていたと白状しているのだが、なぜかその件では立件されていない。
 その膨大な盗撮動画や写真を『文春』が手に入れたのである。動画は15時間75本もあるそうだ。冒頭に紹介したシーンはその一部である。
 野寺というのはどんな人間だったのか。

 「野寺さんは幹部の中でも現場に近い人。マネジャーのリーダーみたいな立場でした。同じくオフィス48の取締役で、劇場支配人でもあった戸賀崎(智信)さんの次に発言力があった。でも、野寺さんは権力をひけらかすことなく、現場スタッフに人気でした。お酒が好きで、後輩を飲みに連れていってくれたり、上に内緒で深夜にAKB 48劇場を開放して、クラブイベントみたいな飲み会を開いてくれたこともありました」(元AKB関係者)

 AKB48のメンバーも気さくな彼に気を許していたという。その人間が、自分の邪悪な欲望を満たすために、盗撮を繰り返していたというのだから、彼女たちにとっても衝撃的だろう。
 『文春』によれば「さらに悪質なのは、全ファイルの三分の一以上に上るトイレ盗撮だ。他の動画と同様、まずカメラをセットする野寺が映り、その後にメンバーが次から次へと映り込み、用を足す。その場面だけを切り取り、集めた上で、メンバーの名前を冠したファイルも存在した」というのだから、怒りと恥ずかしさで卒倒する女の子もいるだろう。
 野寺は今年の初めに出所している。彼をインタビューしているが、ほとんど喋らずに逃げてしまったそうだが、それはそうだろう。
 『文春』は、ある運営幹部に証拠の一部を提示したうえで、今後の対応について訊ねたそうだが、運営会社AKSからはこんな回答しかなかったそうだ。

 「今の段階で事実関係を確認できていないため、コメントは差し控えさせて頂きます」

 05年のAKB48の旗揚げ公演から今年で10年になる。

 「記念すべき節目の年に発覚した、この“重大事件”を無かったことには出来ない。野寺本人の罪は言うまでもないが、いま問われているのは、少女を預かる運営側の危機対処と管理責任なのである」(『文春』)

 現・元メンバーやその親たちに、運営会社や秋元康たちは何と言うつもりなのだろう。彼らは野寺が逮捕されたとき、この事実を警察から知らされていた可能性は十分にあるはずだ。
 また、この前代未聞の盗撮動画がネットに流れないという保証はない。そうなればAKB商法が根底から崩れることは間違いない。
 こうしたものが発覚するというのもAKB人気の終わりの始まりであろう。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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