2015年1月、『サラバ!』(小学館)で直木賞を射止めた西加奈子氏の喜びのコメントは、文学界をプロレス界になぞらえた内容が印象的だった。活字離れにあえぐ本の世界は、かつてのプロレス興行のように収益面で苦しい。一方、話題性のある選手たちのおかげで、プロレスは復権したといえるだろう。西氏は、難しい現状を打破しようとする作家たちを、苦しい時代を支えたプロレスラーたちに見立てているわけである。こうした発言が、記者の共感を持って報道されるほど、確かにプロレスは「来ている」ようだ。

 いままでのプロレスブームと今回とでは、決定的に異なる点がある。盛り上がりを牽引しているのは、西氏に代表されるように女性、いわゆる「プロレス女子」であるという事実だ。たとえば、「新日本プロレス」のオフィシャルファンクラブの男女比率は、いつの間にか4割を女性が占めるまでになっている。往年のプロレスファンが久しぶりに会場に行くと、女性たちの黄色い声援にびっくりするらしい。選手たちとの交流イベントともなると、8割が女性になるというから、往時とは隔世の感がある。

 それもそのはず、じつは、このブームには布石がある。仕掛け人は、2012年に新日本プロレスの親会社となった、カードゲーム大手の「ブシロード」。宣伝のうまさは業界でも定評があり、早くから女性ファンの重要性にも目を向けていた。当時、プロレスに女子目線を持ち込むのは、なかなかの英断だったのではないか。現在ではレスラーたちの衣装や興業の演出もだいぶ派手になった。とはいえ、重要なファクターは、ちょうど「イケメンレスラー」が台頭を始めた時期でもあったことだ。棚橋弘至(たなはし・ひろし)、中邑真輔(なかむら・しんすけ)、オカダ・カズチカといった、ルックスを兼ね備えた実力派の活躍で、プロレス女子はますます増加しそうな勢いである。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   


結城靖高(ゆうき・やすたか)
火曜・木曜「旬Wordウォッチ」担当。STUDIO BEANS代表。出版社勤務を経て独立。新語・流行語の紹介からトリビアネタまで幅広い執筆活動を行う。雑誌・書籍の編集もフィールドの一つ。クイズ・パズルプランナーとしては、様々なプロジェクトに企画段階から参加。テレビ番組やソーシャルゲームにも作品を提供している。『書けそうで書けない小学校の漢字』(永岡書店)など著書・編著多数。
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