1月20日にイスラム国の戦闘員がジャーナリストの後藤健二さん(47)と湯川遥菜(はるな)さん(42)を人質に取り、2人の命と引き替えに2億ドル払えという映像をYouTubeにアップした事件は二転三転していて、現時点(1月29日)ではどういう結末を見るのか予測がつかない。

 週刊誌もページを割いてこの事件を扱ってはいるが、現地の情報が取りにくいこともあって、安倍首相の対応のまずさやイスラム国についての解説、後藤さん、湯川さんについての「個人情報」が中心である。

 1月29日発売の『週刊文春』(2/5号、以下『文春』)と『週刊新潮』(2/5号)は後藤さんについて、「紛争地帯の一般民衆に寄り添う」(『文春』)とジャーナリストとして評価しながらも、彼の結婚歴や「“画になる”映像をきちんと計算して撮っている」(『文春』)売り込み上手なことを取り上げたり、後藤さんの実母としてたびたびメディアに登場する石堂順子さん(78=20年ほど前に離婚)が、会見で「原発は反対」と発言したことを批判的に書いている。

 週刊誌の「業」のようなものではあるが、こんなことまであげつらう必要があるのかと、首を傾げざるを得ない。

 そのなかで、ほかのメディアに先がけていち早く安倍首相外交のおかしさを追及したのは『週刊ポスト』(2/6号、以下『ポスト』)だった。

 『ポスト』は安倍首相に「テロと戦う」などといえる資格があるのかと問うている。

 後藤さんがシリアに向けて出発したのは昨年の10月22日。後藤さんの妻に約10億円の身代金を払えというメールがあったのは11月初めだった。『ポスト』はすぐにその情報を入手して動いたが、外務省が現地のシリア人を仲介役にして2人の解放の交渉中なので、人命のために書かないでくれと言われたという。

 だが、外務省はその後も誰一人現地に入って救出に動いておらず、仲介者任せにしていたのだから「本気度は疑わしい」と『ポスト』は批判する。

 身代金交渉は表に出れば難航するのは、これまでの人質事件でわかっていることだ。解決するなら水面下で敏速にやるしかない。もし多額のカネをテロ組織に払ったということが明らかになれば、国内だけではなく他国からも非難されることになる。

 しかし安倍首相は、そうしたことを考えることなく、こう言ったという。

 「フランスのテロ事件でイスラム国がクローズアップされている時に、ちょうど中東に行けるのだからオレはツイている」(官邸関係者)

 さらに中東支援の総額25億ドルについてもこう言い放ったそうだ。

 「日本にとってはたいしたカネではないが、中東諸国にはたいへんな金額だ。今回の訪問はどの国でもありがたがられるだろう」

 『ポスト』は「テロは対岸の火事で、自国民の人質には一顧だにしないのが『積極平和外交』の実態だったのか」と言っているが、その通りである。

 しかし、現地で情勢は一変し、イスラエルで記者会見に臨んだ安倍首相には自信の欠片もなかった。

 たちまち日本へ飛んで戻り、自分の中東訪問が2人の人質の生命を危うくしたかもしれないことなどおくびにも出さず、テロと戦う、テロには屈しないなどと、うわごとのように言うだけである。

 この政府の無策にもかかわらず、国民の多くが日本政府の対応に賛意を表しているのは、新聞、テレビがこの事件に対する政府の対応について、正確な報道をしていないからだ。

 この事件で一気に名が知れ渡ったイスラム国は、その残忍な面ばかりが強調されるが、『イスラム国 テロリストが国家をつくる時』(文藝春秋)の著者、ロレッタ・ナポリオーニ氏によれば、この国は「イスラムの新しい黄金時代をつくる」という魅力的なメッセージを発して、ヨーロッパやアメリカで暮らすイスラム系移民の不満につけ込む鋭い政治感覚を有した武装組織だという。

 彼らが標榜する「カリフ制国家」とは、ムスリムにとっての理想の形だ。数世紀に及ぶ屈辱や差別、異教徒への屈従からの解放であり、それはユダヤ人のために建国したイスラエルのようなものを目指しているというのである。

