京おんなの話す京ことばは、やさしくて上品で女らしい。そんなこそばゆい形容が、日本中のお歴々からまことしやかに囁かれてきたのが、京ことばの歴史の一幕でもある。たゆたうような女性的印象のあることばの理由の一つは、語尾に「もじ」をつける「もじことば」(文字言葉)の氾濫にある。例えば、寿司を「おすもじ」、しゃくしを「おしゃもじ」、あなたを「そもじ」、鯉は「こもじ」、鮒は「ふもじ」など、たくさんの「もじことば」が使われており、現代でも聞き覚えのあることばが少なくない。このようなことばは「女房詞」(にょうぼうことば)の一種で、中世に天皇の住居である内裏や上皇の居室である座所などで、皇室の位の高い女官によって用いられてきたものである。当初は皇宮(京都御所)の内裏と仙洞御所だけに限って使われていたが、徐々に町ことばとして広く使われ、庶民にも浸透していった。

 女房詞には「もじことば」以外に、頭に「お」をつける丁寧な言い方も特徴で、「おかき」(かき餅)、「おまん」(饅頭)、「おさつ」(さつまいも)、「おうす」(薄茶)、「おざぶ」(座布団)、「おなす」(なすび)、「おひや」(飲み水)などは、宮中や尼門跡で現代も使われており、一般の男性でも使うようなことばとして定着したものが数多くみられる。


仙洞御所の御常御殿。室町時代以降に天皇や上皇の日常的な生活の場として使われた御殿。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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