ここ数年、文具の世界がおもしろいことになっている。三菱鉛筆の、芯が回転することでいつも細い字が書けるシャープペンシル「クルトガ」、筆記速度にかかわらずなめらかに字が書けるボールペン「ジェットストリーム」は、革新的な技術でまたたく間に定番商品となった。文具にはまだまだ「売り方」があったのだ。世の中の電子化が進むにつれ、全体の売り上げが伸び悩んでいる業界の危機感が、驚くような商品に結実しているといってよいだろう。

 2013年10月にパイロットコーポレーションが発売した「カクノ」は、小学生をターゲットにした「はじめての万年筆」。鉛筆を意識して、軸が六角形に、またグリップ部分が三角形になっている。筆記用具の握り方を自然と学ばせるツールとなっているのだ。インクカラーの種類が豊富なこともあって、大人たちにもじゅうぶんな支持を得た。税別で1000円という価格設定ながら、本格的なペン先の質など、万年筆の老舗メーカーの矜持をみせつける一本である。その販売本数はすでに50万本に達している。

 万年筆の書き味というものがわからない若い世代が多くなった。カクノでその良さを知った世代が育てば、メールの時代にも手書きの奥ゆかしさというものは残っていくのだろう。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   


結城靖高(ゆうき・やすたか)
火曜・木曜「旬Wordウォッチ」担当。STUDIO BEANS代表。出版社勤務を経て独立。新語・流行語の紹介からトリビアネタまで幅広い執筆活動を行う。雑誌・書籍の編集もフィールドの一つ。クイズ・パズルプランナーとしては、様々なプロジェクトに企画段階から参加。テレビ番組やソーシャルゲームにも作品を提供している。『書けそうで書けない小学校の漢字』(永岡書店)など著書・編著多数。
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