 彼らは油田を制圧して多額の資金を稼いできたことは知られているが、ほかのどの武装集団もやったことがないことをやっている。自爆テロ一件ごとの費用に至るまで詳細な収支を記録し、高度な会計技術を使って財務書類を作成しているという。また兵士たちには安いながらも給料が支払われ、制圧地域内では予防接種も行なわれ、病院から老人ホームまで備えているというのだ。

 ナポリオーニ氏によれば、イスラム国とこれまでの過激派集団との違いは、イスラム国が明確に国家たらんとする意思を持っていることだという。

 単なる人殺し集団が国家建設だと、笑わせるなと侮ってはいけない。アメリカを中心とする有志連合は空爆によって、わずか数か月の間にイスラム国戦闘員を6000人殺したと発表した。反イスラム国連合はイラク国内で軍事的勝利を続けている。さらに原油価格暴落でイスラム国が大きく収入を減らしていることも事実だ。

 だが、『ニューズウィーク日本版』(2/3号)によれば、「今もISIS(イスラム国=筆者注)には、戦闘員を次々と補充できるという大きな強みがある。ヨーロッパやアフリカ、中東からの大量の戦闘員の流入はまだ止まっていない。この点は、アメリカを初めとする反ISIS諸国にとって最も厄介な問題だ」。噂では10人ほどの日本人もすでに参加しているといわれる。

 文豪・トルストイを持ち出すまでもなく、暴力に暴力で対抗すれば連鎖はどこまでも果てしがない。後藤さんにもしものことがあれば、イスラム国だけではなくイスラム教徒は日本人全体の敵だという世論が巻き起こり、9・11の時、アメリカのメディアがブッシュの戦争に沈黙したように、いや、それ以上の自主規制がメディアに広がりかねない

 そして安倍首相の思惑をも遙かに超えて、自衛隊を中東の紛争地帯に送ることを、この国の国民は進んで選択するかもしれない。この人質事件がその「号砲」になりかねないと心配している。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 人質事件一色の週刊誌だが、ほかにも読むべき記事は多い週だったため、3本に絞るのは難しかった。

第1位 「マクドナルド都内元マネージャーが懺悔告白」(『アサヒ芸能』1/29号)
第2位 「被害元力士が壮絶体験を決意の告白『僕が受けた有名関取からのエアガン、乳首イジメ』」(『週刊ポスト』2/6号)
第3位 「ジャニーズ女帝 メリー喜多川 怒りの独白5時間」(『週刊文春』1/29号)

 第3位。まずは『文春』のジャニーズ事務所の女帝・メリー喜多川氏のインタビューから。巻頭から「ブチ抜き10ページ」もやっているが、正直、この記事の重要性が私にはわからない。
 この内容をひと言で言うなら、事務所の後継者争いが話題になっているが、自分の娘の藤島ジュリー景子氏だと、メリー氏が断言したということである。
 そんなことどうでもいいと思うのは、私が芸能界に疎いからであろうか。『文春』にとっては一大事、何しろメリー氏がインタビューに答えるのは約30年ぶり、芸能史に残る貴重な証言だと大声で呼ばわるのだが、何がそんなに貴重なのか読んでもわからない。
 『文春』によれば、ジャニーズ事務所には後継を巡る2大派閥があり、ひとつは先のジュリー氏、それとSMAPやKis-My-Ft2などを担当するマネージメント室長の飯島三智(みち)氏だという。
 国民的グループに登り詰めたSMAPを育て上げたのが飯島氏で、SMAPも慕っているそうだから、キャスティングに携わるテレビ局関係者にとっては、飯島氏の存在は大きくなっているそうである。
 だが芸能界きってのやり手であるメリー氏の力は絶大だ。ジュリー以外に(誰かが)派閥を作っているというのなら、許せない。飯島を注意します。今日、(飯島氏を)辞めさせますよと言い切る。
 早速、メリー氏は飯島氏を呼びつけ、彼女は困惑しながらやってくる。その彼女にメリー氏はこう迫る。

 「飯島、私はこう言いますよ。『あんた、文春さんがはっきり聞いているんだから、対立するならSMAPを連れていっても今日から出ていってもらう。あなたは辞めなさい』と言いますよ」

