ゲームの後塵を拝して、漫画が売れない時代になった、とされて久しい。業界にとって怖いのは、若者のあいだで「漫画の読み方がよくわからない」と言い出す者まで現れている事実だ。この時代、紙でなく画面上で漫画を読むビジネスの行方が気になる。まずは単純に「漫画が好き」というユーザーを増やしていく必要があるのだから。

 気軽に読める「無料」の漫画アプリが花盛りとなっている。『LINE マンガ』、『マンガ全巻無料』(Amazia)、『少年ジャンプ+』(集英社)……。かつてスマホは、「無料で遊べるゲーム」という発明で巨大な市場を創出した。漫画でも同様のことができるのだろうか。新規参入が引きも切らない、期待の寄せられている分野だ。

 最も知名度が高いのは、DeNAが運営している『マンガボックス』であろう。無料であるだけに、過去作に光を当てたアプリが多い中、人気作家の新作が読めるのがウリだ。『金田一少年の事件簿』のスピンオフ『高遠(たかとお)少年の事件簿』(現在は連載終了)など、コンテンツの質は高い評価を受けた。一方、作家の知名度ではなく、オリジナルの新作で勝負しているのが『comico』(NHN PlayArt)。漫画のコマがスマホ向けに特化して縦割りとなっているのが大きな特徴で、順調にヒット作も育っている。

 そして2014年には、ソフトバンクグループのSBイノベンチャー社が『ハートコミックス』で参戦。漫画家の赤松健氏が立ち上げた会社「Jコミ」と連携した。Jコミは、漫画の無料公開の先駆け的存在(現在、サービス名は『絶版マンガ図書館』となっている)で、なかなか強力なタッグとなる。これら0円漫画アプリは、いわゆる「電子書籍」のビジネスモデルと切り離された独自の道を歩みつつあるようだ。今後の行方が気になる。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   


結城靖高(ゆうき・やすたか)
火曜・木曜「旬Wordウォッチ」担当。STUDIO BEANS代表。出版社勤務を経て独立。新語・流行語の紹介からトリビアネタまで幅広い執筆活動を行う。雑誌・書籍の編集もフィールドの一つ。クイズ・パズルプランナーとしては、様々なプロジェクトに企画段階から参加。テレビ番組やソーシャルゲームにも作品を提供している。『書けそうで書けない小学校の漢字』(永岡書店)など著書・編著多数。
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