お店に持参するだけで割安に昼食ができる『ランチパスポート』が、全国的な広がりを見せている。

 『ランチパスポート』(通称、ランパス)は、飲食店を紹介する新しいタイプのグルメ本で、価格は1000円程度。グルメ情報がインターネットで簡単に検索できてしまう時代に、なぜ、このような本が売れているのだろうか。

 実は、ランパスにはお得な特典があり、紹介されているお店に持参すると、通常700~1200円程度するランチメニューが、500円のワンコインで食べられるという仕組みになっている。たとえば正規価格が1000円のランチなら、ランパスを2回利用すれば、それだけで書籍代の元がとれてしまう。ランチにかけるお金を節約したい人たちには、うれしい仕組みだ。

 ランパスの火付け役は、高知県のタウン誌を出版する「ほっとこうち」。飲食店PRの一環として2011年にタウン誌の別冊として創刊すると、あっという間に完売したという。手応えを感じた「ほっとこうち」は、翌年、「ランチパスポート」を商標登録して、ほかの出版社などがウェブでランパスを作成できるシステムを開発。全国のタウン情報誌や出版社に、このシステムと使用料を販売する新ビジネスを開始したのだ。

 「ほっとこうち」はパッケージ使用料がとれ、ほかの出版社は書籍が売れる。飲食店は掲載料(広告料)無料でお店の宣伝ができて、利用客は割安にランチを食べることができる。ステークホルダーすべてにメリットがあるため、それぞれの地域でランパスが販売されるようになり、この仕組みは瞬く間に全国に広がっていったのだ。

 ただし、ランパスには、(1)使用期限は3か月、(2)ひとつの飲食店で利用できるのは1冊で3回まで、(3)利用できるのはひとりだけで、1冊を複数人で使い回しできない、といったルールがある。また、掲載されている店舗は100軒程度で、ランパスを使って食べられるメニューや数量も限られている。どこのお店でも使えるわけではなく、やっとたどり着いたお店でもお目当てのランチが売り切れていることもあるようだ。

 だが、上手に使えば、新しいお店が開拓できて、ランチ代も浮かせることもできる。このままいけば、来年10月には消費税が10%に引き上げられるため、再び、庶民のお財布の紐は堅くなることが予想される。そんな中で、大きな広告に頼らずに、いかに消費を伸ばしていくか知恵を絞ったランパスの仕組みは、新しいビジネスの息吹を感じさせる。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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