 まるで引責辞任を迫るような厳しい言葉。後継問題にけりが付いた瞬間だったと『文春』は書いている。
 おもしろいのは『文春』が、ジュリー派の嵐と飯島派のSMAPがあまり共演しないといわれているがと聞いたとき、じっと耳を傾けていたメリー氏がこう言い放つ。

 「だって(共演しようにも)SMAPは踊れないじゃないですか。あなた、タレント見ていて踊りの違いってわからないんですか? それで、そういうことをお書きになったら失礼よ。(SMAPは)踊れる子たちから見れば、踊れません」

 天下のSMAPも形無しである。しかもメリー氏にとって事務所のトップタレントはSMAPではなく、いまでも「マッチ(近藤真彦)」なのだ。
 この記事は読者へのインパクトは弱いと思うが、事務所内、特に飯島氏とSMAPへ与える影響は大きいのだろう。SMAP独立か、という見出しが立つ日が来るのかもしれない。やはり、私にはどっちでもいいことだが。

 第2位。お次は『ポスト』お得意の大相撲批判。北の湖理事長も所属する出羽海一門の千賀ノ浦(ちがのうら)親方(元関脇・枡田山)の部屋の唯一の関取・舛ノ山(ますのやま、十両)が、若い力士を殴ったり、噛みついたり、エアガンで撃ったりと、凄まじいイジメをしているというのである。
 しかもそうした暴行を受けていたのを親方は知っていたはずなのに、何の対応もしなかったというのだ。
 また、こうした被害を受けた力士の保護者が相撲協会の危機管理委員会に連絡したところ、「息子さんが強くなって、上に上がればそういうこと(イジメ)はなくなりますよ」と言われたそうである。
 この委員会は12年に起きた相撲界の数々の不祥事を予防し、再発防止のためにもうけられたものだが、これではどこまで真剣に取り組んでいるのかわからない。
 この保護者が親方に直談判したときも、舛ノ山が次にこんなことをしたらすぐに引退させると言ったのに、その後音沙汰なしだという。
 白鵬が大鵬の記録を抜いて盛り上がる大相撲だが、相撲界の悪しき体質は未だ変わっていないということだろう。これでは07年に起きた時津風部屋の死亡事件のようなことが再び起こるのは間違いない。

 第1位。『アサ芸』でマクドナルドの元マネージャーが「懺悔告白」をしている。彼曰く、厨房内でゴキブリを見るのは当たり前で、見つけるとバイトのスタッフがおしぼりで叩きつぶして、捨てた手を洗わずに仕事を続けていたなど、書くのも気持ち悪くなりそうな仕事現場について話している。
 ポテトやナゲットを揚げるフライヤーのなかにゴキブリが浮いていたことも珍しくなかったとも言っている。
 現役のスーパーバイザーは、元マネージャーがいたころとは使う機械も違っているし、衛生管理をそうとう厳しく指導されるようになっているから改善されているはずだと答えている。
 たしかに食べ物を扱う店にはゴキブリはつきものだ。ラーメン屋などはカウンターの上をゴキブリが這い回る店がいくらでもある。
 『ポスト』でビートたけしが、おいらは浅草育ちだからゴキブリ入り焼きそばなんて驚かないと語っているが、少々の汚さは我慢しなければ外食なんぞはできはしない。
 フレンチや高級和食店だって、裏に回ってみればそうきれい事ばかり言ってはいられないはずだ。
 だがマクドナルドの異物混入“事件”の難しさは、この件に対するトップの対応のまずさと、日本人のハンバーガー離れが進んでいることであろう。どうしても食べたいものではなく、安くて手軽だったから食べていたので、いまではマックがダメならすき家や吉野家があるのだ。マック危うしである。
 やはり1月28日付のasahi.comでこんな記事が出た。

 「米マクドナルドは28日、ドン・トンプソン最高経営責任者(CEO)が3月1日付で退任すると発表した。同社をめぐっては、昨年7月に発覚した期限切れ鶏肉問題で日本などアジア地区の売り上げが急減し、本拠地の米国市場も不振が続いているため、事実上の引責とみられている」
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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