今年1月、健康保険の高額療養費が改正された。

 今回の見直しは、2012~2013年に行なわれた社会保障制度改革国民会議の「高額療養費の所得区分について、よりきめ細やかな対応が可能となるよう細分化し、負担能力に応じた負担となるよう限度額を見直すことが必要」という提言に従ったものだ。

 高額療養費は、医療費の負担が家計の重圧にならないように、患者が支払う自己負担額に一定の上限を設けた制度。これまで3段階だった70歳未満の人の所得区分を5段階に細分化し、中低所得層の自己負担限度額を引き下げる一方、高所得層の限度額をこれまでより引き上げることになった。

 2015年1月からの所得区分による1か月の自己負担限度額は次の通り。

 年収約1160万円~⇒25万2600円+(医療費-84万2000円)×1%
 年収約770万~約1160万円⇒16万7400円+(医療費-55万8000円)×1%
 年収約370万~約770万円⇒8万100円+(医療費-26万7000円)×1%
 ~年収約370万円⇒5万7600円
 住民税非課税世帯⇒3万5400円

 応能負担の観点から、年収370万円以下は限度額を引き下げ、年収770万円以上の負担を引き上げることにしたというわけだ。

 この見直しを受け、生命保険会社のなかには、高所得層の負担増を強調して、保険の見直しキャンペーンを始めているところもあるようだ。

 しかし、厚生労働省の試算によると、今回の制度改革で、負担増となるのは約1330万人。一方、負担が軽くなるのは約4060万人と、後者のほうが圧倒的に多い。もしも保険の見直しをするのであれば、これまで入り過ぎていた民間の医療保険を減額、もしくは解約する方向で見直すべき人のほうが多いのではないだろうか。

 また、負担増になる高所得層の多くは、独自の保障を上乗せしている付加給付のある組合健保に加入している大企業のサラリーマンだ。加入先の健保組合に付加給付があれば、高額療養費の限度額も月2~3万円と優遇されているところが多い。

 負担増となる高所得層も、まずは、勤務先の健康保険の保障内容を調べたうえで、民間の医療保険の見直しを行ないたい。

 税金や社会保障費など公的な負担が増えるのは気が重いもの。しかし、社会的共通資本としての医療を守っていくためには、国民一人ひとりの負担は避けられない。持続可能な制度にしていくためには、どのような制度がふさわしいのか。これを機会に考えてみたい。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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