高齢化が進み、特別養護老人ホーム(特養)などの施設が不足するなか、国が整備を進めてきたのが「サービス付き高齢者向け住宅」(サ高住)だ。2011年に改正された「高齢者住まい法」によって誕生した高齢者向け住宅制度で、ケアの専門家による安否確認と生活相談などの見守りサービスが義務付けられている。希望すれば、家事援助やデイサービスなどの介護保険も利用できる。住宅事業を提供する登録事業者には、国から建設費の助成、税制優遇、低利融資が受けられるため、登録開始から3年弱で4932棟、15万8579戸まで急増した。

 サ高住の運営母体は、介護関連サービス業や医療法人、社会福祉法人、不動産・建設業、NPO法人など多岐にわたっており、必ずしも高齢者介護に精通しているとはいえない事業者も参入している。なかには介護の専門知識も理念もないのに、たんに相続・事業承継の税金対策として社会福祉法人を立ち上げ、サ高住を始めたという経営者もいる。そのためサービスの質にはバラツキがあり、監督官庁のひとつである国土交通省も9月に「サ高住の整備のあり方を検討する有識者会議」を立ち上げ、実態調査に乗り出している。

 このサ高住がいわゆる「介護漬け」の温床になっていることが一部の新聞に報じられ、問題となっている。

 たとえば、必要以上に家事援助や入浴の回数を組み込んだり、介護保険で利用できるサービスの限度額いっぱいまで一律にケアプランを設定したりするなどの事例だ。また、本来なら利用者が自由に選べるはずの介護サービスの内容や提供先の事業者が運営会社にコントロールされ、グループ会社の介護サービスを利用することを入居条件にするなど、法令に触れる行為も見られるという。

 こうした事態を減らすためには行政による監視の強化も必要だが、介護保険の構造にもメスを入れる必要があるだろう。

 介護保険は、要介護度に応じて利用できるサービスの限度額が決まっており、その枠の中で使った分だけ料金が加算される仕組みだ。実際に利用者が支払うのは、今のところ実際にかかった介護費用の1割だ。事業者側から見れば、サービスをたくさん提供したほうが利益をあげられるため、本来必要のないものでも限度額いっぱいまで、サービスを詰め込むケアマネージャーもいて、以前から問題になっている。

 良心的な介護事業所でサービスを受け、リハビリ効果がでると、要介護度が下がることもあるが、必要とするサービスも少なくなるため、反対にその事業者の収益は減ることになる。つまり、介護度の高い利用者に画一的なサービスを続けていくほうが、要介護度を下げ、利用者のQOLをあげるサービスを提供するよりも事業者は安定的に経営していけるのだ。

 介護漬けを問題視するのであれば、インセンティブを働かせるために、スタッフたちの努力によって要介護度が下がった利用者の割合が多い事業者を評価するような仕組みの導入も必要だろう。

 その一方で、介護漬けを横行させているのは利用者のお任せ体質にも問題がある。

 介護保険は、ケアプランを作成して、毎月、どのような介護サービスを受けるかを決めていく。ケアプランの作成には専門的な知識が必要で、手続きも煩雑なので、現在は99%の人がケアマネージャーに依頼している。

 しかし、ケアプランは、必ずしもケアマネージャーが作らなければならないと法律で規定しているわけではなく、利用者やその家族が作成して届け出ることも可能だ。「自分では、どんなことができるか」「介護が必要になるまでは、どんな生活を送ってきたのか」「趣味や好きなこと」などを整理してみると、本当に必要なサービス、介護保険を使わなくても地域の人やボランティアの力を借りて解決できるものが分かるようになる。

 最終的な事務作業はケアマネージャーに依頼するにしても、自分や家族にどのような介護サービスが必要なのかを自ら考えてみることは無駄ではない。

 超高齢化を迎えて介護給付費は右肩あがりに上昇を続けている。介護漬けから脱出するには、悪質業者の取締強化とともに、利用者も制度を自律的に使うことを考えたい。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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