かつて隆盛をきわめた飲食店の「クーポン商法」が廃れている。経営の門外漢からすれば、なるほど、割引で美味しさを認識してもらえばリピーターになってくれるわけだから、わかりやすい商法だと考える。ところが、現実はそうはいかない。「クーポンを利用するお客」は、その有効期間にしか来店しないというマーケティングのデータがあるという。そもそも美味しさにこだわりのないタイプなわけだ。

 クーポンの話だけではない。バーゲンセールのときにだけ買いにくるお客という層がいて、品揃えやショップ自体にはさほど関心がない場合が多い。こういった消費者たちを、「うまそうなサクランボをちょっと摘まんだだけで帰る」というニュアンスで、「チェリーピッカー」と呼んでいる。

 じつは、チェリーピッカーに占拠された結果として、ふだんからお店を利用している客層が離れることもある。欲しい商品が買えなかったり、または買うまで待たされるといった状況を招くからだ。常連にとっては、店の雰囲気を壊すようなわずらわしい客が増えることにもなる。いま、店舗経営にとってチェリーピッカーは「対策」すべき存在と化している。となれば、デフレ脱却が進んでいる現在、クーポンは御役御免といったところなのだろう。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   


結城靖高(ゆうき・やすたか)
火曜・木曜「旬Wordウォッチ」担当。STUDIO BEANS代表。出版社勤務を経て独立。新語・流行語の紹介からトリビアネタまで幅広い執筆活動を行う。雑誌・書籍の編集もフィールドの一つ。クイズ・パズルプランナーとしては、様々なプロジェクトに企画段階から参加。テレビ番組やソーシャルゲームにも作品を提供している。『書けそうで書けない小学校の漢字』(永岡書店)など著書・編著多数。
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